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第六十九話/仲間ということ

「イバラギ殿、もう少しの辛抱ですよ…」

三人がかりでイバラギを担ぎ、下山を目指す。

「……なぁ」

イバラギはメイの方へ声をかけた。

「はい?」

「……さっきの攻撃、なんで避けなかった」

「え?」

「あの、ゲンジとか言う奴の攻撃…あんたらは避けられたろ」

「それ…マジで言ってんスか?」

逆側を支えるマンジュが怪訝な顔を向ける。

「あぁ?」

「アタシらはアンタの仲間だって言ったっスよね?」

「仲間…」

イバラギは考えるように正面に視線を移す。

「…仲間、か」

アンナが後ろから肩を叩く。

「とにかく急いで降りるぞ、話はそれからだ」

「杖はいつでも出せるっス、安全な所まで急ぐっスよ」

全体のスピードが心做しか上がったその時、イバラギが足を止めた。

「イバラギ殿?」

メイが横を向くと、イバラギは上を見上げていた。

その視線を追いかける。

「マジっスか…」

マンジュの顔が引き攣る。

木々の間に見える明るい月を背景に、魔族ゲンジのシルエットが浮かび上がっている。

「おい…シュテンはどうしたんだよ」

「彼なら今頃、俺の技に酔いしれてる所だな。もう会うことも無いだろう」

自信満々のゲンジを、イバラギは笑い飛ばす。

「はっ…お前ぇ、カシラを舐めちまったなぁ」

「なに?」

「カシラはこんな所でくたばるような根性してねぇのさぁ…すぐに追いついてきやがるぜぇ」

今度はゲンジが笑う。

「なら、その前にお前達を片付けるまでだ」

ゲンジは右手に魔力を集め始める。

「くっ…」

メイが鯉口に手をかける。

「…イバラギ殿?」

それを、イバラギが制した。

「あんたらは、ここで見てな」

「え?」

「今度は…オイラの番だ」

相手を見据えたまま、小さく呟いた。

「なにを…」

「鬼道・濫技『神出鬼没』」

メイ達に掛かっていた体重が一瞬にして消える。

「なっ!?」

イバラギはメイの前方10メートル程の距離へ移動していた。

「鬼道・装技『不鬼磊落ふきらいらく』」

妖力の渦がメイ達三人を包み込み、ドーム状になって定着する。

「なんですかこれは…」

「結界だ、オイラと同じくらい硬ぇな…」

メイが結界を叩く。確かに硬い。並大抵の攻撃では歯が立ちそうになかった。

「なんでこんな…解いてください!」

「いいや駄目だね」

「なんでっ!」

振り返ったイバラギが、メイへ微笑みを向ける。

「こういうモンなんだろ?仲間っつーのは」

「イバラギ殿っ!」

「カシラは必ず来る…それまでオイラが時間を稼いでやらぁ」

「おいマズイぞ!あんな身体で戦ったら!」

アンナが叫び、剣を結界に突き立てる。

「駄目だビクともしねえ!おいマンジュ!なんかねぇのか!?」

「今やってるっスよ!」

マンジュが魔導鞄に両手を突っ込んで得物を探す。

「随分威勢がいいな、イバラギ」

一方、結界の外ではゲンジがゆっくりと降下し、イバラギと対峙する。

「自分から一人になるとは…こちらとしても好都合だが」

イバラギは腹から突き出た刀身を指先で叩く。

「コイツの礼もまだしてねぇからよ」

「トドメが欲しいなら素直にそう言うがいい」

イバラギは一笑に付し、自身の腹から突き出た刀身をなぞる。

「この刀ぁ…髭切だなぁ…因縁深ぇもんだまったくよぉ」

イバラギは左手に妖力を込める。

「魔族だか何だか知らねぇが、タダじゃぁ済まさねぇ」

「ほう…なら、こういうのはどうだ?」

ゲンジが魔力の塊を放出すると、徐々に形となってイバラギの前へ仁王立ちする。

「…へぇ」

それは、イバラギそのものだった。

「分身と戦わせようってのかぃ」

「物足りないか?」

おまけだと言わんばかりに、魔力を放出する。

イバラギの分身が更に三体現れる。

「勿論、一体一体が本物と互角のパワーを持っている。これだけ居れば十分だろうが…お望みとあらば、何体でも出そう」

「…舐めた真似してくれんじゃねぇかぃ」

イバラギは左手と同様に、右手にも魔力を込める。

「やってやろうじゃねぇか…後ろの連中には、いや…オイラの仲間たちには指一本触れさせやしねぇッ!」

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