目次
ブックマーク
応援する
9
コメント
シェア
通報

第59話:気のせいではなかったようですわぁ~~~~。

「ガッハッハ! オラオラオラオラァ!」

「うわああああ!?」

「ぎゃああああ!?」

「ぬわあああああん!?」


 開始早々ヴェンデルお兄様が、巨大な深紅の鎚である【雷神ノ鎚ミョルニル】をその場でブン回しました。

 すると今の一撃だけで、10人以上の選手が場外に吹き飛ばされたのですわ。

 アラアラ……、やはりヴェンデルお兄様の出場を許したのは、失策だったかもしれませんわね。


『オイオイオイ、情けねぇなお前ら! 相手は魔力も使わねぇただの筋肉ダルマなんだ! 魔法を使えば、場外に出すことくらいできるだろうが!』


 そう仰るなら、ご自分でやってみてくださいましローレンツ副団長!

 ヴェンデルお兄様相手にそれをすることが、どれだけ難しいことか……。

 実際に経験したことがある者にしかわかりませんわ!


「ハアアアアアア!!!」

「くぅ!?」


 その時でした。

 今度はヴェルナーお兄様が愛剣である【冷タク怒ル剣グラム】で、ラース先生に斬り掛かったのですわ!

 やはりこうなってしまいましたか……!

 ですが、間一髪ラース先生も【創造主ノ万年筆ロマンスィエー・フュラー】で、【冷タク怒ル剣グラム】を受け止めました。

 ヨシ!

 日々の特訓の成果が出てますわね!

 こうなった以上ヴェルナーお兄様から逃げ切るのは不可能でしょうから、何とか耐えてくださいまし、ラース先生……!


「――【夜明モルゲンデメルング】!」


 【天使ノ衣エンゲル・クライドゥング】で魔力をブーストさせるラース先生。

 これで魔力を封じられている今のヴェルナーお兄様なら、互角に戦えるはずですわ!


「フン、その程度の魔力で、この私に勝てると思うなあああああああ!!!!!!」

「なっ!?」


 ラース先生!?

 わたくしの予想に反して、ヴェルナーお兄様は魔力をブーストさせたラース先生を、その驚異的なパワーで圧倒しました。


「オラオラオラ、どうしたどうした、その程度かあああああ!!!!」

「う、うぅ……!」


 ラース先生はヴェルナーお兄様の猛攻を防ぐのでやっとですわ……!

 いくらヴェルナーお兄様が強いとはいえ、二人にここまでの実力差はなかったはず……。

 今日のヴェルナーお兄様は、明らかに異常ですわ。

 何がヴェルナーお兄様を、あそこまで掻き立てているのでしょうか……。


「貴様などにヴィクは絶対渡さんぞおおおおお!!!! 何故ならヴィクは4歳と286日の時に、『将来はヴェルナーお兄様のお嫁さんになりたいですわ』と言ってくれたのだからなあああああ!!!!!!」


 ヴェルナーお兄様を掻き立てているのは、妹へのヤベェ愛激重感情でしたわぁ~~~~。

 そんなことを言った記憶はわたくしにはありませんが、仮に言っていたのだとしたら、わたくしはとんでもないモンスターを生み出してしまったようですわぁ~~~~。

 ラース先生に、申し訳が立ちませんわぁ~~~~。

 それはそれとしてあのキモあにのことは、何とかしてストーカー罪で王立騎士団で駆除していただきたいですわぁ~~~~。


「……で、ですが僕だって、ヴィクトリア隊長に対する気持ちは、あなたにだって負けていませんッ!」

「なにィ!?」


 ラース先生????

 今のは、どういう????


「う、うおおおおおおお!!!! 認めん認めん認めん認めん認めん!!!! 私は絶対絶対絶対絶対絶対、貴様のことなど認めんぞおおおお!!!!!!」

「くぅ!?」


 嗚呼!?

 ここにきてキモ兄のギアがまた上がりましたわ!?

 このままではラース先生が場外に――!

 ――ラース先生!


「情けないですね、ラースさん」

「「――!」」


 その時でした。

 横合いからレベッカさんが放った矢が、キモ兄の顔面を襲いました。

 レ、レベッカさん!?


「チィ!?」


 が、キモ兄はギリギリのところでレベッカさんの矢を躱し、後方に距離を取りました。

 惜しいッ!


「あ、ありがとうございます。助かりました、レベッカ副隊長」

「勘違いしないでください。私たちは何としてもゲロルト様を倒さなくてはならないんです。だからあなたにこんなところで負けてもらっちゃ困るんですよ、ラースさん」

「――! はい、そうですね」


 オオ……!

 いつもは何故かいがみ合っているお二人が、共闘を――!

 歴史的和解ですわぁ~~~~。


「フン、二人がかりだろうが、私のヴィクに対する愛のほうが、深いに決まっているだろうがあああああ!!!!」


 いつの間にか愛の深さ対決になっておりますわぁ~~~~????


「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「なっ!?」

「う、うええええ!?!?」


 キモ兄は高速で縦横無尽に動きながら、お二人と距離を詰めます。

 そのあまりの速さに、残像で分身しているように見えますわ……!

 くっ、これはいくらお二人でも――!


『そこまで! 今舞台に残っている8名を、決勝トーナメント進出者とする』

「「「――!!」」」


 その時でした。

 リュディガー団長のよく通る声が、わたくしたちの鼓膜を震わせました。

 見ればいつの間にか舞台上には、8人しか残っておりませんでした。

 他の人間は一人残らず、ヴェンデルお兄様が場外に弾き飛ばしてしまったようですわ。


「ガッハッハ! ちょっとやりすぎてしまったかもしれんな」


 いえいえ、ヴェンデルお兄様、グッジョブですわぁ~~~~。


「チィ! ……まあいい。誰のヴィクへの愛が一番深いか、決着は決勝トーナメントでつけるぞ」

「――はい、望むところです」

「たとえお義兄にい様が相手でも、それだけは負けませんから!」


 今レベッカさん、キモ兄のことお義兄にい様って言いませんでした?

 あとやっぱりいつの間にか愛の深さ対決になっていたのは、気のせいではなかったようですわぁ~~~~。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?