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第八十五話/作戦開始

 王宮敷地内でも一際目を引く建物が、謁見や国事が執り行われる宮殿である。

それは京内どこからでも見える程に背の高い建物だ。

比較的王宮に近い位置にいたカティからは、爆発が何処で起きたのかハッキリと目視できた。

「あの辺りには、陛下の執務室が…!」

歯を食いしばり、背後の村と王宮を交互に見る。

その様子に、アンナがカティの肩を叩いた。

「副団長殿、アンタは戻るべきだ」

「だが…メイ嬢が」

「メイは私らのパーティメンバーだ。私らに任せてくれ」

アンナがカティを押す。

「騎士団として、やるべき事があるでしょう」

「…わかった、すまない。だが誓ってくれ。必ず、無事にメイ嬢を救い出すと」

カティが真っ直ぐ、アンナの目を見つめる。

「誓うまでもないが…そこまで言うなら誓おう」

アンナは予備の短剣を抜き、目の前に掲げる。

カティも腰の剣を抜き、同じように掲げた。

二人の腕がクロスし、互いの剣が相手の眼前に聳える。

「頼んだぞ」

「了解」

二人はほぼ同時に剣を回し、下を向いた剣先を地面へ突き立てた。

王国騎士が行う、誓いの儀式である。

「…健闘を祈る!」

カティはアンナとシュテンの顔を交互に見た後、剣を納めて踵を返し、ダッシュで来た道を戻って行った。

「さてシュテン、こうなりゃ一気に片付けようぜ、いいな?」

アンナは短剣を仕舞うと、背中の大剣を抜き、シュテンへ笑みを投げる。

「あァ、分かりやすくて良ィ」

シュテンは手首を回して、前を向いた。

「行くぞ…メイを取り返すんだ!」

アンナは得物を振り上げ、物陰から飛び出した。





「今の音は何ですか…!?」

突然の轟音に、メイは思わず顔を上げた。

「作戦開始の合図、とでも言いましょうかね」

「ワドゥ、あなた達は何を…っ!」

その時、部屋の外が騒がしくなっているのに気付き、ワドゥが顔を上げた。

「どうやらお仲間が来たみたいですよ、良かったですね」

そう言うとワドゥは、転移魔法陣を展開する。

「待てっ!」

「すぐにまた会えますよ、ええ絶対にね」

ワドゥは不敵に笑うとそのまま消えた。

「ワドゥ!」

メイが叫んだその時、正面のドアが蹴破られた。

「居たぞ!メイ!」

アンナが剣を納めて駆け寄ってくる。

「おい!大丈夫か!?」

メイを抱えあげると、短剣で縄を切断する。

「シュテン!メイは保護した!」

「あァ」

外から打撃音と複数の悲鳴が聞こえてくる。

「立てるか?」

アンナはメイの腕を首に回し、脇を支える。

「アンナ殿、さっきの爆発は…?」

「ん?…ああ、外に出れば分かる」

息を合わせて立ち上がると、一歩ずつゆっくりと外へ出る。

その頃には、戦闘の音は止んでおり、扉から出るとシュテンが待っていた。

「メイ」

「シュテン殿…お二人共、お手数お掛けしました」

「馬鹿、無事なら何でもいいんだよ、な?シュテン」

「あァ」

腕を組むシュテンに、メイは微笑みを返した。

そして、その奥で上がる一筋の黒煙に気がついた。

「え…あれは、まさか…」

アンナがシュテンを手前に引っ張る。

シュテンが場所を動くと、メイの視界にも、それが鮮明に映った。

「王宮が…そんな馬鹿な!?」

「…ここに来るまでは、カティ副団長が一緒だったんだが、あれが起こってな。私らの判断で戻らせたんだ」

「カティ殿が…」

「とにかく、何処かで一度体制を立て直そう、メイの治療が必要だ」

アンナがそう言うと、シュテンの首元で大人しくしていたクロがシャーとひと鳴きし、メイの方へ飛び移った。

すぐにメイの身体を緑色の光が包んで行く。

「そうか、お前が居たな」

クロが満足気な表情でアンナの方を向いた。

「助かります、すぐにでも王宮へ戻りたいので」

メイの目は、クロを一瞥してすぐに王宮の方へと戻った。

「メイ、これを」

アンナが、自分の物とは別の短剣を取り出す。

「マンジュから預かった。お前のなんだろ?」

「これは…」

それは、ドウジギリ以前にメイが装備していたものであった。

「魔剣は今、マンジュが回収に向かってる。それまではこれを持っておけ」

「…もはや懐かしいですね、ありがとうございます」

メイは短剣を懐に仕舞い、回復の終わりを待った。





カティが王宮の門を潜ると、そこはすでに戦場であった。

「この数の魔物…一体どこから来たのだ!?」

すぐに剣を抜き、目に付いた物から切り伏せていく。

「副団長!」

近くに居た騎士団員が近づいてくる。

「戦闘しながらで良い!状況は!」

「謎の爆発後、宮中全体に魔物が突如出現しました!現在手当り次第に対処中です!」

「陛下は!?」

「まだ中にいらっしゃるかと!」

「分かった!私が向かう!魔物の侵入を食い止めてくれ!」

「御意!」

飛び掛かってきたゴブリンを切り伏せ、カティは御殿の中へ走った。

「はあああああっ!」

目に入る魔物を次々と切り付けながら執務室を目指す。

「カティ殿!」

「っ!宰相殿!」

途中で呼び止めたのは、国王の最側近である宰相カロク=プリストリームであった。

白髪混じりの執事風だが、昔は剣を握らせると右に出る者はいないと言われた元騎士である。

そんな英雄も、もはや息も絶え絶えといった様相だ。

「陛下は謁見の間で戦われておられる。行って力になってくれ」

「宰相殿は!」

「この老骨が行っても足手まといだ、ここで一兵卒に混じっておくのが吉よ」

カロクはカティの肩を叩く。

「陛下をお頼みした、カティ副団長」

「…御意っ!」

カティは謁見の間を目指して走り出した。

その時である。

「…っ!?」

横からとてつもない勢いで攻めてくる者がおり、剣を翳す。

カティの剣は弾かれるも、力の向きを利用し距離をとる。だが、次の瞬間には詰められ次の攻撃が来た。

剣同士が削り合う金属音の中、距離をとっては詰められ、反撃に出ては返されを繰り返し、数十秒の後に一足一刀の間合いで膠着する。

そしてカティは、その時初めて相手の顔をしっかりと確認し、そして叫んだ。

「なぜ貴方がここに居る………………団長ッ!」

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