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第60話:若干イラッとしますわぁ~~~~。

『オラ、救護班、出番だぞー』

「「「はーい」」」


 ローレンツ副団長が結界を解除すると同時に、救護班のみなさんが脱落した選手たちに群がりました。

 とはいえ、パッと見はどなたも軽傷ですわ。

 脳筋のヴェンデルお兄様も、最低限の手加減はできていたようですわね。

 救護班のみなさんのご尽力であっという間に脱落者は全員医務室に運ばれ、後には決勝トーナメント進出者だけが残されました。


『じゃあ残った8人の野郎共! 一人ずつ所属と名前を言いやがれ!』

「ガッハッハ! 第一部隊隊長、ヴェンデル・ザイフリートだ!」

「フン、第一部隊副隊長、ヴェルナー・ザイフリートです」

「第三部隊所属、ラース・エンデです」

「第三部隊副隊長、レベッカ・アイブリンガーです!」

「第三部隊所属、グスタフ・エッガースです!」


 オオ!

 グスタフさんも残ってますわね!

 8人中3人も第三部隊のメンバーが残っているというのは、なかなか優秀なのではないでしょうか?

 鼻が高いですわぁ~~~~(後方隊長面)。


「……第二部隊所属、ゲロルト・ヒルトマンです」


 ……フム。

 ゲロルトも残っておりましたか。

 正直ゲロルトの実力ではとても残れるとは思っていなかったのですが、いったいどんな手を使ったのでしょう?

 ラース先生に夢中で、他の選手の動向まで追えてませんでしたわ。


「第五部隊所属、バニー1号ですッ!」

「ヒィッ!?」


 【バニーテン】のリーダー、バニー1号さんも残っておりましたわぁ~~~~。

 また例によってレベッカさんが怯えておりますわぁ~~~~。

 決勝トーナメントではこの二人が当たらないことを、祈るばかりですわぁ~~~~。

 ――さて、最後の1人は。


『……ん? 誰だお前?』


 ローレンツ副団長が最後の1人を見て呟きました。

 さもありなん。

 その人は子ども向けの変身ヒーローである、『バッタ仮面』の仮面で、顔を隠していたからです。


「……私はバッタ仮面、です」


 ……えぇ、まさかのバッタ仮面ご本人様ですか?

 声は男性のようですが、この声、どこかで聞いたことがあるような……?


『ふうん? バッタ仮面ねえ? まあいいか別に』


 よいのですか??

 まあ、この大会はあくまでお祭りですし、あまり堅苦しいことを言うのも野暮ではありますが。

 余程素性を隠したい理由でもあるのでしょうか?


『そんじゃこの8人で、10分後に決勝トーナメントを始めるぞぉ。それまでは暫し休憩だ! 解散!』


 よし、今のうちに――。


「ラース先生!」

「ニャッポリート」

「――! ヴィクトリア隊長」


 わたくしはラース先生に駆け寄ります。


「決勝トーナメント進出おめでとうございますわ!」

「ありがとうございます。ヴィクトリア隊長の薫陶の賜物です」


 ラース先生はメガネをクイと上げながら、天使のように微笑まれます。

 ラース先生――!


「いえいえ! あくまで残れたのはラース先生の実力ですわ。贔屓目抜きで、ラース先生は確実に強くなられておりますわ。これなら十分優勝も狙えると思われますので、もっと自信を持ってくださいまし」

「ニャッポリート」

「は、はい――! 頑張ります!」


 うんうん、その意気ですわ、ラース先生。


「ヴィクトリア隊長! 私も残ったんですが、私には何か一言ありませんかッ!?」


 レベッカさん!?


「あ、えーと、うん、レベッカさんの実力なら、きっと残ると信じておりましたわ。もちろんレベッカさんも優勝候補の一人だと思っておりますので、頑張ってくださいまし」

「ニャッポリート」

「うおおおおおおおおっしゃキタこれええええええ!!!! 俄然みなぎってきたあああああああ!!!!」


 お、おぉ……、まさか今の一言だけで、こんなにやる気が出るだなんて……。

 前から疑問だったのですが、何故わたくしはレベッカさんにここまで慕われているのでしょうか?


「グスタフさんもおめでとうございますわ。決勝トーナメントもファイトですわ」

「ニャッポリート」

「はい、精一杯頑張ります! まあ俺の実力じゃ、優勝は難しいとは思いますけど。ハハ」


 そうとも限りませんわよ?

 トーナメントの組み合わせ次第では、漁夫の利を狙えるかもしれませんし。


「ヴィクウウウウウウウ!!!! この愛しのお兄様に対しては、何か激励の言葉はないのかあああああああい!?!?」

「ゲッ」


 キモ兄がゴキブリみたいにカサカサ寄ってきましたわッ!

 早くもキモ兄からゴキ兄にランクアップ(ランクダウン?)しましたわッ!

 最早【氷狼令息フェンリル】の面影は欠片もありませんわぁ~~~~。

 誰ですかこのゴキ兄にそんな御大層な二つ名をつけたのはぁ~~~~?


「……あー、まあ、ヴェルナーお兄様は試合中にうっかり転んで頭をぶつけて、負ければいいと思いますわ」

「ニャッポリート」

「そんなッ!?!? 何故だヴィクッ!?!? 7歳と291日の時には、『ヴェルナーお兄様に勝てる人などどこにもいませんわ』と言ってくれたのにいいいいいい!!!!」


 そういうことを言うからですわッ!


「ガッハッハ! じゃあヴィクは、俺も頭をぶつけて負ければいいと思ってるのか?」

「――!」


 ヴェンデルお兄様……。


「いえ、ヴェンデルお兄様は頭をぶつけたくらいではビクともしないでしょうから、精々空気を読んで手加減してくださることを願うばかりですわ」

「ニャッポリート」

「ガッハッハ! 了解了解。任せとけ」


 本当に大丈夫でしょうか……?

 ハッキリ言ってヴェンデルお兄様が本気を出したら、この面子では誰も勝てないことは明白なので、こればかりはヴェンデルお兄様脳筋が暴走しないことを祈るしかございませんわ……。


「ゲロルト様、決勝トーナメント進出おめでとうございます!」


 その時でした。

 アメリーさんがゲロルトに駆け寄って、タオルを差し出しました。

 ゲロルトはそのタオルを受け取り、滴る汗を拭きます。


「ありがとう、アメリー。君が見守っていてくれたからこそ、僕は120%の力を出せたよ」

「ゲロルト様!」


 フン、あなた程度の男が120%の力を出したところで、焼け石に水だったはずですけどね。

 何かしらのトリックがあるはずですわ。

 大方あの腰に差している、黒い剣がそれだと思われますが。

 まあ、いずれにせよ決勝トーナメントを勝ち上がれるとは、到底思えませんけどね。

 早々にヴェンデルお兄様と当たって、瞬殺されるかもしれませんし。


「アラアラアラ、バニー1号くんの戦いぶり、実に美しかったわよ」

「あ、ありがとうございます、アンネリーゼ様ッ!」


 アンネリーゼ隊長が舞台の上まで運ばれた玉座にふんぞり返って頬杖をついたまま、バニー1号さんを称賛します。


「マジかっこよかったです、リーダー!」

「おめでとうございます、リーダー!」

「決勝トーナメントも頑張ってください、リーダー!」

「このまま優勝狙いましょう、リーダー!」

「打ち上げの会場はもう予約してありますんで、リーダー!」

「何なら今から他の選手に毒盛ってきましょうか、リーダー!」

「好きです、リーダー!」

「お金貸してください、リーダー!」

「リーダー! リーダー! リーダー!」

「お前たち……」


 オォ……。

 バニー1号さんは、【バニーテン】のメンバーから随分慕われてるんですのね。


「ハハハ」


 そんな【バニーテン】たちの遣り取りを、モノクルバニーガールのエーミール副隊長が、後方から微笑ましいお顔で見守っておりますわ。

 本来ならアットホームな光景なのでしょうが、全員格好がバニーガールなので、どうしても悪ノリした学園祭にしか見えませんわぁ~~~~。


「ヒイイイイイイイ!?!?」


 案の定レベッカさんは、自身の鳥肌をさすりながら悲鳴を上げておりますわぁ~~~~。


「……」


 そんな中、バッタ仮面さんだけは誰とも話さず、壁際で一人佇んでおりますわ。

 あの方、いったいどなたなのでしょうか……?

 おっと、そうですわ。

 わたくしがここに来た、一番の目的を忘れるところでした。


「ラース先生、今魔力を補充しますわね」

「ニャッポリート」


 わたくしはラース先生の鳩尾の辺りに手のひらを当て、【天使ノ衣エンゲル・クライドゥング】に魔力を込めます。

 ラース先生には万全の状態で戦っていただくため、試合が終わるたびにわたくしが魔力を補充することになっているのですわ。


「オイ!? ヴィク!? 何をしてるんだッ!? ままままま、魔力の補充だとッ!? そ、それって、何の隠語だッ!?!?」


 ゴキ兄は黙っていてくださいまし!

 この頭ピンクゴキがッ!


「ありがとうございますヴィクトリア隊長。ですが、然程魔力は減ってないので、心配はご無用ですよ」


 アラ、確かにすぐ満タンになりましたわ。

 フフ、ラース先生も、大分魔力の効率的な使い方がわかってきたようですわね。

 この分なら、いずれは長期的な戦闘にも耐えられるようになることでしょう。

 師匠として、実に誇らしいですわぁ~~~~。


『よーし10分経ったなぁ。決勝トーナメント始めんぞぉ。選手以外は舞台から降りろやぁ』


 おや、もう時間ですか。


「みなさん、頑張ってくださいまし!」

「ニャッポリート」


 わたくしは最後にもう一度、第三部隊のみなさんにガッツポーズを向けます。


「「「はい!」」」


 ウム、三人とも、実に良い返事ですわ。


「ヴィク!!! 愛しのお兄様にも、『がんばれ♥がんばれ♥』と言っておくれええええええ!!!!」


 さっさと負けろッ!!

 わたくしは頭ピンクゴキを無視して、また観客席の最前列に戻りました。


『よっしゃ、今年も決勝トーナメントの組み合わせは、都度俺がクジ引きで決めるかんなー』


 ローレンツ副団長が手元の箱に手を入れ、一枚の紙を取り出しました。

 こうして毎回対戦相手は直前までわからないので、事前に対策が立てづらいのがこの大会の特徴ですわ。

 果たしてこのシステムが、吉と出るか凶と出るか……。


『ジャジャン! 準々決勝第一試合一人目の選手は――ラース・エンデだ!』

「――! はい」


 なっ!?

 い、いきなりラース先生ですか……。

 正直試合が早ければ早いほど、他の選手に対策を立てる時間を与えてしまうので、不利なのですが……。


『そんで二人目はぁ~』


 ローレンツ副団長が二枚目の紙を取り出しました。

 お願いします神様――!

 せめてヴェンデルお兄様と、ゴキ兄だけは避けてくださいまし――!


『ジャジャン! ヴェルナー・ザイフリートだ!』

「よおおおおおおおおおおおおし!!!! よしよしよおおおおおおおおおおおおし!!!! 覚悟しろよこのゴミ虫がああああああああ!!!!」


 そんな――!!

 よりによってゴキ兄が相手だなんて……。

 あまりにもクジ運が悪いですわぁ~~~~。

 あとどうでもいいですが、ローレンツ副団長の『ジャジャン!』、若干イラッとしますわぁ~~~~。


「……胸をお借りします」


 ですがラース先生はゴキ兄を真っ直ぐ見据えながら、メガネをクイと上げたのです。

 ドチャクソカッケェですわぁ~~~~。

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