「イバラギ殿、もう少しの辛抱ですよ…」
三人がかりでイバラギを担ぎ、下山を目指す。
「……なぁ」
イバラギはメイの方へ声をかけた。
「はい?」
「……さっきの攻撃、なんで避けなかった」
「え?」
「あの、ゲンジとか言う奴の攻撃…あんたらは避けられたろ」
「それ…マジで言ってんスか?」
逆側を支えるマンジュが怪訝な顔を向ける。
「あぁ?」
「アタシらはアンタの仲間だって言ったっスよね?」
「仲間…」
イバラギは考えるように正面に視線を移す。
「…仲間、か」
アンナが後ろから肩を叩く。
「とにかく急いで降りるぞ、話はそれからだ」
「杖はいつでも出せるっス、安全な所まで急ぐっスよ」
全体のスピードが心做しか上がったその時、イバラギが足を止めた。
「イバラギ殿?」
メイが横を向くと、イバラギは上を見上げていた。
その視線を追いかける。
「マジっスか…」
マンジュの顔が引き攣る。
木々の間に見える明るい月を背景に、魔族ゲンジのシルエットが浮かび上がっている。
「おい…シュテンはどうしたんだよ」
「彼なら今頃、俺の技に酔いしれてる所だな。もう会うことも無いだろう」
自信満々のゲンジを、イバラギは笑い飛ばす。
「はっ…お前ぇ、カシラを舐めちまったなぁ」
「なに?」
「カシラはこんな所でくたばるような根性してねぇのさぁ…すぐに追いついてきやがるぜぇ」
今度はゲンジが笑う。
「なら、その前にお前達を片付けるまでだ」
ゲンジは右手に魔力を集め始める。
「くっ…」
メイが鯉口に手をかける。
「…イバラギ殿?」
それを、イバラギが制した。
「あんたらは、ここで見てな」
「え?」
「今度は…オイラの番だ」
相手を見据えたまま、小さく呟いた。
「なにを…」
「鬼道・濫技『神出鬼没』」
メイ達に掛かっていた体重が一瞬にして消える。
「なっ!?」
イバラギはメイの前方10メートル程の距離へ移動していた。
「鬼道・装技『
妖力の渦がメイ達三人を包み込み、ドーム状になって定着する。
「なんですかこれは…」
「結界だ、オイラと同じくらい硬ぇな…」
メイが結界を叩く。確かに硬い。並大抵の攻撃では歯が立ちそうになかった。
「なんでこんな…解いてください!」
「いいや駄目だね」
「なんでっ!」
振り返ったイバラギが、メイへ微笑みを向ける。
「こういうモンなんだろ?仲間っつーのは」
「イバラギ殿っ!」
「カシラは必ず来る…それまでオイラが時間を稼いでやらぁ」
「おいマズイぞ!あんな身体で戦ったら!」
アンナが叫び、剣を結界に突き立てる。
「駄目だビクともしねえ!おいマンジュ!なんかねぇのか!?」
「今やってるっスよ!」
マンジュが魔導鞄に両手を突っ込んで得物を探す。
「随分威勢がいいな、イバラギ」
一方、結界の外ではゲンジがゆっくりと降下し、イバラギと対峙する。
「自分から一人になるとは…こちらとしても好都合だが」
イバラギは腹から突き出た刀身を指先で叩く。
「コイツの礼もまだしてねぇからよ」
「トドメが欲しいなら素直にそう言うがいい」
イバラギは一笑に付し、自身の腹から突き出た刀身をなぞる。
「この刀ぁ…髭切だなぁ…因縁深ぇもんだまったくよぉ」
イバラギは左手に妖力を込める。
「魔族だか何だか知らねぇが、タダじゃぁ済まさねぇ」
「ほう…なら、こういうのはどうだ?」
ゲンジが魔力の塊を放出すると、徐々に形となってイバラギの前へ仁王立ちする。
「…へぇ」
それは、イバラギそのものだった。
「分身と戦わせようってのかぃ」
「物足りないか?」
おまけだと言わんばかりに、魔力を放出する。
イバラギの分身が更に三体現れる。
「勿論、一体一体が本物と互角のパワーを持っている。これだけ居れば十分だろうが…お望みとあらば、何体でも出そう」
「…舐めた真似してくれんじゃねぇかぃ」
イバラギは左手と同様に、右手にも魔力を込める。
「やってやろうじゃねぇか…後ろの連中には、いや…オイラの仲間たちには指一本触れさせやしねぇッ!」