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第八十二話/メイ救出作戦

「どうしたっスか?」

部屋に戻ったカティに、マンジュが声を掛ける。

カティの手には封筒が握られていた。

「このタイミングで差出人不明の手紙だ。開けない手は無いだろう」

カティが封を切ると、中には二枚の紙が入っていた。

一枚には文章が、もう一枚には地図のようなものが書かれている。

文章を読み上げる。

「騎士団に出入りしている冒険者のガキを預かっている。返して欲しくば、金10枚を持って地図の場所へ、夕方六の刻に一人で来い。仲間を連れて来たら、その時点でガキは死ぬ」

「金10枚…身代金目的っスか」

「なるほどな、騎士団を強請りたい賊の犯行って事か…」

「しかし金10枚とは絶妙な値段だねぇ…もっと搾り取ればいいのに」

首を捻るショージの頭を、アンナが平手で軽く叩いた。

カティがひとつ、咳払いをする。

「…とにかく、金10枚ならすぐ集められる。ここからは某に任せてくれ」

「んー?でもこれおかしいよー?」

レーワが、手紙に入ってた地図を見て首を傾げる。

「どうした?」

「お姉ちゃんが居る場所と全然違うよー?」

レーワは、マジタグで出たメイの現在地と、手紙が指定する取引場所を照らし合わせる。

その二点は、王京を間に挟んでほぼ点対称の位置にあった。

「本当っスね…ちょっと不自然っス。取引場所をここにするなら、姐さんをそこまで運ぶ必要が出てくるっス」

「この距離を誰にもバレずに、人質を連れて歩くのはちょっと無茶だよねー…今からじゃ時間的にも間に合わない」

ショージが地図を指でなぞりながら頷く。

「これは、どっちかだね」

「どっちか?」

アンナが眉を寄せると、ショージは笑顔を返す。

「取引が嘘って罠か、マジタグが壊れてるか」

「壊れてないよー、壊れてたらわかるもん」

レーワが両手を上げて抗議する中、カティが腕を組む。

「ふむ…ならばどうするのが良いだろうか」

マンジュが手を挙げた。

「二手に別れるのはどうっスか?アタシとお嬢がイアモニを付けて、連絡を取り合うっス」

マンジュが魔導鞄からイアモニを二つ取り出す。

「わぁ!イアモニだぁ!」

レーワがマンジュの周りをぴょんぴょんと跳ね回る。

「イアモニって、この距離届くのか?」

アンナが地図の二点を指差す。

「余裕っスよ、世界の果てだって通話出来るっス!」

「すごーい!」

マンジュのドヤ顔を、レーワの囃子が盛り立てていた。

「よし、ではマンジュ嬢は取引場所を確認してくれ。某はアンナ嬢と位置情報の方を当たる」

「了解っス!」

「じゃあ、僕はこの子を預かっとくねー」

ショージがレーワを抱き上げ、肩車にする。

「えー、ボクも行きたい!」

「だーめ」

ニコニコのショージに対し、レーワは頬を膨らませてショージの髪をぐしゃぐしゃにしていた。

「じゃあショージ兄、レーワは任せたぞ」

「任されたー」

「シュテン、お前はマンジュのサポートを…」

「いや、今回は一人がいいっス」

アンナを遮って、マンジュが手を挙げた。

「マンジュお前…」

「隠密の仕事っスから、一人の方が動きやすいっスよ。それに姐さんが居るのはそっちっスから」

「僕としても、シュテン君がアンナと居てくれたら安心だなー」

「…わかったよ」

アンナが折れて、編成が決まる。

「じゃあ、一足先に出るっスね!」

「おィ、マンジュ」

シュテンがマンジュを呼び止める。

「どうしたっスか?」

珍しい事に、マンジュがキョトンとした顔で振り返った。

「…何かあったらすぐ呼べェ」

「…………」

予想外の台詞に、マンジュがフリーズする。

マンジュだけでは無い。アンナもシュテンの台詞に開いた口が塞がらなかった。

「?…なんだァ?」

「……あ、えっと、はいっス!行ってくるっス!」

我に返ったマンジュは深く一礼をすると、嬉しそうな顔で走っていった。

「…シュテン?」

「あァ?」

「悪いもんでも食ったか?」

「あァ…?」






どれだけ眠っていただろうか。

目を開いても、視界がぼんやりしたまま焦点が合わない。

身体に力を入れると、全身に痛みが走る。

「うっ…」

まるで全身が筋肉痛になったようだ。

ゆっくりと深呼吸し、身体を慣らしていく。

次第に、視界がはっきりしてくる。

ここは何処だろうか。

薄暗く埃っぽいこの小屋に見覚えはない。

板張りの床は冷たく硬い。

「私は…一体…」

メイは、自身の記憶を辿る。

思い出したのは、全身を駆け巡った電撃の痛み。

もう一度身体を動かしてみる。

手首に縄の感触を感じる。

どうやら、手足は縛られているらしい。

腰に佩いていたはずの刀も、小屋の中には見当たらない。

「ん…」

どうにかして起き上がろうとしていると、足音が近づいてくるのが分かった。

扉の方に意識を向けていると、ノブを回す音が聞こえた。

入ってきた男と目が合い、お互いに驚愕を浮かべる。

「ワドゥ…!」

「…よりにもよって貴女ですか」

男はハンチングに手を掛けると、大きく溜息をついた。

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