「ああ、ベティーナ先生、お久しぶりです」
ベティーナ先生……!?
ま、まさかこの方は――!
「ヴィクトリア隊長、こちらが
マア!!!
この方が……!!
わたくしと同い年の18歳でアキュターガワ賞を受賞した、今文学界で最も注目を集めている作家の、ベティーナ先生。
受賞作にしてデビュー作の『ノーパン店長』はわたくしも読みましたが、序盤はコメディーかと思わせてからの、終盤で店長がずっとノーパンだった理由が判明した途端、感動的な人間ドラマになる構成は圧巻の一言でした。
ラース先生もアキュターガワ賞を取ったのは18歳でしたし、やはり天才は若くして歴史に名を刻むものなのですわね……。
それに比べて、わたくしはまだやっとアンソロで書籍化デビューが決まったばかり。
お二人の背中は、果てしなく遠いですわ……。
こんなことで本当にわたくしは、ラース先生のような偉大な作家になれるのでしょうか――。
「……あなたは?」
ベティーナ先生はわたくしに、怪訝な目を向けます。
はわわわわ……!
「も、申し遅れましたわ! わたくしはラース先生の弟子の、ヴィクトリア・ザイフリートと申しますわ!」
わたくしはたどたどしいカーテシーを披露します。
「…………は? 弟子?」
「――!?」
が、その途端、ベティーナ先生が鬼のような形相になりました。
んんんんんん!?!?
「……どういうことですかラース先生。私があれだけ懇願しても頑なに弟子にしてくださらなかったのに、なんでこの人のことは弟子にしてるんですかッ!?」
えっ!?
ベティーナ先生も、ラース先生に弟子入りを志願してたのですか!?
「そ、それは……、ベティーナ先生は僕なんかが教えなくても、十分プロになれると思ってましたから……。現にこうしてアキュターガワ賞でプロデビューしたじゃありませんか」
「そういうことじゃありませんッ! 私はラース先生に憧れて、プロになると決めたんです! ラース先生こそが、私の全てなんです! もっと私はラース先生のことが知りたいんです! ――だからお願いします。今からでも、私のことを弟子にしてください!」
ベティーナ先生はラース先生に深く頭を下げました。
こ、この方もわたくしと同じく、ラース先生の小説に感銘を受けて、プロを夢見たのですわね……。
そういえば『ノーパン店長』の主人公は、メガネのイケメン小説家という設定でしたわね。
もしかしなくても、モデルはラース先生に違いありませんわ。
「……申し訳ありません。僕はヴィクトリア隊長以外の人を、弟子にするつもりはありません」
「――!!」
ラ、ラース先生……!
「くっ! な、なんでですか!? なんでその人のことだけは、そんなに贔屓してるんですか!?」
贔屓……!?
「ヴィクトリア『隊長』って呼んでるってことは、もしかして王立騎士団のラース先生の上司ってことですか!?」
「……はい、確かにヴィクトリア隊長は、僕の直属の上司に当たる方です」
「……やっぱり。ちょっとあなた、卑怯ですよ! 職権を濫用して、ラース先生に無理矢理弟子入りするなんて! これってパワハラじゃないですかッ!」
「なっ!?」
ベティーナ先生がわたくしを指差して、激しく糾弾します。
確かに状況だけ見れば、わたくしが上司という立場を利用して、ラース先生に弟子入りを強要したような印象を受けますわよね……。
実際わたくしも騎士としてラース先生を鍛えることを交換条件に、弟子入りを提案したのですし……。
「それは違いますよベティーナ先生。僕はあくまで、自分の意志でヴィクトリア隊長を弟子にしたのです。決して強要されたわけではありません」
「「――!!」」
ラース先生……!!
「じゃ、じゃあ、尚更この人を弟子にする理由なんてないじゃないですか……。――ま、まさかラース先生、この人のことを――!?」
「っ! ……そ、それは」
ヌッ!?
ラース先生が頬を桃色に染めながら、目を逸らしてしまわれましたわ。
ベティーナ先生は、何に気付かれたのです???
「あ……! あぁ……あ……!! そんな……!! うがああぁぁ……!! 脳が……!! 脳が破壊されるううう……!!!」
「ベティーナ先生!?」
何故わたくしの周りには、こんなに脳が破壊される方が多いのですかぁ~~~~???
「大丈夫ですかベティーナ先生!?」
わたくしは咄嗟に、ベティーナ先生の肩に手を置きます。
「さ、触らないでくださいッ!! 私は絶対に、あなたのことなんか認めませんからねッ!!」
「――!」
ベティーナ先生は警戒心の強い野良猫みたいに、わたくしをシャーッと威嚇します。
か、完全に嫌われてしまいましたわぁ~~~~。
「ニャッポリート」
「「「――!」」」
その時でした。
普段はこういうシリアスな空気の時は黙っているはずのニャッポが、今日に限って最悪のタイミングで鳴いてしまったのですわ……!
何故なのですかニャッポォ~~~~。
ニャッポリートォ~~~~。
「こ、この猫ちゃん……は?」
おや??
野良猫モードだったベティーナ先生の雰囲気が、途端に柔らかくなりましたわ??
「あ、これはわたくしの隊の特別顧問の、フェザーキャットのニャッポですわ」
「ニャッポリート」
「へ、へぇ? 特別顧問の、フェザーキャット、ねぇ? ふうううん?? なるほどねぇ??」
ベティーナ先生がニャッポのことをチラッチラ見ながら、ソワッソワされてますわ。
これは――!
「あー、よろしければ、撫でてみますか?」
「っ!? い、いいんですかッ!?」
フフ、やはり。
喰いついてきましたわ――!
「ええ、いいですわよね、ニャッポ?」
「ニャッポリート」
ニャッポがベティーナ先生に向かって、小さな頭をちょこんと差し出します。
「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……。はわぁ~~~~、毛がサラッサラ~~~~」
ニャッポの頭を撫でるベティーナ先生のお顔は、完全に蕩けきっておりますわ!
「ニャッポリート」
「ひゃあっ!?」
そんなベティーナ先生の手を、ニャッポはペロリと舐めたのです!
ニャッポ……おそろしい子……!!
「え、えへへへへへ~~~~、くすぐったいよニャッポちゅわ~~~~ん」
ニャッポちゅわん???
このお方、何気にとんだ萌えキャラですわぁ~~~~。
「……ハッ!? くっ! こ、このくらいじゃ私は誤魔化されませんからねッ! 私は絶対に、あなたのことは認めませんからッ!」
そう言うベティーナ先生は、依然としてニャッポの頭を高速でナデナデしておりますわ。
フフフ、身体は正直なようですわね!
「ぜ、絶対に認めませんからぁ~~~~」
捨て台詞を吐きながら、ベティーナ先生は逃げるように走り去って行かれました。
――ウム。
「お手柄ですわ、ニャッポ!」
「ニャッポリート」
流石は特別顧問ですわ!
「あ~、ラース先生だぁ」
「「「――!」」」
次から次へと……!
今度はどなたです!?