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第89話:おりましたわ――!

「フフフ、ボクをブッ殺すだって? これを受けても、同じ台詞が吐けるかな?」


 ブルーノは【冥神の鞭ネケク】で自らの影を叩きました。


「悪意の数だけ罪は増し

 罪の数だけ鎖は増し

 鎖の数だけ未来は減る

 ――拘束魔法【秩序の鎖ルーラーチェーン】」


「「「――!」」」


 ブルーノの影から、夥しい数の黒い鎖のようなものが生えてきて、それがヴェルナーお兄様の手足をガチガチに拘束しました。


「どうだい!? 自らの犯した罪を認識できたかい!? その鎖は身体を拘束するだけでなく、懺悔する時間を与える役割もあるんだよ! さあ! 悔い改めたまえ! 神に許しを請うんだッ!」

「フン、この程度で私を縛った気でいるとは――滑稽だな」

「……何? む!?」


 ヴェルナーお兄様は、【冷タク怒ル剣グラム】に魔力を込めます。

 これは――!


「光さえ届かぬ奈落

 その国には霧が立ち込め

 凍りながら北上する川には

 死の女神を乗せた船が浮かぶ

 ――氷鎧魔法【冷タイ氷ノ国ニヴルヘイム】」


「「「――!!」」」


 ヴェルナーお兄様の全身が、見る見るうちに氷の鎧で覆われました。


「な、なにィ!?」


 するとヴェルナーお兄様を拘束していた鎖も瞬時に凍りつき、粉々に砕け散ってしまったのですわ!

 これぞヴェルナーお兄様の奥の手である、【冷タイ氷ノ国ニヴルヘイム】!

 【冷タイ氷ノ国ニヴルヘイム】に触れたものは瞬く間に凍てつかせて破壊する、攻守に優れた氷の鎧なのですわ!


「クッ、これならどうですか!?」


 今度はイルメラが【絡新婦の糸アラクネー】を伸ばし、ヴェルナーお兄様を襲います。

 ですが――。


「無駄だ」

「なっ!?」


 【絡新婦の糸アラクネー】も【冷タイ氷ノ国ニヴルヘイム】に触れた瞬間凍りつき、粉々になってしまったのです。

 これは、勝負ありましたわね。

 最早今のヴェルナーお兄様は、無敵ですわ!


「私は優しくはないからな。ブルーノ、貴様に懺悔する時間など与えないぞ」

「ぐっ……!」


 ヴェルナーお兄様は【冷タク怒ル剣グラム】の切っ先をブルーノに向け、魔力を込めます。


「氷狼の牙は天にも届き

 全てを吞み込み闇へと還す

 永劫の闇で心まで凍る

 夢さえ見れぬ 零度の揺籃

 ――絶技【氷狼ノ牙フローズヴィトニル】」


「ぬあああああ!!?」


 凍てつく鋭い氷を刀身に纏った【冷タク怒ル剣グラム】で、ブルーノに斬り掛かりました――。

 ヴェルナーお兄様――!!


「ブルーノ様ッ!」

「「「――!!」」」

「なっ……!」


 その時でした。

 ブルーノを庇うように両手を広げてブルーノの前に立ったイルメラが、【氷狼ノ牙フローズヴィトニル】の刃を受けたのです――!


「イ、イルメラッ!!」

「お、お怪我はございませんか、ブルーノ様……」

「ああ! ボクは無事だ!」

「フフ……それは……よかった……です……」


 イルメラの全身は瞬く間に凍りつき、粉々に砕け散ってしまいました――。

 クッ、イルメラ、そこまでして、ブルーノのことを……。


「う、うおおおおお、よくもイルメラををををを!!!!」

「ぐあっ!?」

「ヴェルナーお兄様ッ!?」


 【冥神の鞭ネケク】を脇腹に叩きつけられたヴェルナーお兄様が、真横に吹っ飛んで壁に激突してしまいました。

 そんな――!?

 【冷タイ氷ノ国ニヴルヘイム】に触れたものは、何でも瞬時に凍らせてしまうはずですのに!


「フン、この【冥神の鞭ネケク】は全ての防御を貫通する効果があることを忘れたのかい? その氷の鎧がどれだけ堅牢だろうと、【冥神の鞭ネケク】の前には紙切れ同然さ」


 クッ、まさかそれほどまでとは――!


「ク……ソ……! ヴィ……ク……! ……うっ」


 ヴェルナーお兄様は気を失ってしまいました。

 嗚呼、ヴェルナーお兄様が戦えないなら、最早誰がブルーノを――!


「あの人が怒ってる」

「愛する人を傷付けた咎人とがびとを」

「あの人は決して許しはしない」

「この風はその怒りの顕現」

「「――竜巻魔法【天空神の憤怒ゼウストルネード】」」


「「「――!!」」」


 その時でした。

 ブルーノの周りを取り囲むように、四つの竜巻が発生したのですわ!

 これはッ!


「へっへーん! 後のことは、オレたちに任せておくじゃん!」

「任せておくの!」


 そうでしたわ!

 王立騎士団我々にはまだ、ピロス隊長とピピナ副隊長最年長の大先輩がおりましたわ――!

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