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第62話:一生消えない傷が付いてしまいましたわ!

「ラース先生、おめでとうございますわッ!」

「ニャッポリート」


 観客席に下りて来たラース先生に、全力で称賛を贈ります。


「ありがとうございます。……ですが、自分の力不足を実感する戦いでもありました。同い年のヴェルナー副隊長との間に、あんなにも実力差があるなんて……」

「ラース先生……」


 ラース先生は奥歯を嚙みしめながら、握った拳を震わせます。


「ガッハッハ! 何を言う。物心付いた時から地獄の鍛錬を積んできたヴェルナーとの間に、実力差があるのは当然だろう? むしろ騎士を志してから僅か数年でそこまでの実力をつけた自分を、十二分に誇るべきだ」

「――! ……ヴェンデル隊長」


 ヴェンデルお兄様……!

 流石長男!

 良いこと言いますわ!

 ド変態激キモゴキブリ次男と違って、尊敬に値しますわぁ~~~~。


「そうだぜラース! さっきのお前、マジカッコよかったよ! さあ、ここ座れよ。傷の手当てしないと」

「グスタフ先輩……!」


 グスタフさんが自分の席を、ラース先生に譲ります。

 グスタフさんも、実に良い先輩ですわぁ~~~~。

 どこかのド変態激キモゴキブリ次男にも、グスタフさんの爪の垢を皮下注射してやりたいですわぁ~~~~。


「フフ、見事な勝負でしたよラースさん。これは決勝であなたと当たるのが、今から楽しみですね」

「はは、恐縮です、レベッカ副隊長」


 レベッカさんが、バトル小説のライバルキャラみたいなムーブをかましてますわぁ~~~~。

 でも、そういうことを言ったキャラは大体決勝にいく前に負けるので、言わないほうがよかったと思いますわぁ~~~~。


「今手当てしますにゃ!」

「ああ、ありがとう、ボニャルくん」


 待機所からボニャルくんが走って来て、ラース先生に回復魔法を掛け始めました。

 ラース先生は全身傷だらけで、ド変態激キモゴキブリ次男との激戦が窺えます。

 それでも致命傷は受けずに勝利したラース先生は、本当に自慢の弟子ですわ!

 わたくしも師匠として、鼻が高いですわぁ~~~~。

 おっと、また忘れるところでした。


「今魔力を補充しますわね」

「ニャッポリート」


 わたくしはラース先生の鳩尾の辺りに手のひらを当て、【天使ノ衣エンゲル・クライドゥング】に魔力を込めます。


「ありがとうございます、ヴィクトリア隊長」

「……!」


 ラース先生はまるで陽だまりのような暖かな笑みを、わたくしに向けてくださったのです。

 この瞬間わたくしの胸が、トゥンクと大きく跳ねました――!

 はわわわわ……!?

 マジで最近のわたくしの心臓は、暴走暴れ馬(重言)ですわぁ~~~~???

 いったいわたくしの身に、何が起きているのですかぁ~~~~???


「うがああああ!!! 脳が……!! 脳が破壊されるううう……!!!」


 またしてもレベッカさんの脳が破壊されておりますわぁ~~~~???

 いい機会ですから、わたくしと一緒に一度病院で検査してもらいましょうかぁ~~~~???


『よおし、そんじゃサクサク次の試合いくぞー。第二試合一人目の選手は誰かな~? ジャジャン! ――レベッカ・アイブリンガーだ!』


 おお!

 噂をすればレベッカさんですわ!


「よっしゃあああああ!!!! 見ていてくださいねヴィクトリア隊長おおおお!!!! あなたの右腕が、華麗に勝利を収めてご覧に入れますよおおおおお!!!!」

「頑張ってくださいまし、レベッカさん!」

「ニャッポリート」

『さてさて、それで二人目は~? ジャジャジャン! ――バニー1号だ!』


 今「ジャ」を増やしませんでした!?

 ……いや、それよりも、よりによって――!


「ハッハー!! お待たせいたしましたアンネリーゼ様! あなた様のバニー1号が、優雅に、且つエレガントな勝利をプレゼントするとお約束いたします!」


 優雅とエレガントは同じ意味ですわぁ~~~~???


「アラアラアラ、随分嬉しいこと言ってくれるじゃない、バニー1号くん。あまりの感動で私、縦ロールが直毛になるかと思ったわ」


 どういうことです???

 上級貴族ジョークですか???

 わたくしには理解が及びませんわぁ~~~~。


「ヒイイイイイイイ!?!?」


 例によってレベッカさんが、自身の鳥肌をさすりながら悲鳴を上げておりますわぁ~~~~。

 これはマズいですわね……。

 考え得る限り、最悪の組み合わせです……。

 これならまだ、ヴェンデルお兄様のほうがマシだったくらいですわ。


「レベッカさん、落ち着いてくださいませ。バニー1号さんと直接戦ったことのあるわたくしだからわかります。レベッカさんのほうが、実力は確実に上ですわ。落ち着いて戦えば、勝つのはレベッカさんですわ」

「ニャッポリート」

「ヴィ、ヴィクトリア隊長……! そうですよね! 私のほうが、実力もヴィクトリア隊長から向けられる愛情も上なんですもんね! よおおおおし、いっちょ瞬殺してきますよおおおお!!!!」


 あれ???

 わたくし、愛情の話なんてしましたっけ???

 ま、まあ、やる気が出たようで何よりですが。


「レベッカおねえちゃん! ファイトだにゃ!」

「うん! いってくるね、ボニャルくん!」


 ボニャルくんからの声援を受けて、ほんのり鼻血を垂らしながら舞台に上がるレベッカさん――。

 ある意味今のレベッカさんは、最高のコンディションだと言っても過言ではございませんわ。


「フフ、相手にとって不足なし! いざ尋常に勝負!」

「ええ、望むところです!」


 舞台の上で相対する、レベッカさんとバニー1号さん。

 絵面は完全に不審者に職質してる女性騎士ですが、あくまで真剣勝負の真っ最中だということは忘れてはなりませんわ!


『よっしゃ、心の準備はいいな二人とも?』


 ローレンツ副団長が結界を展開させます。


『準々決勝第二試合、始めェ!!』


 ――レベッカさん!


「フフ、遂にこの『技』を人前で披露する日がきたか」

「「「――!?」」」


 え?

 そう呟くなりバニー1号さんは、おもむろに剣をのです。

 んんんんんんんん?????


「はえ???」


 あまりの出来事にレベッカさんは、不幸にも道端で全裸パーカーオジサンに遭遇してしまった幼女みたいな顔をしていますわ!

 これはトラウマ不可避ですわッ!


「これぞ【武神令嬢ヴァルキュリア】に屈辱的な敗北を喫した我々【バニーテン】が、更なる高みを目指し辿り着いた境地! ――その名も【股間剣法はがくれ】!」


 ちょっと一旦休憩がほしいですわッ!!

 これは咀嚼するのに、最低でも20分は掛かりますわッ!


「――騎士道とは死ぬ事と見つけたり」


 既にあなたは社会的に死んでますわッ!!


「うぎゃああああああああああああ!!!!!!」


 嗚呼、もう完全にレベッカさんが戦意喪失してしまってますわ……。


「フンフンフンフンフンフンフンフン」

「ぎゃあ!! ぎゃあ!! ぎゃあ!! ぎゃあああああ!!!!」


 バニー1号さんがフンフン言いながら、ひょこひょこレベッカさんに近付いて行きますわ!?

 いや何の時間ですかこれ????

 これが栄誉ある王立騎士団武闘大会の一戦として、歴史に残ってしまって本当によろしいのですか????

 ――くっ、これは大変不本意ではありますが、レベッカさんの心に一生消えない傷が付いてしまう前に、わたくしがタオルを投げるべきでしょうか……。


「ヴィクトリア隊長、ヴィクトリア隊長」

「え?」


 その時でした。

 わたくしの右隣の席に座っているグスタフさんが、こそっとわたくしに耳打ちしてきました。


「な、何でしょうか?」

「今すぐレベッカに大声で、こう言ってやってください――」

「――!」


 グスタフさんから言われた文章は、まったく意味が不明なものでした。

 何故今、そんなことを言う必要が??


「これを言えば、絶対レベッカは勝ちますから」

「……!」


 自信に満ちたお顔で、そう断言するグスタフさん。

 そ、そこまで仰るなら、一か八かこれに賭けてみますか……。

 わたくしは大きく息を吸ってから、こう叫びました――。


「――レベッカさん、この勝負に勝ったら、わたくしが頭ナデナデしてあげますわぁ~~~~!!!」

「「「――!?」」」

「………………う」


 う?


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」


 レベッカさん?????

 レ、レベッカさんの魔力が、かつてないほどに膨れ上がっていきますわ――!


「飢饉に屈した母

 優しいだけの父

 詰めが甘い兄

 強かな妹

 詰めが甘い魔女

 少女の覚悟が魔女を焼く

 ――【魔女ヲ焼ク業火ヘンゼル・ウント・グレーテル】」


「「「――!!」」」


 レベッカさんが魔力で生成した炎の矢が、バニー1号さんに放たれました。

 ――が。


「フン!」

「「「!?!?」」」


 バニー1号さんはその炎の矢を、股間の剣で弾いたのです。

 【股間剣法はがくれ】、恐るべし――!!

 ……ですが。


「うおおおおおおおおおおお!!!!」


 次々に絶え間なく、炎の矢を連射するレベッカさん。

 【魔女ヲ焼ク業火ヘンゼル・ウント・グレーテル】は、魔力の続く限り無限に炎の矢を連射できる、捨て身の技なのですわ!


「フンフンフンフンフンフンフンフン」


 ただ、バニー1号さんは極めて冷静に、炎の矢を股間の剣で弾きます。

 これは、レベッカさんの魔力が尽きるのが先か、それともバニー1号さんの体力が尽きるのが先かの、デスレースですわッ!


「うおおおおおおおおおおお!!!!」

「フンフンフンフンフンフンフンフン」

「うおおおおおおおおおおお!!!!」

「フンフンフンフンフンフンフンフン」

「うおおおおおおおおおおお!!!!」

「フンフンフンフンフンフンフンフン」


 レベッカさん――!!


「う……ううぅぅ……!!」


 嗚呼!

 炎の矢の間隔が、段々短くなっていきますわ!

 そろそろ、レベッカさんの魔力が――!!


「――フッ」


 その時でした。

 バニー1号さんが、不敵な笑みを浮かべました。

 こ、これは――!?


「――見事だ」

「「「――!!」」」


 どうやら先に限界がきたのはバニー1号さんのほうでした。

 バニー1号さんは股間の剣を落としてしまったのです――。


「ぐわあああああああああああああああああ」


 そしてバニー1号さんは炎の矢を真正面から受け、全身が炎に包まれてしまいました――。


『そこまで! バニー1号戦闘不能により、勝者はレベッカ・アイブリンガー!』

「ニャッポリート」

「「「うおおおおおおおおおおおおお」」」

「ハァ……! ハァ……! ハァ……! ハァ……!」


 フゥ、薄氷の勝利でしたわね。

 ……ですが、今のでレベッカさんは、魔力のほとんどを使ってしまいました。

 レベッカさんはラース先生みたいに魔力を補充する手段もないですし、これは次は厳しい戦いを強いられることになりそうですわね……。


『オイオイ、生きてるのかありゃ? 医療班、すぐ手当てしてやれー』


 ローレンツ副団長が結界を解除した途端、医療班のみなさんがバニー1号さんに駆け寄ります。


「うぎゃああああああああああああ!!!!!!」


 そんなバニー1号さんを見て、レベッカさんが悲鳴を上げました。

 さもありなん。

 【魔女ヲ焼ク業火ヘンゼル・ウント・グレーテル】でバニーガールの衣装を焼かれてしまったバニー1号さんは、全裸になっていたのですから――。

 結局レベッカさんの心に、一生消えない傷が付いてしまいましたわ!

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