愛しのプチデビル後輩との『第1回 チキチキ☆パンツ
台車の上に置かれた本日の朝食であるお雑炊が冷めないように、やや
もちろんその際心の中で「いっけぇぇぇぇっ! マグナームッ!」と叫ぶのも忘れない。
「――おはようございます、マリア様。ロミオゲリオンです」
『うむ、入れ』
マリア様のお部屋の前に到着し、軽く3回ノックするなり、部屋の奥から鈴の音を転がしたような声が響いてきた。
俺はお言葉に甘え、ゆっくりと扉を開け、ここまでミニ四駆ばりに疾走してきた台車を慎重に部屋へと入れていく。
途端にマリア様から「遅いぞ、バカ者がっ!」と
「今日は遅かったではないか下郎。何かあったのかえ?」
「へっ?」
「むっ? なんじゃ? そんな
あ、あれ?
叱責が飛んで来ないぞ?
お、おかしいな?
いつもならこのタイミングでドM大号泣の罵詈雑言の嵐が俺を襲うハズなのに……。
やっぱりまだ体調が悪いのだろうか?
と、俺は天蓋付きのベッドから身を起こしてコチラを見ているマリアお嬢様を注意深く観察するのだが……何故かマリアお嬢様は俺と目が合うなり、ぷいっ! とそっぽを向いてしまった。
「れ、レディーの寝起きの顔をそんなにジロジロ見るでないわ! この
「あっ、よかった。いつも通りですね」
『ほっ』と安堵に胸を撫で下ろしながら、頬に朱が差し込んでいるマリアお嬢様のもとまでしずしずと近づく。
う~ん?
パッ! と見た限りだと昨日よりは体調が良さそうだ。
「今日は調子が良さそうですね、マリア様」
「まぁ昨日よりいくらかはマシと言ったレベルじゃな」
そう言って俺の用意した濡れタオルをいそいそと受け取るなり、そのお人形さんのように整ったお顔をふきふきし始めるマリアお嬢様。
その間に台車から適温に温めた雑炊を取り出す。
「ふぅ……。さて、
「さすがはマリアお嬢様。正解です」
と軽口をたたきつつ、彼女の使用した濡れタオルを受け取り、代わりに雑炊を差し出す。
のだが……何故かマリア様は俺の作った雑炊を受け取ろうとしない。
並みの男であればここでオロオロした挙句、無意味に脱衣に走り、マリアお嬢様の目の前で激しく腰を前後に振っている所だろうが、俺はそんな無様なマネはしない。
出来る男であるロミオ・アンドウはマリアお嬢様が何を言いたいのかをいち早く察すると共に、いそいそと雑炊をワゴンの上に乗せ、その場を去ろうと腰をあげる。
ふっ、ロミオゲリオンはクールに去るぜ。
「申し訳ありませんマリア様。今日は雑炊の気分じゃありませんでしたよね? すぐ作り直してきますので、もう少々お待ちください」
「ま、待て下郎。別に良い、雑炊で良い」
いいから座り直せ、とマリアお嬢様がキッチンへと突貫しようとしていた俺をやんわりと
あ、あれれ?
さっきの無言の圧力は「作り直せ、このスカタンがぁっ!」って意味じゃなかったの?
俺は心の中で1人困惑しながらも、言われた通り、再びマリア様の近くに腰を下ろした。
途端にマリア様が何故か上ずった声音で、
「よ、よいか下郎? これからキサマに正しい使用人としての在り方を叩きこんでやるわ」
「は、はいっ! よろしくお願いしますマリア様ッ!」
「うむ、良い返事じゃ」
そう言って満足気に微笑むマリアお嬢様に、俺は感動で胸がいっぱいになっていた。
ご自分の体調が優れないときでも、俺がジュリエット様に人間だとバレないようにしっかりと教育を
どれだけお優しいんだ、この人は!?
ジュリエット様にお
「さて、朝餉の際のマナーじゃが……使用人は昨日と同じように主人に『あ~ん』して食べさせてあげねばならぬ」
「そ、そんなルールがあったんですね!?」
「う、うむ。ちなみにその際、『ふぅふぅ』してやることも忘れてはならぬぞ?」
マリアお嬢様は俺と目を合わせず、雑炊だけを一心不乱に睨みつけながら、やや早口気味にそう
な、なるほど。
上流階級の使用人はそんなバカップルのようなコトを主様にしてあげるのがマナーだったのか。初めて知ったぞ。
それと同時に今までの自分の不作法に
ほんとよく今までジュリエットお嬢様に人間だとバレなかったな、俺。
「あ、あのマリア様? さっそくですが、実践してみてもよろしいでしょうか?」
「か、構わぬ。よ、よきにはからえ」
何故か緊張気味のマリアお嬢様に、俺は意気揚々と雑炊の蓋を開け、用意しておいてレンゲでホカホカに温まったソレをすくう。
もちろんマリアお嬢様の助言通り『ふぅふぅ』してやることも忘れない。
「では失礼して……マリア様、『あ~ん』してください?」
「あ、あ~ん」
そのプルプルの愛らしいお口を目いっぱい広げる彼女。
その庇護欲をそそる
バカ野郎ッ! マリアお嬢様は俺のためを思って使用人のイロハを叩きこんでくれているんだぞ!?
それなのにロミオ、おまえって男は……恥を知れッ!
そういえば話は少し変わるんだが、我が叔父、大神士狼さんが『女の子は恥じらいを覚えると一気にエロくなるぞ』なんて世迷言を言っていたっけ。
つまり女の子に「恥を知れ!」と言うのは「性に目覚めろ!」と言っているようなモンだから、堂々とセクハラしている気分に浸れて最高だッ! とか何とか言っていたけど……当時4歳の息子と甥っ子にする話じゃねぇよな、コレ。
ほんと息子共々、頭とお股のネジがゆるゆるで困ったモノだ。
なんて昔を懐かしむフリをして、心の平静を保つ。
よしっ。俺のモスラも落ち着いてきた、イケる!
「はい、『あ~ん』?」
「あ~……あむっ」
ぱくっ! と雑炊の乗ったレンゲにむしゃぶりつくマリアお嬢様。
そのままモチャモチャ♪ と
「ふむ、今日は美味しいのぅ。妾はあまり
「あっ、本当ですか? よかったぁ。実はコレ、ウチの母親も好きな料理の1つなんですよ。サッパリと柚子の風味が利いていて食べやすいですよね?」
「うむ、食べやすい。気に入った。また作ってくるがよい」
そう言って再び口をあけて、『あ~ん』をねだってくるマリアお嬢様。
気分を良くした俺は、FPSでドン勝したウチのママンのようにニコニコ♪ と笑みを深めながら、彼女に雑炊を『あ~ん』させていく。
やっぱり誰かに「美味しい」と言ってもらえると作りがいがあるよな……って、あれ?
何気にマリア様が
「これ下郎。手が止まっておるぞ? もっと『あ~ん』せんか」
「――あぁ、申し訳ありませんっ!」
マリア様に
そしてソレを満足そうに頬張るマリア様。
ほんのちょっとだけ彼女との距離が縮まったような、そんな気がした朝のひとときであった。