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第七十六話/俺を斬れるか

 騎士団と共に京内へ戻ったオニ党一味は事情聴取の為、王宮敷地内の騎士団詰所へと通された。

途中には地下牢があるが、アンナはつい先日に見た光景との差に思わず足を止め、眉をひそめた。

「酷いもんだろう?」

カティが溜め息を吐く。

地下牢を含めた施設は建物ごと破壊され、見る影もない。

騎士団員や町人たちが、瓦礫の撤去作業を行っていた。

「…収容されていた囚人、勤務中だった騎士、その全員が助からなかった」

「っ…」

運ばれる建材には血痕がこびり付き、中には剣や鎧を拾い上げる団員の姿もある。

「…すまない、お目汚しだな。さ、こっちだ」

カティが歩き始めると、一行も後を続く。

アンナは、地下牢の方から目が離せなくなっているメイの肩を叩く。

「メイ、行くぞ」

「………………はい」

メイは、最後尾を歩き始めた。


その後、カティへこれまでの経緯を説明し終えると、広めの部屋へと案内される。

「今日はここを好きに使ってくれ。外出する時は、団員を通してもらえると助かる」

そのままカティは、報告の為に王宮へと向かって行った。

魔族が出たなど、どこまで信じて貰えるか分からなかったが、カティは終始真剣な表情でメイ達の話を聞いていた。

マンジュは開放感からか、ソファに吸い込まれていく。

アンナは窓際に立ち、外を見回している。

どこか心ここに在らずなメイが、シュテンの横でじっと立ち尽くしていると、アンナが口を開いた。

「よし、誰も居ねぇな。シュテン、お前には聞きたい事が山ほどある」

アンナは窓に寄りかかると、シュテンを見据えて腕を組んだ。

「…あァ」

マンジュの背筋が心做しか伸びる。

「オニって何だ、別に隠してる訳じゃないんだろ?」

「…お前らも見たろォ、茨木の姿を…アレが鬼だァ…」

シュテンは息を吸って、続ける。

「お前ら人間たァ違う、異形の怪物さァ…」

「シュテン殿…」

メイがシュテンの裾を掴む。

そんな中、アンナが問いかける。

「シュテンもあの姿になれるのか?」

「あれが本来の姿だァ…今の俺にァなれねェがな」

「今は、なれない…っスか?」

マンジュが返す。

「あァ、俺ァ一度死んで今の体になった…鬼とも人とも言えねェ半端モンになァ」

シュテンが元の小さな姿に戻った角を撫でるのを、メイはじっと見ていた。

アンナとマンジュが目を見合わせる。

「一度死んだ…って、どういう事っスか?」

「そのまんまの意味だァ」

シュテンはスっと、人差し指をメイの腰あたりへ向ける。

「そこにある童子切で、俺ァ頸をスパッと持ってかれたァ」

「…………え?」

メイは理解が追いつかず固まってしまう。

「俺も最初ァ見間違えかと思ったがなァ…」

シュテンがメイに視線の高さを合わせる。

「メイ…俺を斬れるかァ?」

メイの鼓動が早まる。

心臓に血流が集中し、思考が朦朧とし始める。

「な…なに、を…?」

「シュテン!」

アンナが怒鳴る。

「お前…今なんて言った!?」

「ちょ…お嬢」

アンナがシュテンに詰め寄るのを、マンジュが慌てて止めに入る。

「アニキも冗談が過ぎるっスよ!」

「そ、そうですよ…!私がシュテン殿を斬るなんて…仲間ではないですか!」

「仲間だからだァ」

シュテンがメイの肩に手を置く。

「俺ァ鬼なんだァ…お前らとは根本的に違ェモンがある…いつ討伐されてもおかしくねェ存在なんだよ…だから、俺が人の道に背いた時にはァ…」

「っ…だ、だったら! 」

メイはドウジギリを抜くと、シュテンと自分の間に立てる。

「その時は…シュテン殿を守る為にこの剣を振るいます!」

メイは息を吸う。

「たとえ世界が貴方の敵に回ろうとも!私が握るこの剣だけは!貴方と共に戦うことを誓いましょうッ!」

メイは刀を逆さに持ち替え、床に突き刺した。

束の間、場が静寂に包まれる。

「…王国騎士流、誓いの儀式」

アンナの呟きにメイはハッとした顔になり、いそいそと納刀する。

「えっと…そういう事ですから…わ、私ちょっと外の空気吸ってきます!」

メイはそのまま部屋から飛び出して行った。

「あ、おいメイ!…行っちまった」

アンナが溜め息を吐く中、マンジュはシュテンの背を叩く。

「アニキ…魔剣を姐さんに渡した手前、アタシにも責任はあるんスけど…」

マンジュが言葉尻を濁す。

「…?」

「シュテン、メイにお前が斬れる訳ないだろ」

「あァ…?」

得心行かぬという顔のシュテンに対し、アンナはもうひとつ溜め息を零した。

シュテンは頭を搔く。

「ちったァ分かった気がしてたがァ…やっぱり人間ってよく分かんねェな…」

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