騎士団と共に京内へ戻ったオニ党一味は事情聴取の為、王宮敷地内の騎士団詰所へと通された。
途中には地下牢があるが、アンナはつい先日に見た光景との差に思わず足を止め、眉をひそめた。
「酷いもんだろう?」
カティが溜め息を吐く。
地下牢を含めた施設は建物ごと破壊され、見る影もない。
騎士団員や町人たちが、瓦礫の撤去作業を行っていた。
「…収容されていた囚人、勤務中だった騎士、その全員が助からなかった」
「っ…」
運ばれる建材には血痕がこびり付き、中には剣や鎧を拾い上げる団員の姿もある。
「…すまない、お目汚しだな。さ、こっちだ」
カティが歩き始めると、一行も後を続く。
アンナは、地下牢の方から目が離せなくなっているメイの肩を叩く。
「メイ、行くぞ」
「………………はい」
メイは、最後尾を歩き始めた。
その後、カティへこれまでの経緯を説明し終えると、広めの部屋へと案内される。
「今日はここを好きに使ってくれ。外出する時は、団員を通してもらえると助かる」
そのままカティは、報告の為に王宮へと向かって行った。
魔族が出たなど、どこまで信じて貰えるか分からなかったが、カティは終始真剣な表情でメイ達の話を聞いていた。
マンジュは開放感からか、ソファに吸い込まれていく。
アンナは窓際に立ち、外を見回している。
どこか心ここに在らずなメイが、シュテンの横でじっと立ち尽くしていると、アンナが口を開いた。
「よし、誰も居ねぇな。シュテン、お前には聞きたい事が山ほどある」
アンナは窓に寄りかかると、シュテンを見据えて腕を組んだ。
「…あァ」
マンジュの背筋が心做しか伸びる。
「オニって何だ、別に隠してる訳じゃないんだろ?」
「…お前らも見たろォ、茨木の姿を…アレが鬼だァ…」
シュテンは息を吸って、続ける。
「お前ら人間たァ違う、異形の怪物さァ…」
「シュテン殿…」
メイがシュテンの裾を掴む。
そんな中、アンナが問いかける。
「シュテンもあの姿になれるのか?」
「あれが本来の姿だァ…今の俺にァなれねェがな」
「今は、なれない…っスか?」
マンジュが返す。
「あァ、俺ァ一度死んで今の体になった…鬼とも人とも言えねェ半端モンになァ」
シュテンが元の小さな姿に戻った角を撫でるのを、メイはじっと見ていた。
アンナとマンジュが目を見合わせる。
「一度死んだ…って、どういう事っスか?」
「そのまんまの意味だァ」
シュテンはスっと、人差し指をメイの腰あたりへ向ける。
「そこにある童子切で、俺ァ頸をスパッと持ってかれたァ」
「…………え?」
メイは理解が追いつかず固まってしまう。
「俺も最初ァ見間違えかと思ったがなァ…」
シュテンがメイに視線の高さを合わせる。
「メイ…俺を斬れるかァ?」
メイの鼓動が早まる。
心臓に血流が集中し、思考が朦朧とし始める。
「な…なに、を…?」
「シュテン!」
アンナが怒鳴る。
「お前…今なんて言った!?」
「ちょ…お嬢」
アンナがシュテンに詰め寄るのを、マンジュが慌てて止めに入る。
「アニキも冗談が過ぎるっスよ!」
「そ、そうですよ…!私がシュテン殿を斬るなんて…仲間ではないですか!」
「仲間だからだァ」
シュテンがメイの肩に手を置く。
「俺ァ鬼なんだァ…お前らとは根本的に違ェモンがある…いつ討伐されてもおかしくねェ存在なんだよ…だから、俺が人の道に背いた時にはァ…」
「っ…だ、だったら! 」
メイはドウジギリを抜くと、シュテンと自分の間に立てる。
「その時は…シュテン殿を守る為にこの剣を振るいます!」
メイは息を吸う。
「たとえ世界が貴方の敵に回ろうとも!私が握るこの剣だけは!貴方と共に戦うことを誓いましょうッ!」
メイは刀を逆さに持ち替え、床に突き刺した。
束の間、場が静寂に包まれる。
「…王国騎士流、誓いの儀式」
アンナの呟きにメイはハッとした顔になり、いそいそと納刀する。
「えっと…そういう事ですから…わ、私ちょっと外の空気吸ってきます!」
メイはそのまま部屋から飛び出して行った。
「あ、おいメイ!…行っちまった」
アンナが溜め息を吐く中、マンジュはシュテンの背を叩く。
「アニキ…魔剣を姐さんに渡した手前、アタシにも責任はあるんスけど…」
マンジュが言葉尻を濁す。
「…?」
「シュテン、メイにお前が斬れる訳ないだろ」
「あァ…?」
得心行かぬという顔のシュテンに対し、アンナはもうひとつ溜め息を零した。
シュテンは頭を搔く。
「ちったァ分かった気がしてたがァ…やっぱり人間ってよく分かんねェな…」