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第54話:カッケェですわあああああ!!!!

『ヴォルフガング団長ッ!! それだけはやめてくださいッ!!』


 リュディガー団長が懇願するように、泣き叫びます。

 普段は温厚なリュディガー団長がここまで取り乱すところを見たのは、初めてですわね……。

 ……これからお父様がやろうとしていることを考えたら、さもありなんといったところですが。


『信念は固く 意志は鋭く』


『だ、団長――!』


 ですが、お父様はリュディガー団長の制止を無視して、詠唱を始めます。


『ククク、これは桁外れの魔力だ。――だが無駄だよ。たとえ神であろうと、私には傷一つ付けることは能わん』


 お父様のを前にしてこの余裕……。

 【好奇神ロキ】にはいったい、どんな切り札が……?


『刻よりも速く 魂よりも熱く

 この槍は穿つ 彼方の空までも

 そして舞い戻る 勝利を携えて

 ――絶技【次元ヲ穿ツ槍グングニル】』


 お父様の右の拳に纏った膨大な魔力が、槍の形になりました。

 そしてお父様はその槍の拳を、目にも止まらぬ速さで【好奇神ロキ】に突き出したのですわ――。

 これぞお父様の最終奥義、【次元ヲ穿ツ槍グングニル】。

 ……数年分の寿命を代償に、森羅万象すべてを貫く槍を生成するのですわ。

 これを受けて生きていた人間は、今までただの一人もいないそうです。


『――だから無駄だと言っているじゃないか』

『……なっ!?』


 そんな!?

 【次元ヲ穿ツ槍グングニル】が【好奇神ロキ】の心臓に届くその刹那、【次元ヲ穿ツ槍グングニル】はその場でピタリと止まってしまいました。

 バカな……、【次元ヲ穿ツ槍グングニル】でも貫けないものがあるだなんて……!


『……クッ!』

『ヴォルフガング団長ッ!』


 それどころか、【次元ヲ穿ツ槍グングニル】の刃先がガリガリと削れていきます。

 な、何が起きているというのですか――!?


『私の開発した魔導具であるこの【輝く神の前に立つ楯スヴェル】は、物質であろうが魔法であろうが、触れたものをことごとく原子レベルまで分解する無敵の透明なバリアだ。君のこの槍がどれほどの神懸った性能を持っていようとも、魔導科学わたしの前には玩具も同然だよ』


 なっ……!?

 こ、これが、【好奇神ロキ】の力……!!

 こんなのいったい、どうやって勝てというのですか……!


『う……る……せぇ!!』

『……何?』

『ヴォルフガング団長ォッ! もうやめてくださいッ!』


 ですが、お父様はそれでも構わず、【次元ヲ穿ツ槍グングニル】を押し続けます。

 遂には【次元ヲ穿ツ槍グングニル】の刃は全て削り取られ、今度はお父様自身の拳も血しぶきを上げながら削られ始めたのです――。

 お、お父様――!!


『おやおや、このままだと君の腕は無くなってしまうよ? まさかそんなこともわからないほどバカだったのかい、【軍神伯爵オーディン】?』

『……さ、最後に一つだけ……教えてやるよ……【好奇神ロキ】……』

『ん?』

『――この世で一番強いのはな……、腕力でも魔法でも、魔導科学でもねぇ……、だよ、オラアアアアアアアアア!!!!』

『なぁっ!?』

『団長ォッ!!』


 その時でした。

 【輝く神の前に立つ楯スヴェル】にピシピシと、ヒビが――!!


『そ、そんなバカな……! あ、有り得ない……! わ、私の魔導科学が、こんな脳筋男に……!!』

『……いい勉強になっただろクソジジイ。精々地獄でしとけや――』

『ガ…………ハ…………!!』

『団長ォォッッ!!!!』


 遂にはお父様の右腕は【輝く神の前に立つ楯スヴェル】を木端微塵にし、そのまま【好奇神ロキ】の心臓を貫いたのですわ――。

 お、お父様あああああああああああああ!!!!!!


『ク、ククククク……、なるほど……、世界というのは……実に広いな……【軍神伯爵オーディン】』


 【好奇神ロキ】は仰向けに崩れ落ちました。

 ……終わりですわね。

 そしてお父様の右腕は、肘から先が無くなっていました……。


『だが……覚えていたまえ……。私は……。その時はまた、久闊を叙そうじゃないか……』


 な、何ですって……!?


『ケッ、俺は二度と、お前になんか会いたくねーよ』

『ククク……つれない……ねぇ…………』


 そして【好奇神ロキ】は、ピクリとも動かなくなってしまいました。

 これは、確かに死にました……わよね?


『――ジバクソウチガサドウシマシタ。タダチニタイヒシテクダサイ』

『なっ……!?』


 その時でした。

 けたたましいサイレンと共に、そんな自動アナウンスが――!!


『チッ! このクソジジイ、自分が死んだらこの基地ごと爆破するようにしてやがったのか……! 最後の最後まで、汚ねぇジジイだぜ……!』

『ヴォルフガング団長ッ! 今すぐここから脱出しましょう!』

『……いや、悪いけどそりゃ無理だ、リュディガー』

『――!?』

『今ので俺はもう……魔力が完全に切れちまった……。せめてお前だけでも、逃げろ……。これは命令……だ……』

『団長ッッ!!!』


 お父様の視界は、ここで闇に覆われました――。

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