「みなさん、おはようございます」
「「「おはようございます!」」」
「ニャッポリート」
ウム、今日もみなさん良い返事ですわ。
「ご存知の通り、本日は年に一度の王立騎士団武闘大会ですわ。我が第三部隊からも、10名の方が出場されます。みなさんで一丸となって、出場者の方々を全力で応援いたしましょう!」
「「「オー!」」」
「ニャッポリート」
さて、今年の優勝者は誰になりますかね。
逸る心を抑えながら、わたくしたちは武闘大会の会場である、王立騎士団所有の円形闘技場へと向かいました。
「久しぶりだな、【
「「「――!」」」
円形闘技場の入口に、ゲロルトがアメリーさんと二人で立っていました。
暫く見ない間に、ゲロルトは随分やつれましたわね?
腰に差している黒い剣も見覚えがありませんし、新調したのでしょうか?
「その名で呼ぶのはやめてくださいまし。わたくしの名前はヴィクトリアですわ」
「フン、いいか【
「「「――!?」」」
ハアアアアアアアアアアア!?!?
今更何を言ってるんですかこの人????
「おっと勘違いするなよ。僕が真実の愛を捧げているのは、あくまでアメリーただ一人だけだ。お前とは言わば『白い結婚』になる。離れに豪邸を建ててやるから、お前はそこで死ぬまで何不自由ない暮らしを送ればいい。どうだ? 女として、こんなに幸せなことはないだろう?」
「「「……」」」
前々から愚か者だとは思ってましたが、まさかここまでとは……。
「アメリーさん、ゲロルトはこんなことを言ってますが、あなたは本当にそれでよろしいんですか?」
いくら白い結婚とはいえ、愛する男が他の女と結婚して、自分は愛人的なポジションに収まるなんて、わたくしだったら耐えられませんわ。
「ええ、私はゲロルト様のお側に置いていただけるだけで幸せですから」
アメリーさんはいつもの、感情の読めない能面のような微笑みを浮かべております。
ふうん?
どこまでが本心なのでしょうね……。
「そういうわけだ。アメリーもこう言ってくれてるんだから、何の問題もないだろう? 今日からまた、婚約者としてよろしくな、【
……コイツ!
「「フザけないでくださいッ!!」」
なっ!?
その時でした。
ラース先生とレベッカさんがわたくしの前に立ち、ゲロルトを睨みつけました。
お、お二人とも……。
「ご自分がどれだけ身勝手なことを仰ってるかわからないんですか? 人の気持ちも慮ることができないようでは、貴族として人の上に立つ資格はないと思われますが」
「な、なにィ!?」
ラース先生……!
「そうですそうです!! あなたみたいな人に、ヴィクトリア隊長は絶対渡しませんからッ!!」
レベッカさん……!
「くっ! 貴様らぁ! 平民のクセに、粋がりやがってえええええ!!」
そうやってすぐ平民を見下すところも、本当に器が小さいですわ。
これはローレンツ副団長にも言えることですが。
「……! ククク、そうだ、いいことを考えたぞ」
ん?
ゲロルト?
「貴様らも今日の武闘大会に出場するんだろ? だったら騎士らしく、そこで白黒つけようじゃないか」
ホウ?
ゲロルトにしては珍しく、まともなことを言うじゃありませんか。
「賞品は【
「「「――!?」」」
えーーー!?!?!?
やっぱりまともじゃなかったですわあああああ!!!
「なっ!? そ、そういうわけにはいきません! そんな、ヴィクトリア隊長を、物みたいに扱うなんて!」
「そ、そうですそうです! 勝った人がヴィクトリア隊長と結婚するという点は、アリよりのアリよりのアリよりのアリですがッ!!」
レベッカさん???
どれだけよるんですか???
……フム。
「よろしいですわ。その条件、お受けしましょう」
「「「っ!!?」」」
「ヴィクトリア隊長!?」
「ほ、本気ですか!?」
「ええ、本気と書いてマジですわ。お二人の実力なら、ゲロルトに負けることなど万に一つも有り得ませんからね。――そうでしょう?」
「――! ヴィクトリア隊長……」
「嗚呼! 私のことをそこまで――!!」
まあ、ラース先生とレベッカさんはわたくしと結婚なんかしたいとは思っていないでしょうから、お二人が勝った場合は賞品は無しにすればいいだけですし。
「ククク、よぉしこれで勝負は成立だな。吐いた唾は呑むなよ【
「その代わり、わたくしからも一つ条件がございますわ」
「ん? 何だ?」
「あなたが負けた場合は、わたくしとラース先生とレベッカさんに無礼な物言いをしたことを誠心誠意謝罪しなさい。――そして二度とわたくしたちには関わらないことを約束してくださいまし」
「……フン、何だそんなことか。いいだろう。僕がこんな雑魚共に負けることなど、万に一つも有り得ないからな」
どこからそんな自信がくるのでしょう?
ゲロルトはラース先生の実力は知らないにしても、同じ隊だったレベッカさんとの実力差は、身をもってわかっているでしょうに。
余程の秘策があるのでしょうか……。
「首を洗って待っていろよ【
……クソが。
「じゃあ行こうか、アメリー」
「はい、ゲロルト様」
ゲロルトとアメリーさんはまるで新婚夫婦のような甘い空気を醸しながら、闘技場の中へ消えて行きました。
「うがああああああああ!!!! 何ですかあれええええええええ!!!! 首を洗って待ってろはこっちの台詞ですよおおおおお!!!! その首、ブチ折ってやりますよおおおおおお!!!!」
レベッカさんがいつになく荒ぶっておりますわ!
「――ええ、僕もこの大会、どうしても勝たねばならない理由が出来ました」
ラース先生はメガネをクイと上げながら、静かに闘志をみなぎらせておりますわ!
それくらいラース先生も、ゲロルトの無礼な態度に腹を立ててらっしゃるのですわね?
「俺たちだって気持ちは同じだ! そうだよなお前らッ!」
「「「オー!!」」」
「ニャッポリート」
グスタフさんが他の隊員のみなさんを鼓舞します。
フフ、これは期せずして、第三部隊の士気を上げることに成功したようですわね。
自分で自分の首を絞めるような真似をするなんて、ゲロルトは本当に愚かですわ!