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第六十二話/茨木

 茨木童子は、酒呑童子を取り巻く鬼のひとつである。

一味の中で、酒呑童子に次ぐ力の持ち主であり、固有の技も使う。

先程の腕を伸ばす技も、そのひとつだ。

「会いたかったですぜカシラぁ」

「おめェ、どうやってここに…」

騒ぐ鬼達の周りで、人達は総じて戸惑っていた。

「な、何が起きたのだ…?」

特に、直接シュテンの戦いを見た事のないカティには理解が追いつかない光景である。

「姐さん、あの山賊は知り合いっスか?」

「いえ…私も初めて見る方です」

「シュテンの古い知り合いっぽいが…」

三人は息を呑む。

初めて見る「鬼」に戸惑いが隠せない。

その中でも、メイが動いた。

シュテン達へ近づいていく。

「えっと…すみません、イバラギ殿、でしたか…貴方もシュテン殿と同じオニ、と言う事で…」

メイが言葉を紡ぐ中、イバラギはピタリと動きを止めて、メイを鋭い眼差しで睨み付けた。

「っ!?」

「…人間めが」

憎悪に満ちたその視線に、メイは身動きが取れなくなる。

「鬼道・汎技」

次の瞬間、妖力がイバラギの身体から溢れ出してくる。

それはイバラギとシュテンの身体を包んでいく。

「!?…おィ、茨木やめ」

「『金碧鬼煌』」

瞬間、纏った妖力が眩しい閃光となって一帯を包んだ。

「っ!?」

「ぐああっ!?」

その場に居た全員が視界を奪われ、特に山賊達の悲鳴が場を包む。

「シュテン殿!」

メイは名を叫び、手探りで前へ進む。

「シュテン殿…?」

二、三歩ほどの距離にいた筈のシュテンへ触れない。

「シュテン殿!!」

返答もない。

次第に視力が回復し、ゆっくり目を開ける。

そこに、シュテンの姿は無かった。

「シュテン殿?…シュテン殿!?」

同じく視界を取り戻したマンジュ達がメイへ駆け寄る。

「あの女…シュテンごとどっかに消えやがった!」

「おい山賊ども!アニキを何処へ連れてったっスか!」

「し、知らねぇ…俺たちは知らねぇよ!」

「嘘つくんじゃねぇっスよ!一体何企んでやがるんスか!」

「マンジュ嬢、どうやら彼等は本当に知らないようだ」

ダガーを抜いて詰め寄ろうとするマンジュの肩をカティが叩く。

アンナは呆けているエンゲンへ剣を向ける。

「おい、テメェらのアジトを吐け!そこに居るんだろ!?」

「さ、さぁな…親方はアジト以外にご自分の拠点を持ってる…この山の中の何処かだ」

アンナが剣を揺らす。

「その拠点は何処だ」

「そこまでは俺らも知らない…本当だ」

「…………チッ」

大剣を地面へ、乱暴に振り下ろす。

「アンナ嬢、ここからは分かれよう。すまないが某は、この山賊たちを連行しなければならない」

「…ああ、わかった。あの女は私達で探そう」

「…………」

メイはシュテンが立っていた地面を見詰める。

「…シュテン殿」

イバラギは、シュテンと似た技を使っていた。

シュテンは、自身の技はオニの技であると言っていた。

「やはり…イバラギ殿はオニ…」

メイはイバラギに向けられた視線が頭に焼き付いていた。

嫌悪感をそのままぶつけるような目で、彼女は「人間めが」と呟いた。

オニであるシュテンと明確に区別した上で、メイは人間として拒まれた。

それほどの経験を、イバラギはしてきたのか。

いや、そうではない。

シュテンもだ。

出会ったあの時から、シュテンの言動には違和感があった。

メイは足元に転がっていた、シュテンの額当てを拾い上げる。

「オニの過去に、何があったのですか、シュテン殿…?」

西の空に向かって、メイは疑問を投げかけた。

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