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第九十八話/カイドウ対シュテン

「シュテン!」

出遅れたアンナだったが、地面に突き立てていた大剣を抜いて走り出した。

しかしその行く手を阻むように、多数の魔物が魔法陣から出現する。

召喚魔法である。

「君はそっちで遊んでてねー」

「クソっ…!」

手を振るカイドウに対し、アンナは歯軋りと共に剣を振り上げた。

「さて…君はどのくらい耐えられるのかな?」

カイドウはシュテンへ向き直り、口角を上げる。

「…やってみろォ」

「じゃ、遠慮なく」

カイドウが手を振ると、シュテンの顔面が爆発する。

「…へぇ」

シュテンは後退りすることも無く爆破を受け止めると、目の前の黒煙を手で払う。

もちろん、顔には傷一つ付いていない。

「頑丈だね、君」

「この程度で馬鹿言うなァ」

「ふぅん?じゃあ…」

その会話の中、カイドウはコウに魔力を込めさせていた。

狙いは、コウが出せる最も高火力な爆破だ。

「これなら、どうかな!」

カイドウが手を振る。

シュテンが一瞬眩い光に包まれ、すぐに一帯を土埃が包んだ。

衝撃波が広がり、近くの壁が震えガラスが割れる。

「っ…シュテン!?」

アンナが相対していたレッドウルフの群れも吹き飛ばされ、本人も思わず剣を地に刺して耳をおさえる。

シュテンが立っていた場所は巻き上げられた土埃と黒煙で何も見えないが、足元の石畳は捲れ、円状に地面が露出しクレーターのようになっていた。

カイドウも思わず笑みを零したその時である。

「鬼道・濫技『神出鬼没』」

「っ!?」

一瞬の乱気流の後、カイドウの視界がシュテンの肉体で埋まった。

見上げると、その拳が振り上げられているのが分かった。

「鬼道・装技『意鬼揚々』」

その拳に妖力が集まり、鬼の爪となってアッパーカットを繰り出した。

鬼の爪は空間を切り裂き、鋭利な音を轟かせる。

「…っぶなぁ!?」

その矛先にいたはずのカイドウは、咄嗟に転移魔法を使用し後方へ避けていた。

二人分転移する余裕は無く、コウは元いた場所でコントロールを失い膝を着いて静止した。

また、自身も転移が間に合わず、胸部に切り傷を受けた。

「…やってくれるじゃんキミ」

「避けたかァ…」

シュテンは鬼の爪を解くと、妖力を全身に行き渡らせる。

「鬼道・濫技『一鬼当千』」

全身の筋肉が活性化し、額の角が少し伸長する。

「僕、本気出しちゃうからね?」

「あァ、俺もだァ」

互いに不敵な笑みを交わすと、カイドウは転移する。

転移先は、シュテンの背後だ。

「シュッ」

魔力を込めた蹴りが、シュテンの右米噛を捉えた。

「!?」

「あァ?」

だが、シュテンは身じろぎ一つしないどころか、まるで巨岩を蹴ったかのような痛みと徒労感がカイドウの足に走った。

シュテンはその足を掴もうと左手を出すと、その前にカイドウは再転移し今度はシュテン左側へ移動する。

ガラ空きの左脇腹へ正拳突きをお見舞いするも、同じく山肌を殴っているような途方も無さに襲われた。

「んだァ?」

「っ…!」

カイドウは更に転移し、一度シュテンから距離をとる。

「どうなってんのキミ…?」

「そりゃこっちの台詞だァ、ちょこまか動きやがってよォ…」

「…へぇ、スピードでは転移に敵わないって事か…それじゃあ」

カイドウは構えを取ると、転移する。

シュテンの後ろ、右前、左上、正面と次々に移動し、攻撃を積み重ねていく。

「少しずつでも消耗させれば僕の勝ちって訳だ!」

「…あー」

シュテンは腕を下ろすと、サンドバッグのようにカイドウの攻撃を受け入れる。

「どうした?反撃しないの?速すぎて出来ないのかな?」

徐々に煽りが増えていくカイドウを尻目に、シュテンは一言も喋らない。

「ほらほら!やられちゃうよ!」

そして密かに魔力を蓄えていた右足を上げ、渾身の一撃のために最初と同じく右後ろへ転移しシュテンの米噛を捉えた。

「…………へ?」

その右足は目標に届くことなく、シュテンの左手に掴まれていた。

「…っ!?」

シュテンは乱暴にそれを振り回すと、正面へ投げ捨てる。

野球かのように投げ出されたカイドウは、壁にぶつかる前に転移し事なきを得たが、自身に何が起こったのか分からず困惑した。

シュテンは首を回しながら、妖力を高める。

「鬼道・装技『狂鬼乱舞』」

シュテンの全身を揺らめく妖力が包み込む。

怪訝な顔で、カイドウがシュテンに問う。

「キミ、どうやって僕を捕まえた?」

シュテンは顔を上げると、淡々と返した。

「見切ったァ」

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