「アニキ!」
「シュテン大丈夫か!?」
マンジュとアンナがシュテンへ駆け寄る。
「お前ェら…」
「待ってるっス、すぐ回復を…」
マンジュが魔導鞄に手を入れようとするのを、クロが拒んだ。
「クロ?」
クロはそのままシュテンの首に移動すると、シュテンを魔力が包む。
どうやらクロが回復魔法を使っているらしい。
クロはマンジュとアンナに目配せし、視線で前の方を指す。
「…ここは任せて姐さんを加勢しろ、って事っスか?」
「ったく、道案内も完璧でつくづくお前は出来た蛇だよ」
「アニキ、動いちゃダメっスからね!」
「大人しく回復してろ、いいな?」
「…あァ」
二人が立ち上がり前へ出る。
「はああああっ!」
メイが鬼の爪を弾く。
「っと…んだぁテメェら!?」
イバラギが吠える。
「そこを退かねぇか人間ども!」
「退きません!ここからは絶対に、退きません!!!」
「なら腕ずくで退かしてやらぁ!」
イバラギが腕を振ると、その軌道上へ大剣を盾がわりにアンナが突っ込んでくる。
「ぐおっ!?」
イバラギの裏拳を中心で受けた大剣ごとアンナが横に転ぶ。
「そっちがその気なら、こっちも手加減出来ないっスよ!腕の一本は覚悟してもらうっス!」
隙を突いてマンジュがダガーを振る。
イバラギの右肘付近に当たったダガーだったが、根元が砕けて刃先が宙を舞う。
「げっ!?」
「…おいおいマジか」
一方のアンナは、拳の形にひしゃげた愛剣を見て苦笑いを浮かべていた。
「分かったろ!オイラには敵わねぇ、さっさと退かねぇと命はねぇぞ!」
イバラギが大声で脅すが、マンジュは無言で魔導鞄へ手を入れ、アンナもゆっくりと立ち上がる。
メイは変わらず、刀を鞘に納めたままイバラギを見据えていた。
「なんだ…なんなんだてめぇら!命が惜しくねぇのかぃ!」
「いいや惜しいさ、気ぃ抜いたら膝がガクガク言いそうだ」
「それでもアタシらには、譲れない物があるっスよ」
「上等だ…てめぇら纏めて掛かって来やがれ!」
イバラギが腕を掲げると、妖力が手先から放出され、複数の腕を象っていく。
「だああああっ!」
イバラギが吼えるのを合図に妖力の腕が四方へ飛んだ。
「来るぞ!」
アンナが剣を盾代わりに構えると、自身目掛けて飛来した腕を力いっぱい弾く。
「ぐあっ!」
反動で構えが崩れ、剣を落としかけると、すかさず別の腕が胸当てへ張り手する。
「だああっ!?」
その衝撃で後ろへ転がる。
「くっ…」
なお対面ではマンジュが、魔導鞄より取り出したグラディウスで腕と対峙していた。
「このっ!」
飛び回る腕に対し剣を振り回すが、どれもひらりと躱される。
「こいつっ!」
マンジュが追撃を仕掛ける。
上段に振り上げ、腕に向かって真っ直ぐ振り下ろす。
腕は拳を握って迎撃する。
その拳は剣身を捉え、グラディウスは触れた部分から真っ二つに折れた。
「なっ…がっ!?」
拳の勢いは止まらず、剣を貫通してマンジュの額へ吸い込まれる。
頭へ衝撃を受けたマンジュは反動で仰け反り、そのまま後頭部を床に打ち付ける。
「っ…...!」
マンジュは頭を抱えて蹲ってしまう。
「はああああっ!」
「っ!?」
メイが刀身で腕たちをいなしつつ、イバラギへと突進を仕掛けた。
刀を逆刃に持ち、八相から斬り掛かる。
イバラギは右腕を掲げて防ぐと、そのまま弾く。
メイの姿勢が崩れた隙に左腕を振る。
「っ!?」
だが、振りかぶった左腕は何かに引っ張られ振り下ろせない。
見ると、触手が絡みついている。
マンジュが、ガンガンと揺れる視界の中、土壇場で床に突き刺したテンタクルスコップの成果だ。
定まらない焦点のまま片手で頭を抑え、歯を食いしばりながらスコップの柄を握っている。
「鬱陶しい…っ!」
イバラギが右腕に力を込めて触手を引きちぎる。
「隙ありだっ!」
「あぁ!?」
一瞬後ろを向いた間に正面を取っていたアンナが大剣を振りかぶるが、イバラギはそんなアンナの脇腹を叩いた。
「ぐふっ…」
アンナはくの字に折れ、横に吹き飛んだ。
「はああっ!」
「!?」
その影からメイが飛び出す。
慌てて腕を出すが間に合わない。
「ぐあっ!?」
肩甲骨が刀身を受け止め、衝撃で腰が反る。
「ぐ…この…っ!」
「く…っ」
力いっぱい抑え込むメイだったが、鬼の力に為す術なく押し返されていく。
イバラギはメイの腰を掴み、下がれないようにしていた。
「ほら…早く退かねぇと、自分斬っちまうぞ…」
峰に構えられた刀身が、自身へと近づいてくる。
「ぐ…ぬぬ…っ」
みるみるうちに距離は詰められて行き、刃先が首筋と肉薄する。
「姐さん!口開けるっス!」
その時、マンジュが何かを放り投げた。
「え!?なん…あむっ!」
メイは訳も分からず口で捕らえる。
「早く飲み込むっス!」
「!?」
困惑しながらも、そのカプセル状の何かを飲み込む。
「…っ!」
「なっ…」
すると、みるみるうちに刀が押し戻って行く。
「ぐっ!」
遂には、刀身がイバラギの体を捉えた。
「くっ…!」
それは鬼の力を持ってしても、覆すことが出来そうになかった。
「お…おい…マンジュ、何投げたんだ…」
腰を抑えて蹲ったままのアンナが問うと、ようやく立ち上がれそうなマンジュが返す。
「筋力値上昇の即席魔法薬っス…京内で売ってたの、買っといて良かったっス…」
「ぐ…そんなもの、に…ぐあっ!」
メイが更に力を掛けると、イバラギが膝をつく。
そしてメイが口を開く。
「…勝負あり、ですね」