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第八十四話/発生

「っ…?なんだ今のノイズ」

アンナは、耳障りな音に顔をしかめた。

マンジュと別行動で、王京南西にある外壁沿いの村へと向かう一行であるが、先頭のカティがアンナの様子に気付き足を止める。

「どうかしたのか?」

「いや…イアモニから一瞬だけ耳障りな音がして」

「向こうで何かあったのか?」

「ちょっと聞いてみる…マンジュ、聞こえるか?」




「く…はぁ…っ」

閃光玉に紛れて、何とか離脱したマンジュは森の中で、大きな木に身を預けて座る。

魔導鞄からヨーローの杖を取り出していると、イアモニから声が聞こえてくる。

『マンジュ、聞こえるか?』

アンナの声が少しノイズ掛かっている。

先程の戦闘で損傷があったのだろうか。

「お嬢、どうかしたっスか?」

『…ん?よく聞こえないぞ』

「え?こっちは聞こえてるっスよ?」

「…すまん、途切れ途切れで何を言っているのか分からん」

マンジュは肩を落として幹に頭を預ける。

どうやら爆発の衝撃で壊れてしまったらしい。

耳を意識して、強く言葉を念じる。




『イアモニ…調子悪…こっちは…大丈…っス…魔剣回収…すぐ…合流する…ス!』

アンナはノイズの中から聞こえた言葉を繋ぎ合わせる。

「大丈夫なんだな?」

『はい…ス!』

「わかった、気をつけろよ」

『ス!』

通信を切る。

「どうだ?」

カティが腕を組んで様子を伺う。

「イアモニの調子が悪いらしいが、差し支えないと」

「そうか、なら良かった。我々も急ごう」

カティの言葉に、アンナはシュテンと目を見合わせ、頷く。

三人は人気の無い脇道を慎重に進んで行く。





「えぇ、えぇ、分かってますからそんなに急かさないで下さい」

耳から手を離したワドゥが大きな溜め息を吐く。

「…カガセオは、何を企んでいるのですか」

しゃがんだワドゥの足元で、手足を縛られたままのメイが鋭い視線を飛ばす。

「…貴女は怒らせたくないんですよねぇ、出来れば」

「ワドゥ…っ!」

ワドゥはハンチングを被り直す。

「あたくしはね、正直どうでもいいんですが…カガセオの目的は、以前言いましたよねぇ」

「…勇者を、終わらせる」

メイの解答にワドゥは頷く。

「ここまで非常に長い道のりがありましてねぇ、この度ようやくこの作戦に漕ぎ着けたんですよ」

「この作戦…?」

ワドゥは少しの間を開けて、喋り出す。

「黒龍すら手懐ける召喚魔法、魔物を使役化する合成魔獣研究…貴女方と出くわした現場です。共通点は何だと思います?」

「……?」

メイが眉をひそませていると、ワドゥが答えを出す。

「洗脳、ですよ」

「…なに?」

「兼ねてより我々は、ある人物を思い通りに動かすべく研究をしていましてね、それがようやく実を結んで、こうして作戦を実行する事が出来る、という訳です」

「何を…言って…」

ワドゥはひとつ息を吐いた。

「貴女を攫った理由、でしたね。ぶっちゃけ貴女だったのは想定外なのですよ。騎士団に出入りしている人間なら誰でもよかったのですが…実行役は貴女を知りませんからね」

人差し指を掲げる。

「計画では、騎士団に縁のある人物を攫い、嘘の場所を書いた脅迫文を送る。すると邪魔なカティ副団長は王京から遠いその場所へ向かってくれる…はずだったんですがね、貴女のお仲間が絡むなら、こちらへ辿り着くでしょうね」

肩を落とす素振りを見せるワドゥに対し、メイは目を見開いたまま問う。

「宮殿を手薄にして…一体何をしようとしている…!」

ワドゥは顔を上げると、腕時計を確認した。

「そろそろですね、もう分かりますよ」





カティが物陰から外の様子を覗う。

「…やはり、人が多いな、見張りのようだ」

後ろからアンナも顔を出す。

「あの建物、やけに人が集まってんな…まさかあそこにメイが…?」

二人は頭を引っ込めると、顔を見合せて頷く。

「よし、某が切り込む。二人は一直線にあの建物へ向かってくれ」

アンナが頷くと、カティは腰の剣へ手を掛けた。

「よし、じゃあ五つ数えたら飛び出すぞ…五…四…」

アンナも剣を抜くと、シュテンの方を一瞥する。

「三…っ!?」

二と言いかけたカティが止まった。

背後から大きな爆発音がした為である。

振り返る三人を、地響きが襲う。

「なんだ…?」

上を見上げたカティは、言葉を失った。

「おいおい…嘘だろ」

アンナもその光景に息を飲んだ。

黒煙が上がっていたその場所は、王宮そのものであった。

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