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第六十話/『京』

「と、言うわけなんだ」

国王とのお茶会はお開きとなり、アンナはシュテン達の待つ宿屋へと戻った。

無論、山賊退治の依頼をしっかり押し付けられての帰還だ。

アンナは事の顛末を申し訳なさそうに報告する。

「すまん、押し切られたんだ…」

「まあそれは分かったっスよ、それで…」

マンジュは横を向く。

「お初にお目にかかる、カティ=グラミネリードと申します」

「は、はぁ…」

引き攣った笑顔のメイと握手を交わすカティの姿がそこにあった。

「…なんで騎士団副団長サマがこんなとこにいるんスか?」

「それはだな…」

アンナが説明するのを、当人が遮る。

「某から頼んだのだ。王国としても一人は公職者がいた方がいいからね、立候補したのだ」

カティはメイの手を握ったままマンジュへ返答した。

「マンジュ、今回は彼女と臨時パーティを組んでの依頼なんだ」

「…国のメンツって奴っスか」

「それ以上に、某が興味を持ったんだ。君たちの戦いにね」

カティはメイの手を丁寧に離すと、シュテンの肩を叩く。

「いい物が見られると信じている」

「あァ…?」

カティの笑みに、シュテンは怪訝な顔を返した。

「山賊狩りっスか…騎士団が負けるって、それほんとに賊なんスか?」

「一応報告では、人間十数人で構成されていたとの事だ。魔物の気配は無かったと」

カティの報告をマンジュは訝しむ。

「ほんとっスかぁ?どうも妙っスよその話」

「お、おいマンジュ!」

マンジュを諌めようとするアンナを、カティは制した。

「いいのだ、全て某も考えていた事…全て、この目で確かめれば分かる」

マンジュは頭を掻いて黙り込む。

「と、とにかく!各自準備に移りましょう!賊の潜伏場所は分かっているのですか?」

メイが手を叩いて前へ出た。

「いえ、ただ西の山を根城にしているとしか分かってはおりませぬ。しかし、山沿いの街道なら日中帯に出没するようで」

メイは時計を見る。

「なら…一刻後に出発致しましょう!それまでに準備を整えて集合、という流れで如何ですか?」

メイが全員の顔を覗う。

「アタシはそれでいいっスよ!」

「私もだ、いつでも行ける」

「某は王宮で準備を終わらせて来た故、いつでも構わん」

「ん…あァ」

「はい!ではそれで決まりです!では準備して参りますね!」

メイはそそくさと自室へ向かって行った。

「あ、姐さん!アタシも行くっスー!」

その後をマンジュもドタドタと走って行った。

「賑やかなパーティであるな、アンナ嬢」

「いやぁ、ははは…」

アンナは頬を掻いた。





一時間後、装備を整えたメイとマンジュが部屋から出てくると、すぐに宿を出た。

「西の街道までは外を通った方が速い。皆、付いて来てくれ」

カティの案内で、王京の外へ出る。

「しかし、やっぱ王京はデカいっスねぇ」

「そりゃ、世界の中心たる『みやこ』だからな…領都なんかとは比べ物にならんだろうな」

「……ミヤコ、かァ」

シュテンはふと、同じ名前で呼ばれながらも、こことは似ても似つかないあの場所の事を思い出していた。

生まれて直ぐに流れ落ち、寒さを凌ぎ、人の目を盗んで生き抜いたあの場所を。

「シュテン殿?どうかされましたか?」

メイが袖を引っ張る。

「…いや、なんでもねェ。少し昔居た所を思い出しただけだァ」

「タンゴ…だったか?そんなに栄えた場所なのか?」

アンナが王京を一瞥する。

「…いや、あの場所はァ…」

シュテンにとっては、良くもあり悪くもある記憶だ。

あの橋で、酒呑童子は最初の家来を持った。

「……」

奴はあの後、大江山から逃げきれたのだろうか。

あの鬼は、生き延びていたのだろうか。

多くの鬼達が酒呑童子の前で殺されていく中、ひと握りの精鋭たちがどう戦って死んで行ったのか、シュテンは多くを知らない。

しかし、あの場を生き抜いた鬼がいたとしても、酒呑童子亡き世では鬼が長生きする事は出来ないだろう。

それほどの力を、酒呑童子という鬼は持っていたのだ。

「シュテン殿…?」

メイが声を掛けたその時、カティが足を止めた。

前を見ると、数人の男が道を塞いでいる。

「姉ちゃん、いい装備じゃねえか」

「…西の山を根城にしてる山賊とは、貴様らか」

カティは、物怖じしないハキハキとした声で返す。

「ほお、俺らのこと知ってんのか」

男が合図を出すと、周りの茂みから次々に仲間が出てくる。

「じゃあ話が早ぇや、身ぐるみ全部置いてけや」

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