目次
ブックマーク
応援する
9
コメント
シェア
通報

第44話:大人気ですわぁ~~~~。

「お久しぶりです、編集長」


 編集長……!?

 も、もしかしてこのお方が、豚聖社の編集長様……!?

 つまりカイさんの、直属の上司に当たる方――!


「フフフ、あなたがヴィクトリアちゃんね?」

「あ、はい! お初にお目にかかります! ヴィクトリア・ザイフリートと申しますわ。普段は王立騎士団第三部隊の隊長を務めております」


 わたくしはたどたどしいカーテシーを披露します。


「ニャッポリート」

「あ、こちらは第三部隊の特別顧問の、ニャッポですわ」

「アラァ、可愛い猫ちゃんだこと。ルールルルル」


 編集長はニャッポの顎の下を慣れた手つきでスリスリと撫でます。

 ニャッポは目を細めながら、ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らしておりますわ。

 流石大手出版社の編集長ともなると、猫の扱いにも長けておりますのね……!


「私は編集長のガブリエラです。あなたの原稿読ませてもらったわよ、ヴィクトリアちゃん」

「――!」


 編集長はそのドチャクソ長いまつ毛で、バチコンとウィンクを投げてこられました。

 ふぉっ!?


「そ、そそそそそそれは恐縮ですわ!」


 編集長なのですからわたくしの原稿にも目を通しているのは当然なのでしょうが、編集者の頂点とも言える方にわたくしの小説を読んでいただいているという事実に、冷や汗が止まりませんわぁ~~~~。


「フフフ、あなたの原稿率直に言って――」

「……!」


 ゴ、ゴクリ……!


「すううううううううんばらしかったわよおおおおおおおおおおおお」

「っ!?」


 えーーー!?!?!?


「あなたのメガネ男子が好きという情熱が文章からひしひしと伝わってきて、もう私、読んでてハートゥがギュンギュンしちゃったわよおおおおおおおお」

「あ、そ、それはどうも……」


 編集長は両手で心臓の位置にハートを作りながら、そのハートを前後させておりますわ。

 う、うおおぉ……。

 まさか編集長にここまで言っていただけるなんて……!

 嬉しいというより、あまりの勢いに圧倒されてしまいますわぁ……。


「いいことヴィクトリアちゃん? 本気でプロの作家を目指したいなら、何より大事なのは本の売上よ」

「――!」


 途端、編集長は真剣な表情でそう仰いました。

 そ、それは……、仰る通りですわね……。


「――でもそれと同じくらい大事なのが――ココよ」

「――!!」


 編集長は右手の親指で、自らの心臓の位置をトントンと指したのですわ。

 へ、編集長~~~~!!!!


「じゃあね。今日は存分に楽しみなさい」

「は、はい、ありがとうございますわッ!」

「お疲れ様です」

「ニャッポリート」


 最後に編集長はも一つバチコンとウィンクを決めると、颯爽と去って行かれたのですわ。

 カッケェですわぁ~~~~!!!!


「ははは、いつもながら、嵐みたいな人ですよね」

「そ、そうですわね」


 普段からあんな感じなのですわね?

 やはり大手出版社の編集長は、格が違いますわぁ~~~~。


「あ! ラースくんじゃない! 相変わらずイケメンねぇ!」

「――!」


 その時でした。

 今度は小柄で人当たりが良さそうな、30代中盤くらいの女性がラース先生に声を掛けてこられました。

 こ、この方は……?


「はは、お久しぶりです、ニナ先生。お元気そうで何よりです」


 ニナ先生!?!?

 ま、まさか――!


「ヴィクトリア隊長、こちらが、ニナ・クレーベ先生です」

「どうもー、ニナでーす。あなたは見ない顔ね? 新人さん?」

「あ、はい! こ、今度アンソロで書籍化デビューいたします、ヴィクトリア・ザイフリートと申しますわ! ニナ先生の『魔法学園シリーズ』の大ファンです! お、お会いできて光栄ですわ!」


 ニナ先生といえば、長年小説界を一線で走り抜けて来た大ベテラン作家様ですわ!

 特に学園ラブコメを得意とされており、中でも代表作の『魔法学園シリーズ』は、シリーズ累計発行部数1000万部超えの超絶大ヒット作で、何度も舞台化されております!

 わたくしがラース先生の次に影響を受けている、ドチャクソ敬愛している先生なのですわぁ~~~~。

 そんな憧れの方にこうしてお会いできるなんて……!

 これだけで、今日来た甲斐がありましたわぁ~~~~。

 ……それにしても、ニナ先生は優に50歳は超えているはずですが、どの角度から見ても30代にしか見えません……!

 やはりニナ先生くらいになると、年齢すらも超越してしまうものなのですわねぇ……。


「あはは、ありがとー。あなたの本も、発売したら読ませてもらうわね! ――ところで、二人はどんな関係なの?」

「――!」


 ニナ先生が、ニヤニヤしながらわたくしとラース先生の顔を交互に見比べます。

 ふおっ!?


「ラ、ラース先生はわたくしの小説の師匠なのですわ」

「そして王立騎士団では、僕の直属の上司に当たる方でもあります。騎士としては、ヴィクトリア隊長が僕の師匠なんです」

「えー!? 何それぇ!? つまり二人は、お互いがお互いの師匠であり、弟子でもある……ってコト!? そんなんもうラブコメじゃあああああん!!! ラブのコメが吹き荒れてるじゃあああああん!!!」

「っ!?」


 ニ、ニナ先生???


「ふおおおおおお!!!! 降りてきたあああああ!!!! 新作のアイデアが降りてきたわああああ!!!! こうしちゃいられないわ! 早速プロット切らなきゃ! じゃあね!! お幸せに!!」

「ニ、ニナ先生ッ!?」


 ニナ先生はハイテンションでスキップしながら、どこかへ行ってしまわれました……。

 や、やはり一流作家は、あれくらい常に小説のことを考えてらっしゃるのですわね。

 そういう点は、ラース先生と同じですわ。

 わたくしも見習いませんと――!


「ははは、参りましたね。これはいずれ僕とヴィクトリア隊長をモデルにした、学園ラブコメ小説が発売されちゃうかもしれませんね」

「そ、そうですわね!」


 ラース先生が満更でもないお顔で、メガネをクイと上げられます。

 ラ、ラース先生???

 その表情は、どういった感情なのです???


「あっ、ラース先生、探しましたッ! こちらにいらっしゃったんですね!」


 その時でした。

 わたくしと同年代くらいでメガネに黒髪三つ編みの、ザ・文学少女といった風貌の女性が、ラース先生に声を掛けてこられたのです。

 流石ラース先生、大人気ですわぁ~~~~。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?