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第八十一話/聞き取り

 ショージが温かい紅茶をテーブルに置くと、レーワが勢いよく食らいつく。

「っぷはぁ」

「落ち着いた?」

「うん、ありがとーお兄ちゃん」

ショージは微笑みを返すと、向かいに座るカティに目配せをする。

一行はレーワの話を聞く為に一度詰所まで戻り、ショージが誘導するままに円卓を囲んでいた。

「…ではそろそろ、先程の話について詳しく聞いてもいいかな?」

カティは手許の紅茶には目もくれず、話を切り出す。

レーワは紅茶を傾けながらコクンと頷いた。

「拐かされたのは、メイ嬢で間違いないのか?」

「うん、ボク目が良いんだ!」

「攫った奴らはフード付きのローブを着てたんだよな、何人居たか分かるか?」

アンナの問いにレーワは上を向く。

「うーん…三人!全員男の人の声だったよ!」

「どんな風に攫われたか説明できるか?」

「えっとね、三人で囲んでー、雷魔法バリバリって!」

「手荒な…っ!」

カティの拳に力が入る。

「つまり、姐さんは気絶させられて運ばれたって事っスね」

「ああ、メイが寝てちゃ自力脱出は難しいな…」

腕を組んで考え出すアンナの袖を、ショージが引っ張る。

「ねぇアンナ、この子の証言だけで話が進んでるけど、一体この子は何なの?」

「ん?…ああ、コイツはパイナスレングス領で知り合ったんだ…ギルドから孤児院に引き渡されたはずなんだがな、どうしてここに居るんだろうな」

アンナが懐疑の目をレーワに向けると、レーワはアンナと目を合わせたまま小首を傾げる。

「お姉ちゃんたちを追いかけてきたんだよー?」

ぎゅっと握り締める魔導鞄を見て、マンジュが「あっ」と声を上げた。

「それ!コージツ・ギルドの備品じゃないっスか!まさかあの部屋の魔導具、持って来ちゃったっスか!?」

全員の注目が、レーワの手元に集まる。

当の本人は「えへへ」と頭を掻いて笑っていた。

「おいおい…ダメじゃないか!」

一喝するアンナにレーワは唇をとがらせた。

「だって、お姉ちゃん達を追い掛けなきゃいけなかったからー」

「今頃ギルマス真っ青っスね…」

マンジュが故郷の苦労人に苦笑いを贈る中、「でーもー…」と言いながらレーワは魔導鞄に手を突っ込んだ。

「ボクがこれ持ってなかったら、お姉ちゃん探せないでしょ!」

勢い良く取り出されたのは、両手でやっと持ち上げられる大きさの、額縁のような魔導具だった。

「じゃーん!」

レーワはしたり顔でそれをマンジュの方に見せ付ける。

「それ…マジタグっスか!?」

「そうだよ!」

マジタグは、登録した人物の魔力を元に居場所を特定出来る魔導具だ。

非常に希少であり、一般には流通せず主に犯罪捜査に使用されている。

「攫われる時、隙間からフードのお姉ちゃんの魔力を登録したんだ!」

レーワはマジタグを机に置くと、起動ボタンを押す。

額縁のようだったそれの表面には図形が浮かび上がり、そのうちの一点を赤い点が示している。

「これは、この辺の地図か…?」

見覚えのあるその図形は、王京周囲10km四方を見渡す地形図であった。

「ここにお姉ちゃんが居るよ!」

レーワが指差す赤い点は、王京南西の外壁沿いにある小さな集落にあった。

「移動はしてなさそうだ…よし、急いで向かおう」

「うーん…」

カティが勢い良く立ち上がるも、その横でショージが腕を組む。

「どうしたのだ?」

「いや、目的が不明だなあと思いましてねー」

「目的?」

「はい、彼女を誘拐する目的ですよ。女子とはいえ帯剣した冒険者を攫うなんてリスクを背負って、一体何がしたいんでしょうねー?」

カティはバツの悪そうに眉を寄せる。

「……犯罪者のする事などそもそも不条理なのだ、早く助け出せば良いだけの事だ!」

ショージはそれでも首を傾げて唸っている。

痺れを切らしたカティは、構わず剣を腰に差した。

「もう良い!某が行ってくる!」

「ちょ、副団長待つっスよ!どんな罠があるかもわかんないんスから!」

「そうですよ副団長殿、何をそんなに慌てているんだ?」

「うるさいっ!」

突然の大声に、止めに入ったマンジュとアンナは面を食らう。

その表情で我に返ったのか、カティは目を伏せて大きく深呼吸をした。

「……とにかく、某は行く。付き従いたい者は付いてくれば良い」

カティが扉に手をかける。

マンジュとアンナは顔を見合わせると、急いで立ち上がった。

「ほらシュテンも、行くぞ!」

「あァ」

ドタバタするオニ党を後目にカティが扉を開ける。

「ん?」

「あっ…」

丁度、ノックをしようとしていた騎士団員と目が合った。

「どうした?某に用か?」

「は、はい。副団長宛にお手紙です」

そういうと一通の封筒を差し出してきた。

「手紙…?」

カティは受け取って、表裏を見回す。

宛名は「王国騎士団副団長カティ=グラミネリード殿」となっているが、差出人の記載が無い。

「…………」

カティは団員に礼を言うと、部屋に戻った。

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