「……何のつもりだ、お前ら?」
お父様が静かに、だが確かに威圧感のある声色で、モヒカン集団に尋ねます。
これは、相当怒っておりますわね。
お母様のことをこの世の何よりも愛しているお父様の前で、お母様を人質に取るような真似をしているのですから、さもありなんといったところですが。
このモヒカン集団も、まさか目の前の男が、
「ヒャッハー! 見りゃわかんだろぉ? 強盗だよ強盗ぉ!! この女を殺されたくなかったら、ここにいる全員、金目のものを置いていきやがれ! じゃなきゃこの女の頭に、ヒャッハーな風穴が開くことになるぜぇ」
「「「ヒャッハー!」」」
「あらぁ」
「ニャッポリート」
モヒカン集団は全員が魔銃を所持しており、これでもかとイキッておりますわ……。
これも【
「……一度しか言わねぇ。今すぐ武器を捨てて、大人しく投降しろ。そうすれば、命だけは助かるぞ」
「ヒャッハー! するわけねぇだろうがぁ! いいか、あと5秒以内にヒャッハーしろ! じゃなきゃ、この女をブッ殺すぞ!」
ヒャッハーするって何ですか!?
「あらぁ、じゃあ
「ヒャッ? ――ハッ!?!?」
「「「――!?!?」」」
その時でした。
お母様を人質に取っていたリーダー格と思われる男の頸動脈を、
「ヒャ……ハァ……」
リーダー格と思われる男は盛大に血しぶきを上げながら、その場に崩れ落ちました。
流石お母様!
見事な腕前ですわ!
「リ、リーダー!! このアマァ、覚悟しやがれぇ!!」
「「「ヒャッハー!!」」」
激高した他のモヒカンたちが、一斉にお母様に向かって魔銃を発砲しました。
ですが――。
「あらぁ、危ない危ないですわぁ」
「「「――!?!?」」」
お母様はまるでワルツでも踊るみたいに、優雅に、そして緩やかに全ての弾丸を避けたのですわ。
むしろその動きは避けたというより、弾が当たらない場所にあらかじめ移動しているといったほうが正確かもしれません。
――これぞお母様にしか使えない、超希少な予知魔法!
この予知魔法により、お母様は少し先の未来が見えているのですわ!
「ヒャッ!? な、何故だあぁ!? 何故当たらねぇんだあああ!?!?」
ウフフ、モヒカンたちが焦っておりますわ。
相手が悪かったですわね。
何せお母様はわたくしのお爺様である、先代ザイフリート伯爵の実の娘ですからね。
まさにサラブレッド!
お父様は如何にもザイフリート家の直系っぽい容姿をしていますが、実は婿養子なのですわ。
「あらぁ、悪い子にはお仕置きですわよぉ」
「「「――!!!」」
お母様がドレスのスカートをたくし上げると、ふとももに無数のナイフが装着されていました。
お母様はその無数のナイフを両手の指の間で挟むと、モヒカンたちに向かってふわりと投げたのですわ。
「ヒャハッ!?」
「ヒャグッ!?」
「ヒャホッ!?」
「ヒャムッ!?」
「ヒャボッ!?」
「キャオラッ!?」
「ヒャヌッ!?」
「ヒャルッ!?」
そのナイフは決して速くないにもかかわらず、まるで自分から当たりにいっているかのように、モヒカンたちの眉間に刺さりました。
これも予知魔法の応用ですわ。
お母様は、モヒカンたちが避ける位置まで予知してナイフを投げているのです。
これが、腕力はあまり高くないお母様が、【
「あらあらぁ」
最後にお母様は一本のナイフを、上空に放り投げました。
「ヒャッ!? ば、化け物だあああああ!!! 助けてくれえええええ!!!」
最後に一人だけ残ったモヒカンは、四つん這いになって逃げ出しました。
――ですが。
「ヒャッハー???」
そこにちょうど上空に投げたナイフが落ちてきて、モヒカンの後頭部に突き刺さったのでした。
これにてあっという間に、モヒカン集団は全滅してしまったのですわ。
「あらぁ、とっても怖かったですわぁ」
「ケッ、よく言うぜ。かすり傷どころか、返り血すら一滴も浴びてねーじゃねぇか」
確かにあれだけ大量の血が吹き出た割には、お母様のピンクのドレスはクリーニングしたてみたいに綺麗なままですわ。
返り血を浴びない位置を、予知していたのでしょうね。
わたくしはお母様が傷を負ったところを、生まれて一度も見たことがございません。
「お、お久しぶりであります、ヴェロニカ隊長!」
その時でした。
グスタフさんが、お母様にビシッと敬礼しました。
「ヴェロニカ隊長??」
そんなグスタフさんの挨拶に対して、ラース先生が疑問符を浮かべます。
「ああ、ラース先生はご存知なかったですわね。お母様は、第三部隊の元隊長だったのですわ。わたくしが隊長を引き継いだタイミングで、引退されましたが」
「そ、そうだったのですか」
お母様でしたらまだまだ現役を続けられたのでしょうが、数年前にお父様が引退されたこともあり、二人の時間を大切にしたいという理由で引退されたのですわ。
まったく、お安くないですわ!
「お久しぶりですわぁ、グスタフくん。でも、わたくしはもう隊長ではございませんわぁ。今の隊長はヴィクなのですからぁ。今のわたくしは、ただの一人のオバサンですわぁ」
「そ、そんなことは……!」
あれだけの人数を瞬殺しておいて、ただのオバサンは無理があるのでは?(わたくしは訝しんだ)
「あらぁ、ラースくんは今日もイケメンですわねぇ」
「あ、きょ、恐縮です」
お母様がニコニコしながらラース先生に近寄ります。
フフ、すっかりラース先生は、お母様のお気に入りになりましたわね。
何故かザイフリート家の男性陣には嫌われているので、一人でも味方がいて、本当によかったですわ!
「ヴィクとはその後、どんな感じですかぁ?」
「あ、えーっと、ボチボチといったところです……」
んん??
今のはどういう意味です、お母様??
「ボチボチだぁ!? ってことはやっぱテメェ、ヴィクに色目使ってるってことじゃねえかッッ!!?」
「い、いえ!? 今のはそういう意味では!?」
「お父様!? いい加減ラース先生に言いがかりをつけるのはやめてくださいまし!」
「言いがかりじゃねえよッ!!」
いや言いがかりでしょうが???
「お久しぶりですお
レベッカさん今、お母様のことをお
お母様がまだ第三部隊の隊長だった時代は、普通にヴェロニカ隊長と呼んでいたはずですが……。
「うふふ、レベッカさんも相変わらず元気ですわねぇ。これからもヴィクのことをよろしくお願いしますわぁ」
「は、はい! ヴィクトリア隊長のことは、私が必ず幸せにして見せます!」
何か両親に対する結婚の挨拶みたいになってますわぁ~~~~???
「あらぁ、こちらの可愛いボクちゃんはどなたかしらぁ?」
続いてお母様の関心は、ボニャルくんに移りました。
「あっ、ボクは救護班のボニャルですにゃ!」
ボニャルくんが猫耳と尻尾をピンと立てながら敬礼します。
「あらあらぁ~~~~、とっても可愛いですわぁ~~~~」
「ふにゃ!?」
「「「――!?」」」
感極まったお母様は、ボニャルくんのことをギュッと抱きしめてしまいました。
えーーー!?!?!?
「そ、そんな!? 何故ですかお
またレベッカさんの脳が破壊されておりますわぁ~~~~???
「オ、オイ、ヴェロニカッ!! 今すぐそのガキから離れろッ!!!」
お父様が、ドチャクソヤキモチ焼いてますわぁ~~~~。
あーもうめちゃくちゃですわぁ~~~~。
「ニャッポリート」
「あらぁ、ニャッポちゃんは今日も可愛いですわねぇ」
ボニャルくんを解放したお母様は、今度はニャッポの顎の下をよしよしと撫でます。
ニャッポは喉をゴロゴロ鳴らして喜んでいますわ。
本当にお母様は、自由な方ですわぁ~~~~。
「……その辺にしとけよヴェロニカ。こいつらは今、仕事中なんだからよ」
そんなこと言って、最初に絡んできたのはお父様じゃないですか。
「あらぁ、そうですわねぇ。それでは最後に一つだけぇ。――ヴィク、これからあなたには、いくつもの困難が待ち受けておりますわぁ」
「――!」
……お母様。
「それも、お母様の予知魔法の力でしょうか?」
「ええ、未来のことなのでぼんやりとしたヴィジョンしか見えませんが、相当苦しんでいるヴィクの姿が浮かんでおりますわぁ」
「……なるほど」
どうやら【
「ですが、ヴィクならきっと、その困難も乗り越えられるとわたくしは信じておりますわぁ。何故ならヴィクにはこんなにも頼りになる、仲間がいるのですからぁ」
「「「――!」」」
お母様は第三部隊のみなさんに、太陽のような笑顔を向けます。
お、お母様――!
「――はい、お母様。わたくしは第三部隊のみなさんと共に、必ずや使命を全うして見せますわ」
「ニャッポリート」
「うふふ、頑張ってくださいねぇ。それではみなさん、ごきげんよう~」
「またな、お前ら」
「「「はい! お疲れ様です!」」」
二人は仲睦まじく並んで去って行きました。
まるで嵐のようでしたわぁ~~~~。
できればこのモヒカン集団の死体も、片付けていってほしかったですわぁ~~~~。