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第64話

高度に医療が発達していくと、壊れてしまった細胞や器官を移植することで人は200歳まで生きられるともいわれている。


俺がこの世界でどれくらいの寿命となるかはわからないが、病気にかからず食生活や環境衛生に配慮していれば70~80歳くらいまでは生きられるかもしれない。


魔族やエルフは確かに長命だが、ベースとなる体が強かったり魔力の影響もある気がした。先天的に体が強ければ乳児死亡率は低いだろうし、添加物や環境汚染がない世界でなら生活環境も整いやすいはずだ。公衆衛生の面では不安要素もあるが、そういった概念で考えれば食生活さえしっかりしていれば驚くほどの長命ではない気がした。


人族の寿命が短いのは、魔力の大きさや乳児死亡率以外にも、戦争による死亡者が多いのも要因かもしれない。


「失礼なことを聞いてもよろしいですか?」


「内容によるわね。」


「私から見てあなたは10代半ばから後半に見えますが、それで合っていますか?」


「ああ、女性に年齢を聞くから失礼ってことね。別にかまわないわよ。人族でいうならそれくらいだけど、生きた年齢でいえば35歳よ。」


なるほど。


平均寿命から割り出せば確かにそのあたりの計算になる。


「では、一緒に来られた方々はもっと年上というわけですね。」


「そうね。で、あなたはいくつなの?私にだけ聞くのはずるいでしょう。」


「24歳です。」


「そう···成人したばかりかと思ったわ。」


王国では18歳が成人年齢だ。


「あなたがたの成人年齢も18ですか?」


「いいえ。私が成人するにはまだ1年あるわ。」


まぁ、倍生きるからそうなるか。


というより、未成年と結婚しろということだったのか?実年齢を聞いたから倫理的にどうこうは思わないが、日本の女性も以前は16歳で結婚できたからそれと似たようなものだろうか。


「なるほど。」


「子供扱いはしないでね。種族としては未成年だけれど、あなたより年上よ。」


「もちろん。」


「そうだわ。まだ到着までに時間がかかるから、あなたが本当に賢者かどうか確認させてもらうわね。」


賢者ではないのだがとは言いづらい。


エフィルロスは馬車内に置いてある箱から棒状のものを出し、俺に手渡してきた。


意味がわからずに彼女の顔を見る。


「それを見てどう思う?」


「力を加えてもかまいませんか?」


「ええ、取扱いには注意してね。」


俺は両端を握りゆっくりと力を加えた。


一件鉄の棒に見えたが、触れることですぐに鉄や鋼ではないと気づいた。色が黒く、ツヤがほとんどない。何かの繊維を結って棒にしているように見える。


「素材は何ですか?」


「名前は知らない。ある石から抽出したもので作っていると聞いたわ。熱や腐食に強くて折れにくい。」


知識の中にあるもので一番近いものを選び出す。


「もしかして、その石というのは黒や灰色、物によっては赤や紫色をしていませんか?」


「そうよ。知っているのね。」


「こちらではなんという名称かわかりませんが、玄武岩やバサルトと呼ばれるものではないかと思います。」


玄武岩は地球では最も一般的な岩石だといえる。簡単にいえば溶岩に玄武岩質が多く含まれているのだ。基本色は黒か灰色に見えるが、鉄分の酸化により赤や紫がかった色のものもある。


「正解よ。バサノスという岩から作られたそうよ。」


この玄武岩からはバサルト繊維を作ることができる。バサルト繊維とは、玄武岩を溶解させて射出紡糸することで作られる。耐火性、耐腐食性のみならず、酸やアルカリなどにも強く、高強度高弾力な性質を持つ。


ガラス繊維よりも結合力が強く、耐熱耐アルカリ性では遥かに優れた効果を発揮する。断熱性や遮音性、絶縁性も高いため、コンクリートの補強材や防刃手袋以外にも、消防服や防火カーテンにも使われる優れものだ。強化プラスチックの素材としても使用できるので非常に興味深いものだといえた。


「溶解温度は鉄とそれほど変わりませんが、紡糸技術が帝国にはあるのですか?」


バサルトは1500度が融点である。鉄が1536度なのを考えると、溶かすことに関してはクリアできるだろう。しかし、それを射出紡糸する技術があるのだろうか。


「現在では作れる者はいないわ。それは100年ほど前に現れた賢者がもたらせたものだもの。」


「賢者ですか。」


「ええ、現在では原料となる石のことを知っている者もほとんどいない。それを当てたのだから、あなたは賢者であることを証明した。」


···マジか。


バサルト繊維って、20世紀後半の技術だぞ。工業製品化されてまだ40年弱だったはずだ。確かに100%玄武岩からできているものだから溶解と紡糸技術さえあれば製作は可能だが、どんな発想力があればできるのか。


天空都市を作るぐらいだから可能なのかもしれないが···シャーナ人って本当に何者だろうか。


しかも、これでまた俺への誤解が広がりそうだった。





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