目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第九十一話/フードの下

「ふう、さてこの辺は片付きましたかね…」

「ワドゥっ!」

「お?」

ワドゥが横を向くと、メイが短剣を振りあげて斬り掛かるところであった。

咄嗟に転移した投げナイフで受け、金属音が響き渡る。

ナイフは軌道が逸れ、メイの上腕を掠った。

「貴女…わざわざ戻って来たのですか」

ワドゥが指を振ると、フードの男がメイの方へ手をかざす。

「っ!」

身構えるも、メイの身体は爆発も炎上もしない。

その手前へシュテンが割って入ったのだ。

瞬間、シュテンの右手が激しく発火するも、その手を横へ振り払うと、何事も無かったかのように消火した。

「…んだこりゃァ」

爆発に困惑するシュテンに対し、ワドゥが顔を引きつらせる。

「そりゃ、貴方もいますよねぇ…」

「シュテン殿…すみません!」

メイは一歩下がり、構えを取り直す。

「メイ、大丈夫か!」

「はい!」

遅れて駆けつけたアンナが剣を抜く横で、メイが叫ぶ。

「ワドゥ!そのフードの下を見せなさい…!」

「はい?」

ワドゥが怪訝な顔を見せる。

「先程から使っている魔法技、爆発や発火…そんな芸当が出来る魔法など限られています!」

「…メイ、まさかお前」

アンナがみなまで言う前に、ワドゥが笑い始める。

「気づいていましたか…では、しょうがないですね」

ワドゥが、隣に立つ男のフードをゆっくりと外し始める。

その手が、男の額を通り過ぎた頃、明らかに場の空気が変わった。

露わになった額には、炎が揺らめいていたのだ。

「フレイム、ティアラ…」

アンナが絶句する。

「ご紹介しましょう、王国第一王子で次期皇太子、コウ=レキです」

「第一、王子…だと!?」

場に走っていた緊張が更に加速する。

「ええ、国王が使う火炎魔法は強力ですからねぇ。同じ力を以て制しようと考えるのは、至極当然でしょう?」

「だが、王子が国を滅ぼすのに力を貸すなんて…」

「…洗脳魔法の研究」

メイがボソリと呟いた。

「え?」

ワドゥが拍手をする。

「ご名答ですよ。大変だったんですよ?ここまで実用化するのは」

ワドゥがコウの肩に手を回す。

コウは身動ぎひとつせず、ワドゥのされるがままになっていた。

「じゃあお前らは、王子を操って国民を攻撃させたってのか!」

アンナの追及に、ワドゥは口角を上げる。

「その通りですよぉ!何も知らずに死んでいった国民が、あの世で真実を知ったの事を考えると…あぁもう堪りませんねぇ!」

ワドゥが舌舐りを見せる。

「この腐れ外道が…っ」

アンナが歯を食いしばり、剣を握る手に力が籠りつつあったその時、隣のメイが突然前に飛んだ。

「うわあああああああああああぁぁぁ!!!」

「メイ!?シュテン止めろ!」

「あァ」

シュテンの横を通り過ぎる瞬間、メイはシュテンに肩を掴まれる。

「離して下さい!離してっ!」

「メイ落ち着け!無策に飛び込んだら火達磨にされるぞ!」

アンナも加勢して暴れるメイを取り押さえる。

「ん?…はいはい分かりましたよ」

対峙するワドゥは、イアモニへ話しかける素振りを見せたあと、大きな溜め息をつく。

「残念ですが、この場は預けますよ。急用が出来たのでね」

ワドゥの魔法陣が展開し、コウとワドゥを別々に包んでいく。

「待ちなさい!逃げるな!」

メイの叫びに応じること無く、転移が始まる。

「生きていれば、また逢いましょう」

「待って下さい!待って!…」

メイは目一杯に息を吸い込んで叫ぶ。

「…兄様ッ!」

「!?」

メイの叫声が木霊する中、コウとワドゥは虚空へと消えた。

動きを止め、そのまま項垂れるメイをアンナが担ぎあげる。

「…こっちも一度退くぞ。体制を立て直そう」

メイの腕から血が一粒、地面へ落ちた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?