ショージが温かい紅茶をテーブルに置くと、レーワが勢いよく食らいつく。
「っぷはぁ」
「落ち着いた?」
「うん、ありがとーお兄ちゃん」
ショージは微笑みを返すと、向かいに座るカティに目配せをする。
一行はレーワの話を聞く為に一度詰所まで戻り、ショージが誘導するままに円卓を囲んでいた。
「…ではそろそろ、先程の話について詳しく聞いてもいいかな?」
カティは手許の紅茶には目もくれず、話を切り出す。
レーワは紅茶を傾けながらコクンと頷いた。
「拐かされたのは、メイ嬢で間違いないのか?」
「うん、ボク目が良いんだ!」
「攫った奴らはフード付きのローブを着てたんだよな、何人居たか分かるか?」
アンナの問いにレーワは上を向く。
「うーん…三人!全員男の人の声だったよ!」
「どんな風に攫われたか説明できるか?」
「えっとね、三人で囲んでー、雷魔法バリバリって!」
「手荒な…っ!」
カティの拳に力が入る。
「つまり、姐さんは気絶させられて運ばれたって事っスね」
「ああ、メイが寝てちゃ自力脱出は難しいな…」
腕を組んで考え出すアンナの袖を、ショージが引っ張る。
「ねぇアンナ、この子の証言だけで話が進んでるけど、一体この子は何なの?」
「ん?…ああ、コイツはパイナスレングス領で知り合ったんだ…ギルドから孤児院に引き渡されたはずなんだがな、どうしてここに居るんだろうな」
アンナが懐疑の目をレーワに向けると、レーワはアンナと目を合わせたまま小首を傾げる。
「お姉ちゃんたちを追いかけてきたんだよー?」
ぎゅっと握り締める魔導鞄を見て、マンジュが「あっ」と声を上げた。
「それ!コージツ・ギルドの備品じゃないっスか!まさかあの部屋の魔導具、持って来ちゃったっスか!?」
全員の注目が、レーワの手元に集まる。
当の本人は「えへへ」と頭を掻いて笑っていた。
「おいおい…ダメじゃないか!」
一喝するアンナにレーワは唇をとがらせた。
「だって、お姉ちゃん達を追い掛けなきゃいけなかったからー」
「今頃ギルマス真っ青っスね…」
マンジュが故郷の苦労人に苦笑いを贈る中、「でーもー…」と言いながらレーワは魔導鞄に手を突っ込んだ。
「ボクがこれ持ってなかったら、お姉ちゃん探せないでしょ!」
勢い良く取り出されたのは、両手でやっと持ち上げられる大きさの、額縁のような魔導具だった。
「じゃーん!」
レーワはしたり顔でそれをマンジュの方に見せ付ける。
「それ…マジタグっスか!?」
「そうだよ!」
マジタグは、登録した人物の魔力を元に居場所を特定出来る魔導具だ。
非常に希少であり、一般には流通せず主に犯罪捜査に使用されている。
「攫われる時、隙間からフードのお姉ちゃんの魔力を登録したんだ!」
レーワはマジタグを机に置くと、起動ボタンを押す。
額縁のようだったそれの表面には図形が浮かび上がり、そのうちの一点を赤い点が示している。
「これは、この辺の地図か…?」
見覚えのあるその図形は、王京周囲10km四方を見渡す地形図であった。
「ここにお姉ちゃんが居るよ!」
レーワが指差す赤い点は、王京南西の外壁沿いにある小さな集落にあった。
「移動はしてなさそうだ…よし、急いで向かおう」
「うーん…」
カティが勢い良く立ち上がるも、その横でショージが腕を組む。
「どうしたのだ?」
「いや、目的が不明だなあと思いましてねー」
「目的?」
「はい、彼女を誘拐する目的ですよ。女子とはいえ帯剣した冒険者を攫うなんてリスクを背負って、一体何がしたいんでしょうねー?」
カティはバツの悪そうに眉を寄せる。
「……犯罪者のする事などそもそも不条理なのだ、早く助け出せば良いだけの事だ!」
ショージはそれでも首を傾げて唸っている。
痺れを切らしたカティは、構わず剣を腰に差した。
「もう良い!某が行ってくる!」
「ちょ、副団長待つっスよ!どんな罠があるかもわかんないんスから!」
「そうですよ副団長殿、何をそんなに慌てているんだ?」
「うるさいっ!」
突然の大声に、止めに入ったマンジュとアンナは面を食らう。
その表情で我に返ったのか、カティは目を伏せて大きく深呼吸をした。
「……とにかく、某は行く。付き従いたい者は付いてくれば良い」
カティが扉に手をかける。
マンジュとアンナは顔を見合わせると、急いで立ち上がった。
「ほらシュテンも、行くぞ!」
「あァ」
ドタバタするオニ党を後目にカティが扉を開ける。
「ん?」
「あっ…」
丁度、ノックをしようとしていた騎士団員と目が合った。
「どうした?某に用か?」
「は、はい。副団長宛にお手紙です」
そういうと一通の封筒を差し出してきた。
「手紙…?」
カティは受け取って、表裏を見回す。
宛名は「王国騎士団副団長カティ=グラミネリード殿」となっているが、差出人の記載が無い。
「…………」
カティは団員に礼を言うと、部屋に戻った。