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第八十七話/剣聖

 ピンと張り詰めた空気が、カティとゲントクの間を支配する。

騎士団と魔物の戦闘音、京内で次々と起こる爆発の音、その一切が聞こえぬ程の集中力。

ゲントクが振りかぶると、カティも動く。

「はっ」

「はああああっ!」

両者同時に、剣から魔法が放たれた。

斬撃が廊下を渡り、中央で衝突する。

「はあああああっ!」

カティは持てるだけの魔力を全てぶつけていく。

ぶつかった魔力の衝撃波は凄まじく、余波を受けた大理石の壁面に大きなヒビが走っていく。

その中で、せめぎ合う斬撃の中心が、徐々にカティの方へ近付いていた。

「…そろそろ限界だろう、今ならまだ魔力を防御に回せるぞ」

「うるさい!某はッ!絶対に退かない!」

カティは近付いてくる魔法へ出涸らしの魔力を込め続ける。

「はあああああああああっ!」

ホエンは腕を組んで笑った。

「こりゃあもう終わったね」

「終わってない!」

カティが食らいつく。

「貴方には!絶対に負けないッ!」

一瞬、カティの周りにオレンジ色の光がフラッシュした。

斬撃は、カティの剣先へ触れる程に近付いていた。

だが、その瞬間を境にカティが押し始める。

「なん…」

それどころか、どんどん加速していく。

「はあああああああああああああッ!」

「っ」

ゲントクが魔力を込め直そうとする頃には、既に手遅れなほど近付いており、強力な魔力波はゲントクの身体を吹き飛ばした。

「なっ…...!?」

宙を舞う刹那、ゲントクはカティに押し負けた事実を痛みで感じ取った。

「俺は…っ」

壁に衝突して廊下を転がる。

衝撃と反動でマトモに立ち上がる事は出来なかった。

「はあっ…はあっ…」

息を切らしながら、カティが残心をとる。

「嘘…なんで?あれだけ勝ってたのに」

「当然だ」

ホエンの疑問に答えた声は、廊下の奥から聞こえ全員がそちらを向いた。

「へ…陛下…!?」

驚いたカティの膝が振り向きざまにカクンと折れる。

国王はそれを片手で受け止め、支え上げた。

「大丈夫か?」

「申し訳ありません…しかし、何故ここへ」

「奥はあらかた片付けたからな」

「えっ!?そんな危険な事を…」

国王はカティの背を叩いた。

「君らが戦っているのに私だけ引き篭っている訳にはいくまい」

その時、ゲントクが立ち上がろうと剣を床に立てた。

「…当然とは、どういう…?」

「ああ、簡単な事だゲントク団長。君はこれまでの戦績から、彼女に負けるはずがないと慢心していた。だが人間は常に成長し変化するものだ」

「だが、俺は途中まで…」

「ああ、君は強化魔法を使って差を広げたからね。土壇場でカティ副団長が成長したとしても、そこまでの急成長は見込めない」

「なら…」

「だが、覚悟の差があった」

「……?」

ゲントクは怪訝な顔を向けると、国王はカティの肩を叩いた。

「彼女は身命を賭してこの場を守らんと覚悟を決めた。君にそれだけの覚悟があったか?」

「…………」

「強い信念を持って魔法を使えば、勇者の加護がある」

「勇者の、加護…?」

「君たちは知らないだろうが、我々レキ一族が火炎魔法を守護しているのは、その力が王によって正しく使われなければならないからだ」

「…どういう意味?」

腕を組んだままのホエンがぶっきらぼうに疑問を投げる。

「火炎魔法の輝きとは、即ち魔法の輝きだ。勇者が民に与えし固有魔法は、勇者の火炎魔法によってその輝きを増す。カティ副団長の剣聖魔法がゲントク団長に押し勝ったのは、私の火炎魔法が彼女の覚悟に応じて魔法力を底上げしたからだ」

「アンタがそいつを強化したって事?」

ホエンに対して、国王は首を横に振る。

「私の意思で強化したのではない。この効果は常に自動発動する。君たち全員にそのチャンスがあったのだ」

「勇者の…加護…」

ゲントクが下を向いたまま反芻する。

「ゲントク団長、奢ること無く、本気で私を倒そうと思えば、君にも覚醒のチャンスがあるだろう」

「な…陛下!」

カティが驚いて国王の方を向く。

敵にパワーアップのコツを教えるなど、倒してくれと言っているような物だ。

だが国王は、静かに笑った。

「心配は要らないようだぞ、副団長」

「え?」

カティがゲントクに目を遣ると、何やら頭を抱えて苦しんでいる様相だった。

「加護…ぐっ…国王が…火炎魔法が…?」

しばらくすると、膝立ちのまま頭から手を離した。

「…俺は何故、こんな事を…?」

その様子を見たホエンが舌打ちをした。

「…どうやら、何かしらの暗示をして思い通りに動かしていたようだね」

「うるさい!王族はいつもそうやって人を見下して嘲笑う…っ!本当に嫌いだ!」

国王に対して怨念がこもった鋭い眼差しを向けると、ホエンはイアモニへ話しかける。

「ワドゥ!ちょっとソイツ貸して!…いいから早く!」

直後、ホエンの横にフードローブを被った男が転移してくる。

カティが剣を構えようとするのを、国王が制した。

「陛下?」

「君は下がって、ポーションでも飲んでおきなさい」

「ですが!」

その時、国王はカティを後ろへ突き飛ばした。

カティが壁に激突したその時だ。

国王の、文字通り目の前で爆発が起こった。

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