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第九十七話/メイ対カイドウ

短剣を順手に構え、メイはカイドウを見据える。

両者の間に流れる空気が張り詰めていく。

「っ!」

何かを察したメイが横に転がると、それまで立っていた地面が爆ぜる。

直ぐに立ち上がり構え直すも、前に出る暇は与えられず、コウの魔法を避けるべく横に飛ぶ。

「逃げてばっかじゃん、ほらほら!どうするの!?」

カイドウが煽る。

その間にも地面は爆発し続け、メイは回避で手一杯だ。

「くっ…」

避けきれない爆炎で煤けていくメイに、アンナは気が休まらない。

「クソ、シュテンやっぱり私も…っ!」

剣に手を掛けてシュテンを見上げるが、シュテンは首を横に振るばかりだ。

「まだだァ」

メイは徐々に息を上げながらも、直撃は何とか避け続けていた。

とはいえ、どうにか状況を覆す必要がある。

「…次の一撃、しっかりと見る」

誰にも聞こえない声で呟く。

「私に、火炎魔法を使う余地があるのなら…っ!」

カイドウの手元に注目し、短剣を握りしめる。

そしてコウが魔法を放つ瞬間を、見極めた。

「はっ…!」

その瞬間メイは全神経を集中し、爆発が発生する自身の顔面周辺へと魔力を集めた。

直後に空間は爆ぜ、メイは爆炎と煙に包まれた。

「メイ!」

アンナが思わず叫ぶ。

「……おお?」

カイドウがメイの方を見遣って眉を上げた。

煙が晴れていき、姿を現したメイは立ってカイドウを見据えていた。

「爆破に対応したか、へぇー」

カイドウは腕を組んでメイを見る。

「でもまだ不十分みたいだねえ、いつまで持つかな?」

メイがギリギリ展開した圧縮熱シールドは、国王のそれの様にはいかず、直撃から身を守る程度の効果しか無かった。

だが、火炎魔法を使えたという事実には変わりなく、それはメイを大きく鼓舞した。

息を整え、剣を構える。

「ふぅん、持久戦かい?ま、精々頑張ってね」

カイドウが手を振る。

メイが再び爆炎に包まれるが、今度は煙が収まる前に、中からメイが飛び出してきた。

「受けきった…っ!」

「なっ!?」

思わずカイドウが手を振る。

メイは右頭上の空間が爆ぜ、受け止めきれずに横へ転がされる。

「ぐっ…」

脳を揺さぶられ立ち上がるのに手間取るメイに対し、カイドウは眉を顰めた。

「ティアラも出せないような子供が、この火炎魔法を受けきった…?」

「…次っ!」

メイは立ち上がると、チカチカする目を抑えながらも構えをとった。

「ま、まぐれだよね…っ!」

カイドウが再び手を振り、コウが火炎魔法を放つ。

メイは眩む視界と上がる息の中、しっかりと前を見据え、爆破を受けた。

「…っ!」

爆炎を掻き分けメイが現れる。

「はああああっ!」

完全にカイドウの見込みを上回った。

メイは、その短いリーチでも一矢報いることが叶うほどに接近した。

完全に舐めて掛かっていたカイドウには、それを躱せる余裕は無かった。

「はああああっ!」

「っ!」

だが、メイの刃が届く前に、カイドウの視界に何かが入った。

「…え?」

「っ!」

「!?」

メイの遥か後方、路地裏から一人の子供が姿を現した。

カイドウの視線がそちらに吸われたのに、メイは気付いた。

カイドウの手が振られる刹那、メイは攻撃を中止し、自身の軌道を変えカイドウと子供の間に割り込んだ。

当然、魔法に割く余裕など無い。

申し訳程度に顔の前で組んだ腕に、コウの火炎魔法が、爆破が初めて直撃した。

「がは…っ」

メイはそのまま後ろへ吹き飛ばされ、地面へ叩き付けられて転がる。

「う…」

「へ…?」

子供の傍で止まったメイは、固まったまま動かない子供へと顔を上げる。

「危ないです…早く、裏へ…」

メイが何とか上げた手で奥を指差すと、その子供はコクコクと頷いて走っていった。

メイはその背中を見送るも、立ち上がるための力は入らず、石畳に頬を付ける。

その様子を見て、好機とばかりにカイドウが手を挙げた。

だが、その手を振る直前で殺気に気付き身体を引く。

そこへ、空気が破裂する轟音とともに叩き込まれたのは、シュテンの拳だった。

「あっぶな…この勝負には手を出さないんじゃなかったの?」

「タイマンならなァ…お前は今、メイじゃねェ人間を攻撃したなァ、ならこれはもォタイマンじゃァねェ」

「そうかい…じゃあキミが僕を楽しませてくれるの?」

シュテンはカイドウの正面へ立つ。

「お前みてェなのはよく相手にして来たがァ…楽しませてやるつもりァねェ、すぐに終わらせたらァ」

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