短剣を順手に構え、メイはカイドウを見据える。
両者の間に流れる空気が張り詰めていく。
「っ!」
何かを察したメイが横に転がると、それまで立っていた地面が爆ぜる。
直ぐに立ち上がり構え直すも、前に出る暇は与えられず、コウの魔法を避けるべく横に飛ぶ。
「逃げてばっかじゃん、ほらほら!どうするの!?」
カイドウが煽る。
その間にも地面は爆発し続け、メイは回避で手一杯だ。
「くっ…」
避けきれない爆炎で煤けていくメイに、アンナは気が休まらない。
「クソ、シュテンやっぱり私も…っ!」
剣に手を掛けてシュテンを見上げるが、シュテンは首を横に振るばかりだ。
「まだだァ」
メイは徐々に息を上げながらも、直撃は何とか避け続けていた。
とはいえ、どうにか状況を覆す必要がある。
「…次の一撃、しっかりと見る」
誰にも聞こえない声で呟く。
「私に、火炎魔法を使う余地があるのなら…っ!」
カイドウの手元に注目し、短剣を握りしめる。
そしてコウが魔法を放つ瞬間を、見極めた。
「はっ…!」
その瞬間メイは全神経を集中し、爆発が発生する自身の顔面周辺へと魔力を集めた。
直後に空間は爆ぜ、メイは爆炎と煙に包まれた。
「メイ!」
アンナが思わず叫ぶ。
「……おお?」
カイドウがメイの方を見遣って眉を上げた。
煙が晴れていき、姿を現したメイは立ってカイドウを見据えていた。
「爆破に対応したか、へぇー」
カイドウは腕を組んでメイを見る。
「でもまだ不十分みたいだねえ、いつまで持つかな?」
メイがギリギリ展開した圧縮熱シールドは、国王のそれの様にはいかず、直撃から身を守る程度の効果しか無かった。
だが、火炎魔法を使えたという事実には変わりなく、それはメイを大きく鼓舞した。
息を整え、剣を構える。
「ふぅん、持久戦かい?ま、精々頑張ってね」
カイドウが手を振る。
メイが再び爆炎に包まれるが、今度は煙が収まる前に、中からメイが飛び出してきた。
「受けきった…っ!」
「なっ!?」
思わずカイドウが手を振る。
メイは右頭上の空間が爆ぜ、受け止めきれずに横へ転がされる。
「ぐっ…」
脳を揺さぶられ立ち上がるのに手間取るメイに対し、カイドウは眉を顰めた。
「ティアラも出せないような子供が、この火炎魔法を受けきった…?」
「…次っ!」
メイは立ち上がると、チカチカする目を抑えながらも構えをとった。
「ま、まぐれだよね…っ!」
カイドウが再び手を振り、コウが火炎魔法を放つ。
メイは眩む視界と上がる息の中、しっかりと前を見据え、爆破を受けた。
「…っ!」
爆炎を掻き分けメイが現れる。
「はああああっ!」
完全にカイドウの見込みを上回った。
メイは、その短いリーチでも一矢報いることが叶うほどに接近した。
完全に舐めて掛かっていたカイドウには、それを躱せる余裕は無かった。
「はああああっ!」
「っ!」
だが、メイの刃が届く前に、カイドウの視界に何かが入った。
「…え?」
「っ!」
「!?」
メイの遥か後方、路地裏から一人の子供が姿を現した。
カイドウの視線がそちらに吸われたのに、メイは気付いた。
カイドウの手が振られる刹那、メイは攻撃を中止し、自身の軌道を変えカイドウと子供の間に割り込んだ。
当然、魔法に割く余裕など無い。
申し訳程度に顔の前で組んだ腕に、コウの火炎魔法が、爆破が初めて直撃した。
「がは…っ」
メイはそのまま後ろへ吹き飛ばされ、地面へ叩き付けられて転がる。
「う…」
「へ…?」
子供の傍で止まったメイは、固まったまま動かない子供へと顔を上げる。
「危ないです…早く、裏へ…」
メイが何とか上げた手で奥を指差すと、その子供はコクコクと頷いて走っていった。
メイはその背中を見送るも、立ち上がるための力は入らず、石畳に頬を付ける。
その様子を見て、好機とばかりにカイドウが手を挙げた。
だが、その手を振る直前で殺気に気付き身体を引く。
そこへ、空気が破裂する轟音とともに叩き込まれたのは、シュテンの拳だった。
「あっぶな…この勝負には手を出さないんじゃなかったの?」
「タイマンならなァ…お前は今、メイじゃねェ人間を攻撃したなァ、ならこれはもォタイマンじゃァねェ」
「そうかい…じゃあキミが僕を楽しませてくれるの?」
シュテンはカイドウの正面へ立つ。
「お前みてェなのはよく相手にして来たがァ…楽しませてやるつもりァねェ、すぐに終わらせたらァ」