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第65話

時間にして半日くらいだろうか。


ようやく都市といえるものが見えてきた。


国境から推測で100km以上は移動したと思われる。


途中の道はまっすぐではなく、所々が狭い畦道のような感じであったのも時間がかかった要因だ。


王国とはあまり行き来はないと聞いていたため、道があっただけでもマシなのかもしれない。


道中、エフィルロスとは雑談をかわした。


帝国に関する情報を得ようと間接的な話題を振って話を広げようとしたのだが、やんわりとかわされた感がある。


今の時点では必要最小限のことしか教えてはもらえなかった。


ただ、俺の頭の中はバサルト繊維のことが大半を占めている。


現在は生産されていないとはいえ、あれが100年も前に作られていたことを思えば、帝国に対する興味がつきない。


バサルト繊維の知識をもたらせたのはシャーナ出身の賢者ということだったが、子孫はいるのだろうか。


生産手法は残っていないらしく、そこから子孫もいない可能性の方が高い気がした。


「ここからは歩きよ。」


都市の入口で馬車をおりることになった。


すり鉢状になった地形で、それほど大きな都市ではない。所々に破損した石壁があり、かつては戦場とまではいかないものの戦闘の面影を見ることができた。


すれ違ったり遠目にいる人々は、あからさまではないにしてもちらちらと俺に視線をやっている。


共にいる冒険者たちも人族であることから、黒髪黒目の俺を異質なものとして捉えているのかもしれない。


「珍しい地形ですね。防衛から考えれば、中心に行くに従って窪地になっているのは解せない。」


窪地の土地など、水害に弱いとしか思えなかった。そのため、水路が数多く存在する。


「ここは鉱山の跡地が都市として発展した所だから。」


鉱山といえば山を連想する。


しかし、露天掘りだとこのような地形になるので不自然ではなかった。


「なるほど。」


「この近くには湖もあるけれど、そこも同じ鉱山跡よ。」


「何の鉱山ですか?」


「燃える石。コールと呼ばれているわ。」


「黒い石ですか?」


「ええ。あなたも知っているのね。」


石炭か。


石油が知られていなかったのは、近郊で産出されていないからだろう。


石油の多くは生物由来である。数百万年前の生物の遺骸が炭化水素へ変化したものだといわれているのだ。


石油がある油田層は地中にあり、辺境や海底であることが多い。偶然でもなければ発見されにくいといえる。


一方、石炭は数千万から数億年前の生物の遺骸が海底や湖底に堆積して地圧や地熱により変化したものである。今も水中にあるなら発見されにくいが、海岸線は地殻変動などによって長い年月を経て変化するものだ。湖も何らかの現象で干上がってしまう。


そういった場所で石炭が発見される可能性は石油よりも高いのだと思えた。


「もしかして、戦争の原因だったりするのでしょうか?」


「そうね。コールだけが原因ではないけれど、その一端ではあるわ。」


なるほど。


近隣諸国は帝国の資源を狙って侵攻したと聞いている。他にもあるかもしれないが、そのひとつが石炭ということだ。


今いる都市はもともと違う国である。


近くの湖が以前は石炭鉱山だったとすると、露天掘りで掘り尽くした末路というわけだ。


確かに、石油がなければ石炭に依存するのはよくわかった。枯渇した燃料資源を新たに得るために戦争を仕掛けたというわけである。


前世でもかつてはブラックダイヤモンドと呼ばれていたほどなので、戦争の理由としておかしくはない。


因みに、俺が過ごしていた地域や国では石炭は使用されていなかった。石炭が産出しやすいのは、古代に湿原や湿地帯があった地域に近い場所だ。輸送手段に難があって入って来なかったと考えるのがよさそうである。




都市の中心部に向かうと、周囲よりも一際大きい建物が視界に入ってきた。


「あそこを拠点にしているの。他のメンバーもいるわ。」


「他のメンバーですか?」


「そう。この地域を治めるために指名された人たちよ。」


この地域は戦争が終わってから帝国領となり、慣例に従い新たな国が興ったそうだ。


「ここが新しい国の中心なのですか?」


「中心ではないわ。最近になってようやく落ちついてきたから、本格的に国として機能させるために間借りしているという感じよ。」


「王国にほど近い場所なのは何か意味が?」


「理由のひとつはあなたがこれまで滞在した都市と連携するためよ。」


連携?


まさか、帝国に引き入れようとでも言うのだろうか。


「連携にも様々な意味があります。まさか、支配するつもりではありませんよね?」




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