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第92話:65535本くらい立ちましたわ。

「グスタフ先輩……!」

「グ、グスタフさあああああん!!!」

「にゃあああああああああああ!!!」

「グスタフ、お前、男だぜ……」

「グスタフさん、ご立派ですわぁ……」

『ニャッボリート』


 わたくしがドッペルゲンガーから得た情報をみなさんに伝えると、場は深い悲しみに包まれました。

 特にレベッカさんは、入団当初からグスタフさんには頼れる先輩としてずっとお世話になっておりましたので、滝のような涙を流しておりますわ。

 もちろんグスタフさんにお世話になったのはわたくしも同様ですので、今にも涙が溢れそうです。

 ――ですが。


「みなさん、お気持ちはよくわかりますが、今はまだ任務中ですわ。グスタフさんも、我々が悲しみで剣を鈍らせるのは望んでいないはずです。ここは今一度気を引き締め、グスタフさんに負けないよう、我々は我々の役目を果たしましょう」

「ヴィ、ヴィクトリア隊長……! そうですよね……! 悲しむのは、この戦いが終わってからです! じゃなきゃ、天国のグスタフさんに笑われちゃいますから!」


 レベッカさんは、腕でゴシゴシと涙を拭いました。

 ウム、それでこそレベッカさんですわ。


「むしろ今のこの状況は、千載一遇のチャンスですわ。王都のみなさんが【弱者の軍勢アインヘリヤル】の幹部を四人も倒してくださったお陰で、残りの幹部は【好奇神ロキ】とリュディガーとバルタザールとヴェンデルお兄様の四人だけになりました。しかも【好奇神ロキ】たちは、わたくしたちがこうして奇襲を仕掛けようとしていることを知りません。今ここにいるメンバーなら、奇襲が成功すれば十二分に勝機はございますわ。当初は威力偵察の予定でしたが、このまま殲滅作戦に移行しようかと存じますが、いかがでしょうか?」

「はい、賛成です」

「このメンバーなら、絶対勝てますよ!」

「ボクもサポート頑張るにゃ!」

「……俺も現役時代にやり残した仕事を、キッチリ片付けるぜ」

「あらぁ、こんなオバサンじゃお役に立てるかわかりませんが、頑張りますわぁ」

『ニャッボリート』

 よし、そうと決まれば、後はやるだけですわ!


『ニャッボリート』

「「「――!」」」

 その時でした。

 ニャッポの視界に、マウンティア山脈の頂上にある魔王城が映りました。

 あれが、【弱者の軍勢アインヘリヤル】の根城ですわね……!

 さあ、いよいよ最終決戦ですわ!


「ニャッポ、【好奇神ロキ】たちに気付かれないように、あの城の付近に着地できますか?」

『ニャッボリート』

 ニャッポは低空飛行で、ゆっくりと魔王城に近付きます。

 流石ニャッポですわ!

 ニャッポが周囲を警戒しながら、いよいよ城まであと少しというところまで来た、その時でした――。


『ニャッボリート』

「「「っ!!?」」」


 城の入口辺りから伸びてきた、が、ニャッポの翼を貫いたのです――。

 これは――!?


『ニャッボリート』

「「「――!!」」」

 堪らずニャッポは、その場に墜落してしまいました。

 ですが地面にぶつかる直前、わたくしたちを外に出してくれたお陰で、わたくしたちは無傷で着地することができたのですわ。


「ニャッポ、大丈夫ですか!?」

「ニャッポリート」

「ニャッポ様、今回復しますにゃ!」


 いつもの可愛らしいサイズに戻ったニャッポは、フラフラしながらも定位置であるわたくしの左肩にちょこんと乗ったのでした。

 そんなニャッポに、すかさずボニャルくんが回復魔法を掛けます。

 よかった、傷は浅いようですわね……!


「クカカカカ! 久しぶりだなぁ、【武神令嬢ヴァルキュリア】。会いたかったぜぇ。相変わらず、美味そうな鎖骨してるじゃねぇか」

「バルタザール……!!」


 そこには不快な笑顔を浮かべた、バルタザールが立っていたのでした――。

 クッ……!


「何故わたくしたちが近付いていることがわかったのです?」


 今のバルタザールは、明らかにわたくしたちを待ち伏せておりましたわ。

 バルタザールたちは、わたくしたちに根城の場所がバレていることは知らないはずですから、本来なら待ち伏せは不可能なはず……!


「クカカ! そんなの当たり前じゃねぇかぁ。昨日オレを、がいただろぉ?」

「「「――!!」」」


 そんな――!

 バルタザールは、リーヌスさんに尾行されていることに気付いていたのですか――!


「ちょうどいいと思ったんだよぉ。この場所が王立騎士団にバレたら、きっとお前が会いに来てくれるって信じてたからなぁ、【武神令嬢ヴァルキュリア】。だからオレは仲間にもそのことは隠して、王都への襲撃はパスしたんだぁ。お前とこうして二人で、逢瀬を重ねるためになぁ!」


 だからわたくしと貴様は赤の他人だと、何度言えばわかるのです!?

 この場には他にも人がいるのに、どうやらわたくしのことしか見えていないようですし……。

 さっきも言いましたが、何故わたくしの周りには、こんなにキモい人間が多いのでしょう……。

 わたくし前世で、パケモンカードの転売ヤーでもやっていたのでしょうか……?

 それにしても、やはりバルタザールは、【弱者の軍勢アインヘリヤル】が掲げている正義はガン無視しているようですわね。

 コイツの中には正義なんてものは、欠片もありませんわ。

 あるのはただ、女性の鎖骨に対する狂気的な執着だけ。

 お父様の記憶で見た【好奇神ロキ】が、「最初の妻はずっと地下牢に監禁されていて、身体中の骨が浮き出ているほど瘦せこけていた」と言っていましたが、もしも幼い頃のバルタザールが、瘦せこけた母親の浮き出た鎖骨を見て、それに執着するようになってしまったのだとしたら、何とも皮肉な話ですわね……。

 とはいえ、バルタザールに同情する気にはなれませんが。


「バルタザアアアアルウウウウウ!!!!」

「にゃああああああああああああ!!!!」


 レベッカさんとボニャルくんが、激高しながらバルタザールと相対します。

 そうですわよね……。

 お二人からしたら、死んだと思っていた姉の仇が、こうしてふてぶてしく蘇って目の前に立ちはだかったのです。

 そりゃブチギレますわよね。


「クカカ! そう妬くなよぉ、お嬢ちゃん。もちろん【武神令嬢ヴァルキュリア】の鎖骨をたっぷり愛でた後は、お嬢ちゃんの鎖骨も愛でてやるよぉ」

「フ、フザけるなああああ!!!!」


 うん、やっぱコイツが一番キモいですわッ!

 1ミクロンも話が通じないですもの!


「おっとぉ、そっちにいるのは【武神令嬢ヴァルキュリア】のお袋さんだよなぁ? お袋さんの鎖骨も、成熟したイ~イ鎖骨じゃねぇかぁ。たまには熟れた鎖骨を愛でるのも、アリだよなぁ」

「あらぁ、こんなオバサンの鎖骨なんか愛でても、楽しくないですわよぉ」


 コ、コイツ、あろうことか、お母様にまで……!


「なんだァ? てめェ……俺の前でヴェロニカを口説こうとするたぁ、イイ度胸してんなぁ」


 お父様、キレた!!

 あ~あ、一番厄介な方をキレさせてしまいましたわね。

 これでもう奴には、死亡フラグが65535本くらい立ちましたわ。

 さてと、これが【夕焼ケノ空アーベンロート・ヒンメル】と【朝焼ケノ海モルゲンロート・マーレ】のデビュー戦ですわね。

 精々試し斬りの相手とさせていただきましょうか。

 わたくしは右手で握っている【夕焼ケノ空アーベンロート・ヒンメル】の切っ先を、バルタザールに向けます。


「バルタザール・グラッベ、あれだけわたくしがわからせたにもかかわらず、微塵も反省の色が見られないその罪、万死に値します。――ブッころですわッ!」

「ニャッポリート」

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