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第六十六話/鬼対鬼

 西の山に爆発音が轟く。

壁が崩れて、折り重なった瓦礫を掻き分けて、シュテンが立ち上がる。

「…鬼道・濫技」

体内の妖力を高める。

循環を促進し、全身から放出する。

「『一鬼当千』」

「らあああああっ!」

発動と同時に、間合いに入ったイバラギが拳を振り下ろす。

消えかけていた土煙が再び充満する。

その中でシュテンは、イバラギの拳を抑えていた。

パキパキと音を立てながら、シュテンの角が成長する。

妖力を高める「一鬼当千」により、身体機能とともに姿形も、少しだけ鬼へと近づいたのだ。

「ぐ…おおおおおおおっ!」

「…………っ」

しかし、イバラギに押され始める。

「だあっ!」

イバラギがシュテンを蹴り飛ばすと、シュテンの身体は横へ大きく吹き飛ばされる。

側面の壁へと土煙を立てて衝突する。

壁板が崩壊する音の中、土煙が消え次第に木材に埋もれたシュテンの姿が露わになっていく。

「なんてザマだぃ…そんなんでオイラに灸を据えられんのかぃ!?」

シュテンは無言で立ち上がる。

「鬼道を使ってその程度たぁ、天下の酒呑童子が聞いて呆れるぜカシラ…早ぇとこ鬼に戻りな」

シュテンは黙って肩の煤を払う。

「…そうかぃ、それじゃあもう一発喰らいなぁ!」

イバラギが拳を構えて跳ぶ。

「うおらああああああっ!」

「…………っ!」

シュテンはその拳を手で受ける。

「ん…………俺ァ、鬼には戻らねェ……ッ!」

「……っ」

イバラギは拳を引くと、一歩後ろへ跳んだ。

「…なんで……なんでなんでぃカシラ!どうして鬼の力を捨てちまった!」

シュテンが息を整えている間に、イバラギは捲し立てる。

「人間なんて弱ぇくせに楯突いてくるような馬鹿ばっかりで、汚ぇやり方で鬼を滅ぼしたような奴らだぜ!?」

「…だから、だァ」

ゆっくりと顔を上げ、シュテンはイバラギの目を見る。

「…なんだって?」

「俺たち鬼はァ、人間とは相容れねェ…だがなァ…」

顔を挙げてイバラギをまっすぐ見据えた。

「鬼が鬼のままじゃァ、人間は受け入れようとはしねェ…その結果が大江山での俺たちだァ」

シュテンは続ける。

「だがもし俺たちが人間として生きる事が出来てたらァ…もうあんな事は起こらねェんじゃァねェか?」

「人と、して…」

「まァ、今の俺ァ完全な人間じゃァねェから、人間達を騙してるようなもんだがなァ」

シュテンが自分の手を見つめる。

「だけどなァ…俺の仲間達は、俺のこの力ごと認めてくれたんだァ…平安京に居た頃じゃァ考えられねェ事だが、俺ァ少しずつ、人間に近づけてる気がすんだァ」

シュテンはイバラギへ笑いかける。

「まだまだ分からねェ事ばかりだが、悪くねェ気分だぞ、人間になるってのはァ」

「………………な」

イバラギが顔を上げる。

「ふざけんじゃねぇ!」

直後、イバラギの拳がシュテンの顔面を捉える。

シュテンの身体は再び横に飛び、背面の壁を抉りながら弧を描く。

「こんな所まで来たってのに…完全に腑抜けやがって!」

イバラギが左腕に妖力を集める。

「オイラが求めたのはアンタじゃねぇ……!」

妖力の高まりにつれ、左手が膨張していく。

「今のアンタに値打ちはねぇ…これ以上醜態を晒さねぇうちに引導渡してやらぁ!」

膨れ上がった左手は鋭い爪となる。

それを振りかぶり、シュテン目掛け飛んだ。

「鬼道・装技『意鬼消沈』ッ!!!」

シュテンがかつて黒龍相手に使ったこの技は、イバラギが使う固有技を妖力の塊で模倣したものである。

威力は、オリジナルの方が上回る。

「死ねぇぇぇっ!」

鬼の爪は確実にシュテンを捉え、振り下ろされた。

だが、金属音と共に爪はシュテンより手前で止まった。

「あぁ!?」

「お前ェ…」

「ぐっ…」

イバラギの爪を阻んだのは、メイが構えた魔剣ドウジギリであった。

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