『ハァ……! ハァ……!』
『…………ん? なっ!? リュディガー!?』
お父様が目を覚ますと、お父様はリュディガー団長に背負われていました。
リュディガー団長は熊のような巨体のお父様を背負いながら、一歩ずつ震える足を前に出しておりますわ。
『オイッ! 俺の命令が聞こえなかったのか!? 俺のことは置いて、お前だけでも逃げろって言っただろうがッ!』
既に施設は崩壊が始まっているらしく、建物全体がグラグラと揺れており、そこかしこに瓦礫が落下してきています。
『……ええ、聞こえました。ですからこれは、明確な命令違反です。後でどんな処罰でも受けます』
――リュディガー団長!!
『な、なんでだ……! 何故そこまで、お前は……!』
『……それはあなたが英雄だからですよ、ヴォルフガング団長』
『……!』
『あなたこそがこの国の英雄なのです。私などは、あくまであなたのサポート役に過ぎません。――そして英雄は、生きて帰ってこそ、人々に希望を与えることができるのです』
『リュ、リュディガー……!』
『だからあなたのことだけは、私がこの命に代えても――必ず生きて帰します!』
『……クッ、バカ野郎が……!』
リュディガー団長おおおおおおお!!!!
わたくしにとっては、あなたも英雄ですわあああああああ!!!!
『ぐっ、ぐあああああああああ』
『リュディガー!?』
施設の出口と思われる頑丈そうな扉を開こうとした途端、リュディガー団長が苦しみ出しました。
どうやら施設の自爆に伴い建物全体が超高温に熱せられているらしく、扉も相当な熱を持っているようですわ。
『もういい! お前一人なら、他の出口を探せるだろ!? だから俺は置いて、お前だけでも逃げろ、リュディガー!!』
『……い、嫌……です! 絶対に……あなたも一緒に……帰るん、ですッ!! うおおおおおおおおおおおおおお』
リュディガー団長は高温の扉に左半身を押し付け、無理矢理扉をこじ開けたのですわ!
団長おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!
『ハァ……!! ハァ……!! ハァ……!!』
『ハァ……!! ハァ……!! ハァ……!!』
何とか施設から脱出した二人は、その場に大の字に倒れ込みました。
どうやらここは雪山のような場所らしく、燦燦と輝く太陽に照らされた雪が煌めいておりますわ。
『『――!!』』
その時でした。
【
か、間一髪でしたわね……。
『フゥ……マジで助かったぜリュディガー。――なっ!? お、お前、その顔!?』
見ればリュディガー団長のお顔の左半分は、痛々しい火傷で爛れておりました。
リュディガー団長の火傷は、この時のものだったのですわね……。
『気にしないでください、ヴォルフガング団長。この傷は英雄を助けるために負った、勲章ですよ。……それよりも、ヴォルフガング団長の右腕が……』
『へっ、それこそこれも、この国を救うために負った勲章だよ。――俺はこの右腕とお前の顔の火傷を、誇りに思うぜ、リュディガー』
『は、はい! ありがとうございます!』
お父様は寝そべったまま、左の拳をリュディガー団長の右の拳と、コツンと合わせたのですわ。
美しい上司と部下の愛、感動ですわあああああ!!!!
――映像はここで途切れました。
「チッ、小っ恥ずかしいもん見せちまったな。最後のシーンは、見せるつもりじゃなかったんだが」
お父様が照れておりますわ!
フフフ、それだけお父様にとって、リュディガー団長との絆は心に深く残っているということなのでしょうね。
「オーイオイオイオイ!! お
「そ、そうか?」
レベッカさんが滝のような涙を流しておりますわ。
実際に「オーイオイオイオイ」って泣く人、初めて見ましたわね……。
「お父様の仰りたいこと、よくわかりましたわ。確かに最後に【
「私は必ず戻って来る」、ですか……。
流石に心臓を貫かれたあの状態で生きているとは思えませんが……。
も、もしや――!?
「お父様が倒したあの男は、【
「……それはないとは思うがな。見ての通りアイツは、たった一人で王立騎士団の精鋭を蹂躙したんだ。あれほどの力を持った人間が、影武者だったとはとても思えねぇ。アイツは確かに、【
フム、お父様がそこまで仰るなら、そうなのかもしれませんわね。
お父様が、敵の実力を見誤るとも思えませんし。
「ただ、他にも【
ラース先生……!?
「アァン? 気になる発言、だと?」
お父様はギロリとラース先生を睨みつけます。
もう!
何故ラース先生にだけは、いちいち突っかかるのですか!
「……ええ、人体実験を行った被験者たちに対するところです。【
ああ、それはわたくしも感じましたわ。
「【
なるほど、そう考えると、辻褄が合いますわね。
「チッ、てことは、やっぱりアイツはまだ生きてやがるってことか……?」
「それとも、誰かが【
ラース先生!
これまた鋭い指摘ですわ!
さすラーですわ!
「お父様、【
「いや、その点は当時王立騎士団でも徹底的に調べたが、それらしき人間は一人もいなかった。アイツは研究は一から十まで全て一人で行っていたらしく、研究データを外部に共有した形跡も一切なかったからな。肝心の研究データもあの施設と共に吹き飛んじまったし、誰かが遺志を継ごうにも、物理的に不可能だろう」
ムウ、ではその線も薄いですか……。
とはいえ、【
明日の王立騎士団武闘大会が終わったら、【
「ヒャッハー! この女、お前の嫁なんだってなぁ?」
「「「――!!」」」
その時でした。
耳障りな甲高い声がしたので振り返ると、そこにはモヒカン刈りでトゲトゲ付きの肩パッドを装着した、明らかにカタギには見えない集団がわたくしのお母様を人質に取って、お母様のこめかみに魔銃の銃口を突き付けていたのですわ――!
「……ヴェロニカ」
「あらぁ、あなた、ごめんなさぁい。可愛い蝶々を追い掛けてたら、突然この人たちが声を掛けてきてぇ」
えーーー!?!?!?