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第八十六話/団長と副団長

 カティは構えを緩めることなく、語りかける。

「…攻撃する相手を間違えていますよ」

同じく、構えを解かずゲントクは返す。

「間違えていない。君と分かって斬りかかった」

「それがどういう意味か、お分かりでないのですか」

「分かっている。俺がやっているのは…」

ゲントクは、ゆっくりと構え直す。

「…王国への、挑戦だ」

魔力が高まり、剣へと乗る。

振り上げられたその剣を、強く振るった。

「…っ」

カティは守りの姿勢に入り魔力を剣に込める。

ゲントクが放った剣聖魔法の衝撃波がカティの両腕に重く伸し掛る。

それは、訓練で受けたものとは本質的に違う、カティを殺す為の魔法であった。

「ぐ…ぐあっ!」

受け止めきれないカティが後ろへ転がる。

「…何が、挑戦だ…」

カティは握った剣を離すことなく、両足に力を入れる。

「これは、叛逆だッ!」

今度はカティから剣聖魔法を仕掛ける。

放った衝撃波は廊下の装飾を傷付けながらゲントクへと到達するも、ゲントクは一振りで相殺する。

「叛逆か、そう捉えたければそれでいい」

「…貴方は間違っている!」

「それならば止めてみろ」

ゲントクは再び剣に魔力を載せると、放出せずに前へ跳んだ。

「くっ」

咄嗟にカティも剣に魔力を載せ、ゲントクの剣を受ける。

「剣聖魔法を…勇者の加護たる固有魔法を使いながら、なぜ王国に仇なす!」

「それが理由だ!」

鍔迫り合いの果て、ゲントクがカティの剣を弾き、空いた腹に回し蹴りが入る。

「ぐおあっ」

後ろに飛ばされたカティは柱にぶつかって止まる。

「…それが、理由…?」

剣を杖代わりに立ち上がりながら、カティはゲントクへ問いかける。

「ああそうだ。これはクロスフィールド家の為、ひいては国民の為の戦いだ」

「何を…言っているのだ」

「王族…レキ一族は、火炎魔法を独占し続けている」

「独占だと?…火炎魔法は王族のみに発現する固有魔法だぞ」

「おかしいとは思わないのか?固有魔法は遺伝しない。それどころか固有魔法が発現しない者も珍しくない」

「何を言っている…?」

「レキ一族は必ず火炎魔法を継承し、王位を守ってきた。火炎魔法という、人々の生活に不可欠な物を盾にしてだ」

カティが眉を顰めるのも構わず、ゲントクは続ける。

「火炎魔法は民間に広く使われるべき物だ、だから俺は…」

ゲントクが今一度剣に魔力を込めていく。

「…レキ一族を、事にした」

カティの背中を冷たいものが通り過ぎて行く。

「まさか団長…貴方は…」

「そうだ…カガセオに加わった」

カティの全身で毛が逆立つのを感じた。

「貴方と言う人は…王国を護る騎士団の長でありながら…王国に牙を剥くのですね」

「そうだ、それが民の為だ」

「貴方に民を語る資格は無い!」

カティは剣に魔力を込めて握り直す。

「その性根、某が叩き直してやります…っ!」

「おー、いーねいーね」

場の雰囲気に似合わない、緩い台詞を発して、二人の間でホエンがひょっこりと顔を出す。

「この勝負、盛り上げてやっちゃおうかな」

「ホエンくんか」

ホエンは目を細めると、ゲントクの肩を叩く。

瞬間、魔法陣が展開しゲントクへと吸い込まれて行った。

「おお…これは」

「貴様!何をした!」

「見ればわかるでしょ?強化魔法だよ。彼の成長リミッターを外して、潜在能力を引き出したんだよ」

「…ふんっ」

ゲントクが剣に魔力を込めると、今までの比にならない濃度の魔力塊となって剣を包んだ。

「これが…俺の潜在能力か」

「…くっ」

カティは歯を噛み締めて、剣を握る手に力を入れる。

「カティ副団長、この力を見て臆した事だろう。今退けば追いはしない」

「っ見縊らないで頂きたい!」

カティは全身の魔力を高めて行く。

「某は絶対に!貴方をここから先へ通しはしない!」

カティが剣を構えたその時である。

「っ!?」

爆音と共に地面が揺れた。

「…始まったか」

「何事だ…何をした!」

カティが端で笑みを浮かべるホエンへ鋭い視線を向ける。

「さっきこの辺を狙った爆破をね、色んなところでやってるんだよ」

「何…?」

「じきに御殿ごと崩壊かもねぇ」

カティの奥歯が欠けて落ちた。

「ん?…ほら、外見てみ?」

ホエンが窓の外を指差す。

カティは、その光景に剣を落としそうになった。

「街が…王京が…!」

京内のあちこちから、先に外から見た王宮のような黒煙が上がっている。

更に、カティの見ている中で新しい爆発が起こった。

「…………」

「副団長、これを見ても引かないのか」

「当たり前だ!」

カティは剣へありったけの魔力を込める。

「これ以上、勝手な真似は許さないッ!」

「じゃあ、勝負だ」

「参る…ッ!」

カティ、ゲントク両者が、攻めの構えを取った。

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