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第58話:ブン殴って差し上げたいですわぁ~~~~。

『バイブス上げてけよお前らぁ!! 今日は年に一度の、王立騎士団武闘大会だあああ!!!』

「「「うおおおおおおおおおおおおお」」」


 観客席の中央で、拡声魔導具を使ってローレンツ副団長がハイテンションな開会宣言をしました。

 ここぞとばかりに生き生きとされてますわね。

 こういう目立つ仕事お好きですものね、ローレンツ副団長は。

 因みに拡声魔導具も、【好奇神ロキ】の発明品の一つですわ。

 つくづく今のわたくしたちの生活は、【好奇神ロキ】に支えられていることを改めて実感します。

 世紀の大犯罪者のお陰で暮らしが豊かになっているというのは、何とも皮肉な話ですわ。

 まあ、発明品自体に罪はないので、ありがたく使わせていただきますが。


『今年の最強騎士はいったい誰になるのか!? 今から見物だ! お前もそう思うだろう?』

『え、ええ……』


 ローレンツ副団長は、隣に侍らせているロリ巨乳の女性隊員さんの肩をいやらしく抱きます。

 女性隊員さんは如何にも嫌そうな顔をされてますが、立場上何も言えない様子ですわ……。

 何という露骨なセクハラ……!

 犯罪者を取り締まるのが使命である騎士団のナンバー2の人間が、こんなに堂々と犯罪を犯しているという事実に、忸怩たる思いを抱きますわ……。

 ……ですが、これが我が国の現実。

 権力を持つ者はどんな横暴も許され、持たない者はただひたすらに搾取され続けるだけ。

 わたくしも一応貴族持つ者の側ですので、この現状を何とかしたいという思いはあるのですが……。


『実況を務めるのは今年もこの俺様! 筆頭侯爵家であるオストヴァルト侯爵家の嫡男、ローレンツだ! そんで審判と解説役はリュディガー団長に任せます! よろしく頼みますよ』

『ええ、こちらこそ、よろしくお願いいたします』


 リュディガー団長はいつもの柔和な笑みを浮かべながら、鷹揚に頷かれていますわ。

 毎日ローレンツ副団長の相手をしていて、よくリュディガー団長は疲れませんわね?

 流石騎士団長を務めている方の器は、海より大きいですわぁ。


『今年の出場者はこいつらだ! どいつもこいつも自分こそが最強だって面してやがる! やっぱ騎士たるもの、こうでなくちゃなぁ!』


 最早騎士団の武闘大会というよりは、プロレスの実況みたいになってますわぁ。

 闘技場の中央の一段高くなっている円形の舞台の上には、総勢100名近くの出場者がひしめき合っております。

 ローレンツ副団長が仰る通り、みなさん自信に満ち溢れたお顔をされておりますわ。

 ですが、中でも注目株なのが、やはりヴェンデルお兄様とヴェルナーお兄様でしょう。

 いくら魔力無しというハンデを負っているとはいえ、騎士団内でもトップクラスの実力を持つと言われているお二人が出場しているのですから、さもありなんといったところですわ。

 ――どうかお兄様たちに負けないでくださいまし、ラース先生。

 わたくしは観客席の最前列で左腕のミサンガを撫でながら、神様に祈りました――。


『試合で怪我をしたとしても安心しろ。王立騎士団うちには優秀な医療班がいる! 死なない限りはこいつらが治してくれるだろうから、存分に暴れやがれ!』


 ローレンツ副団長は舞台の脇で待機している、医療班のみなさんを指差します。

 その中には当然、ボニャルくんやアメリーさんも含まれておりますわ。

 普段は各部隊に分散して配属されている医療班のみなさんも、本日は一丸となって治療に当たる体制が取られております。


「いやいや~、私はなるべく仕事を増やしてほしくないので、みなさん手加減して戦ってくださいね~」


 医療班の班長であるユリアーナ班長が、のほほんとそう仰いました。

 ユリアーナ班長は今日もダボダボの白衣にボサボサの黒髪。

 そして丸メガネに肉感のあるムチムチな体型という、一部男性にはとことん刺さりそうな容姿をしてらっしゃいますわ。

 現にグスタフさんはハァハァ興奮しながら、ユリアーナ班長のパツパツのセーターをガン見されております。

 ……それ以上見たら、減給しますわよ。

 ただ、ご本人の緩い空気とは裏腹に、ユリアーナ班長は【慈悲の女神エイル】の二つ名を持つ、稀代の回復魔法の使い手。

 実際ユリアーナ班長でしたら、大抵の怪我は治してくださることでしょう。


『さあて、じゃあ早速予選を始めんぞー!』


 ローレンツ副団長が手元の機器を操作すると、舞台が半球状の透明な膜で覆われました。

 これも【好奇神ロキ】が発明した魔導具の一つで、一時的に結界を張ることができるのですわ。

 これで余程のことがない限り、舞台のあちら側とこちら側は隔絶されました。

 選手がどれだけ派手な魔法を使おうと、観客席に被害はないというわけですわ。


『予選のルールは至ってシンプル! 決勝トーナメントに進出する8人が残るまで、その場で全員一斉に戦うんだ! 場外に出るか、審判のリュディガー団長が戦闘不能と判断した者は失格! わかったな!?』

「「「オー!」」」


 フム、とりあえずこのルールなら、ヴェンデルお兄様とヴェルナーお兄様には極力近付かないほうが賢明でしょうね。


「ヴィクー!! 見てるかヴィクー!! お前の愛しのお兄様が、今からあの悪い虫を駆除してやるからなー!」


 と思ったら、早速ヴェルナーお兄様が、ラース先生をロックオンしておりますわ!?

 ああもう、どうか逃げてくださいませ、ラース先生――!


『へへへ、お前は誰が予選通過すると思う?』

『さ、さぁ……』


 ローレンツ副団長が、女性隊員さんのふとももを撫で回しておりますわぁ~~~~。

 もし許されるなら、ブン殴って差し上げたいですわぁ~~~~。


『よおし! じゃあ予選、開始ィ!!』


 ――ラース先生!

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