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第八十八話/騎士

「陛下!」

カティは壁を背に座り込んだまま叫んだ。

だが、爆炎はまるで見えない壁に当たったかのように、一定の位置より国王側へ近寄らない。

煙も国王を覆う事無く、前方のみに漂っている。

国王の額には、火炎魔法の象徴であるフレイムティアラが揺らめいていた。

ティアラは火炎魔法を使用する際に必ず出現する。

国王は自身の前方に、火炎魔法を応用した圧縮熱のシールドを展開し、身を守ったのである。

カティが胸を撫で下ろす一方、国王はその爆発が魔導具ではなく、魔法による攻撃であることに気付いていた。

「今の、魔法は…まさか…」

程なく二発目がシールド上で爆ぜる。

「そのまま殺しちゃえ!」

ホエンが叫ぶ。

「ぐっ…仕方ないっ!」

国王はローブの男へ手をかざし、魔力を込めた。

直後、国王と男の視線上で爆発が起こる。

「迎撃したか…」

国王が二発目を打とうとするも、男の方が早かった。

再びシールド上を爆発が襲う。

「ぐうっ…」

想定以上の威力に、シールド維持の魔力消耗が激しくなる。

国王が魔法を打つ手が一瞬遅れたのを、男は見逃さず追撃した。

だがその攻撃は、シールドに当たらなかった。

「なっ…」

ホエンが驚愕に目を丸くする。

国王と男の間に割り込み、爆発を剣で受けたのは、ポーションを咥えたゲントクであった。

ゲントクはポーションの空瓶を吐き捨てると、剣に魔力を込める。

「やっとボンヤリした感じが取れた…今までよくもコキ使ってくれたな…」

「や、やれ!」

ホエンの指示に男が手をかざすと、ゲントクの剣が爆ぜる。

「ぐあっ」

後ろへよろけるが、二歩で持ち直しすぐに構える。

「剣…聖…魔法…」

「う、うわあー!」

もはやただの叫びと成り果てたホエンの指示にも男は従い、ゲントクの足元が爆ぜる。

「ハズレだ」

爆炎が収まるより前に、それを突っ切ってゲントクが姿を現した。

「…っ!」

言葉を発する間もなく、ホエンは剣柄で小突かれ吹っ飛ばされた。

「ぐはっ!?」

廊下を転がる中で、イアモニが耳から外れて床を転がっていく。

「ぐ…っ」

ホエンが転がる中、命令を失い棒立ちしていた男に対しゲントクが剣を振る。

「ゲントク団長待てッ!」

国王の言葉にゲントクの剣が止まる。

直後、ローブの男は転移魔法でその場から消えて行った。

「あ…ワドゥの奴、勝手に…くっ…」

ホエンは、攻撃を受けた腹を抑えて立ち上がる。

「あれを受けてまだ立つか…いや、強化魔法か」

ゲントクの攻撃を受ける寸前、ホエンは咄嗟に自身の体へ防御力強化を付与していた。

「おかげで余計な魔力を消耗したよ…もうっ!」

ホエンが腕を振ると、隠し持っていた閃光玉が炸裂する。

「待て!…逃がしたか」

カティがホエンが居た辺りへ駆け寄るが、既に姿は見えなかった。

「…陛下」

ゲントクが国王の前で跪く。

「数々の非礼、お詫び出来る手段がございません」

「頭を上げなさい、ゲントク団長」

頭を上げないゲントクの肩に、国王が手を置く。

「君を団長に任命した事を、私に後悔させぬよう、騎士団を率いるものとして、務めを全うしなさい」

「…はっ!」

ゲントクが顔を上げる。

「ところで陛下、先ほど待てと仰ったのは…」

近づきざまに疑問を投げかけたカティに、国王の顔が曇る。

「ああ…それなんだが…」

その時、街で新たな爆発が起こった。

「…話は後でする。これより騎士団は市民の安全確保に努めよ。私も街に出て加勢する」

「陛下は宮中に…」

国王はカティの肩を叩く。

「魔物狩りくらい私にも手伝わせろ。身体が鈍っていかん」

「ですが…」

「では、君らに背中は預けよう。王が真っ先に逃げたとあっては、国民に示しがつかぬ」

カティとゲントクは顔を見合わせる。

「…今度裏切ったら容赦しませんからね」

「ああ、その時は迷わず斬り捨ててくれ、次期団長殿?」

二人は笑みを交わすと、拳を突き合わせた。

「…よし!では行くぞ!騎士団員を門前へ集めろ!」

「はっ!」

「はっ!」

国王が身を翻すと、二人の騎士はその後ろを続いた。

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