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第82話:だったのですわ――。

『む? 何者だ貴様は? ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ』


 陛下がホルガーさんに、怪訝な顔を向けます。

 こ、ここはわたくしがフォローしませんと!


「陛下! こちらの方は、変態……じゃなかった、天才鍛冶師のホルガーさんですわ! わたくしの【夜ノ太陽ナハト・ゾネ】と【昼ノ月ミターク・モーント】も、ホルガーさんに誂えていただいたのですわ!」


 まあ、その【夜ノ太陽ナハト・ゾネ】と【昼ノ月ミターク・モーント】も、リュディガーに文字通り一刀両断されてしまったのですが……。

 あれ?

 そういえば、その両断された【夜ノ太陽ナハト・ゾネ】と【昼ノ月ミターク・モーント】は、どこにいったのでしょうか?


『フン、その天才鍛冶師とやらが、王立騎士団ここに何の用だ』

「お初にお目にかかります、陛下。突然の無礼をお許しください」


 ホルガーさんが折り目正しく、陛下に頭を下げられます。

 オオ!?

 意外とその辺はしっかりしてる方だったんですのね、ホルガーさんは!?

 相変わらずギャップが多い方ですわぁ~~~~。


「実は昨日こちらの第三部隊のみなさんが、【武神令嬢ヴァルキュリア】の折れた剣を持ってウチの店に駆けつけてこられまして。なんとかこれを直してもらえないかと、みなさん揃って頭を下げられたんです」


 マア!

 そんなことが!?

 思わず第三部隊のみなさんのほうを向くと、みなさんは照れくさそうなお顔で微笑まれておりました。

 み、みなさああああああああん!!!!


「……本当にありがとうございますわ。わたくしは世界一の、幸せ者ですわ」

「ニャッポリート」


 わたくしはみなさんに深く頭を下げます。


「僕たちは当然のことをしたまでですよ」

「そうですよヴィクトリア隊長! 何せ私はヴィクトリア隊長の右腕ですからね!」

「こちらこそいつもありがとうございますにゃ!」

「ヴィクトリア隊長、一生ついていきます!」

「ヴィクトリア隊長!」


 嗚呼、涙で前が見えませんわ……。


『フン、で? その剣の修理が終わったというわけか』

「いえ、修理はしてません」

『……何?』


 えっ!?

 ホルガーさん??

 こんなに感動的な場面を作っておいて、そりゃないですわ!?


「同じ物を作っても、結局また折られちまうのがオチです。――だから俺は【夜ノ太陽ナハト・ゾネ】と【昼ノ月ミターク・モーント】を修理するのではなく――まったく新しい剣に生まれ変わらせたんです」

「「「――!!」」」


 なっ!?


「ほらよ、【武神令嬢ヴァルキュリア】、これがお前の、新しい剣だ」

「ホルガーさん……」


 ホルガーさんはわたくしに、一対の双剣を差し出されました。

 わたくしはその双剣を、フウと息を吐いてから受け取ります。


「この剣は、今まで【武神令嬢ヴァルキュリア】から受け取った素材の余りを、全部駆使して作った俺の最高傑作だ。――その名も【夕焼ケノ空アーベンロート・ヒンメル】と【朝焼ケノ海モルゲンロート・マーレ】。俺がラース先生の小説で一番好きな、『朝焼けのポートフォリオ』から着想を得て作ったんだぜ」


 ホルガーさんは誇らしげに、わたくしとラース先生にニカッと笑いました。

 なるほど、確かにこの儚げな夕焼け色をした【夕焼ケノ空アーベンロート・ヒンメル】は、『朝焼けのポートフォリオ』のプロローグを、生命力溢れる朝焼け色をした【朝焼ケノ海モルゲンロート・マーレ】は、エピローグを彷彿とさせますわね。

 流石ホルガーさん。

 相変わらずの再現度ですわ。

 ――しかもこの剣、わたくしが魔力を込めれば込めるほど切れ味が増すのがわかります。

 つまりわたくし次第で、この剣は無限に強くなるということ――!

 これでしたら、次こそはリュディガーに勝てるかもしれませんわ。

 ――いえ、わたくしは必ず勝ちますわ!


「ありがとうございますわホルガーさん。この剣、生涯大事に使わせていただきますわ」

「僕からもお礼を言わせてくださいホルガーさん。僕の『朝焼けのポートフォリオ』からこんな素晴らしい剣を作ってくださったこと、作家冥利に尽きます」

「カカカ、二人からのその言葉こそが、俺にとっちゃ最高の報酬だよ」

「ホルガーさん……!」


 ああもう!

 また涙腺がギュワギュワしてきましたわッ!


「で、伝令ですッ!!」

「「「――!!!」」」


 その時でした。

 全身に酷い傷を負った、伝令係のリーヌスさんが駆け込んで来られたのです。

 なっ!?


「リーヌスさん、その傷はどうされたのですか!?」

「ニャッポリート」


 思わずわたくしは、リーヌスさんに駆け寄ります。


「き、昨日私は【弱者の軍勢アインヘリヤル】がイェンシュ伯爵家を襲撃した現場を、偶然目撃したのです……」

「「「――!!」」」


 マア!?


「そしてその後、【弱者の軍勢アインヘリヤル】の一人を尾行し、【弱者の軍勢アインヘリヤル】たちが根城にしている場所を特定しました……」

「「「――!?!?」」」


 マジですかッ!!?

 それって超お手柄じゃないですかリーヌスさんッ!

 ――この方こそ、伝令係の鑑ですわ。

 ただ、ではこの傷はいったい誰が……。


「ね、根城の場所は……、うっ!?」

「リーヌスさん!?」

「ニャッポリート」


 もう立っているのさえ限界だったのか、リーヌスさんはその場に膝をつきました。


「はいは~い。すぐに治療しますね~」


 医療班の班長であるユリアーナ班長がリーヌスさんを床に寝かせながら、回復魔法を掛けられます。


「あ、ありがとうございます……、ユリアーナ班長……」

「いえいえ~、これも仕事ですから~」


 ううむ、これはリーヌスさんのお話を伺うのは、治療が終わってからですわね。


「あ、よければボクが、記憶投影魔法を使いましょうかにゃ?」

「「「――!」」」


 あっ、そうですわ!

 こういう時こそ、ボニャルくんの記憶投影魔法の出番ですわ!

 これならリーヌスさんが口で説明せずとも済みますし。


「よろしくお願いいたしますわ、ボニャルくん」

「ニャッポリート」

「はいだにゃ! では、その時の記憶を頭に思い浮かべてくださいにゃ」

「あ、はい」


 ボニャルくんが右手を、横になったリーヌスさんのおでこに当てます。

 これで遂に、【弱者の軍勢アインヘリヤル】の尻尾が掴めますわ!


「記憶の絵の具をパレットに出し

 理性の筆で混ぜ合わせ

 本能のままキャンバスにぶつけろ

 ――記憶投影魔法【即席の心象画オートアート】」


 ボニャルくんが掲げた左手の先に、映像が浮かび上がりました。


『クカカカカ! よえぇ、よえぇなぁ! 伯爵家の護衛も、所詮この程度なのかよぉ』


「コ、コイツは――!!?」

「にゃっ!!?」


 そこに映った人物を見て、レベッカさんとボニャルくんが、瞬時に殺気立ちました。

 わたくしもあまりの驚きに、思わず言葉を失いました。

 それは確かにわたくしが殺したはずの、バルタザール・グラッベだったのですわ――。

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