しばらく黙り込んでいたゲンジだったが、喀血とともに悲鳴を上げ始める。
「がっ…ぐあああああっ!?」
魔力で防御したおかげで破裂こそ免れたが、両腕の組織は破壊されており手を挙げる事さえ叶わない。
「腕が…この俺の腕が…っ!」
シュテンは構えを解くと、歩いてゲンジへ近づいていく。
「許さん…許さんぞ人間がぁ…!」
ゲンジは血を吐きながらもシュテンを睨み付ける。
「………………」
シュテンは腕に妖力を集める。
「殺そうってのか…人間が魔族を!やれるもんならやってみろ!」
ゲンジが何かと騒ぎ立てる中、シュテンは腕に集めた妖力と共に、『狂鬼乱舞』を解除した。
「…やめだァ」
「な…」
煽り散らかしていたゲンジだったが、目を丸くして固まる。
シュテンは、視線を合わせるようにしゃがみ込む。
「人間はなァ、殺さずに生け捕りにするらしいぜェ」
「生け捕り…」
「あァ、中々面白ェ事考えるよなァ…」
シュテンは立ち上がると踵を返す。
「後で捕まえに来てやるからよォ…そこで大人しく待ってろォ」
ひらひらと手を振りながらシュテンはゲンジの元から離れていく。
対して、ゲンジの腸は煮えくり返っていた。
「人間に…生け捕り、だと…?」
大きく尊厳を踏み躙られた感覚に陥ったゲンジには、勝ち誇って背中を向ける不遜な人間を殺す以外の思考が無くなっていた。
残った魔力を全て口に集める。
「手が動かなくとも…俺はお前を殺せるぞ…っ!」
ギリギリまで圧縮し、威力を高めていく。
「人間…お前はやり過ぎた…魔族であるこの俺を侮っただけでなく、あろう事か鬼だなんだと馬鹿にして…」
口を大きく開く。
「その愚弄…万死に値する…っ!」
今にも発射しようとしたその時、視界を何かが遮る。
「………………鬼の、腕?」
その時、はるか視界の遠くでこちらを見る目に気が付く。
目が合ったイバラギは、不敵に口角を上げた。
瞬間、眼前の腕が激しく膨張したかと思うと、溢れんばかりの中身を抑えつけるが如く、元の大きさまで縮んでいく。
妖力で練られたその腕に、イバラギに残ったありったけの妖力が乗せられる。
「っ!?」
次の瞬間、腕がゲンジの口内へ突き刺さった。
限界まで圧縮された魔力塊に、これまた限界まで圧縮された妖力の塊がぶつかり合った。
互いに傷付け合い、臨界点を迎えたエネルギーの行く末など、想像に難くない。
「しまっ…」
それはゲンジに、対応を思考させる暇も与えなかった。
「っ…!?」
シュテンは、背後の大きな爆発音に思わず振り向いた。
「…なんだァ?」
爆発は、ゲンジが居た筈の場所で起こっていた。
煙が収まって見えてきたのは、ゲンジの羽根や足といった一部だけ残されたクレーターだ。
「……自爆かァ?」
シュテンは頭を搔いて、正面を向き直った。
「まァ、しょうがねェかァ」
そのまま、仲間たちの元へと歩を進めた。
「どういう事ですか、これは!?」
「ん…?」
聞こえてきたメイの声に、シュテンは少しだけ足を早めた。