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第93話:鋭く尖ったのですわ――!

「クカカ! 反省なんかするわけねぇだろぅがぁ。何故ならオレは、ただ純粋に女の鎖骨を愛でてるだけで、何一つ悪いことはしてねぇんだからなぁ!」


 バルタザールが左右の腕を前方に突き出すと、指先に禍々しい魔力が集中します。


「首のない蛇は酒に溺れる

 生娘を抱いて深く眠る

 ――【十岐大蛇トマタノオロチ】」


「「「――!!」」」


 バルタザールの左右の十本の爪が、蛇行しながら鋭く伸びて、わたくしに襲い掛かってきました。

 ――フム。


「セイッ!」

「ニャッポリート」

「なぁッ!?」


 わたくしが【夕焼ケノ空アーベンロート・ヒンメル】と【朝焼ケノ海モルゲンロート・マーレ】でその十本の爪を斬り払うと、全ての爪は真っ二つになりました。

 ホホウ。


「あ、有り得ねぇ……! あの時と違って、今のオレは油断せず魔力を込めたぁ……! 油断さえしなきゃ、オレの【十岐大蛇トマタノオロチ】は無敵のはずなんだぁ……!」

「フン、無敵が聞いて呆れますわね。つまり単に貴様の爪よりも、わたくしの剣の切れ味のほうが上だったというだけの話ではありませんか」

「ク、クソがぁぁあああああ……!!」


 流石ホルガーさんの最高傑作ですわ。

 これでしたら次こそは、リュディガーにも勝てるかもしれませんわね……!


「あらぁ」

「ぐあぁッ!?」


 その時でした。

 バルタザールの左目に、お母様の投げたナイフが深々と突き刺さりました。

 ナイスですわ、お母様!


血色ちいろの蝋燭

 埋められた林檎

 カボチャのランタン

 羊の生贄

 魔女への祈りが夜明けを貫く

 ――【魔女ノ一撃ヘクセンシュス】」


「なにィイイイイ!!?」


 今度はレベッカさんの射った【魔女ノ一撃ヘクセンシュス】が、バルタザールの左の手のひらに突き刺さりました。

 そして矢が刺さった箇所から、じわじわと腕が紫色に変色してきたのです。

 よし、どうやら悪魔化した人間にも、【魔女ノ一撃ヘクセンシュス】の毒は効くようですわね。


「クソがぁ!!」


 バルタザールはあの時同様、右手の伸びた爪で、毒にまみれた自らの左腕を切断しました。

 ――が。


「鶫が語る愛と嘘

 嵐の夜に虚構が生まれる

 男と女が詩を重ね

 紡ぐ悲劇は 過去すら欺く

 ――【嵐ガ丘ワザリング・ハイツ】」


「うがぁッ!?」


 そこに間髪入れずラース先生の【嵐ガ丘ワザリング・ハイツ】が襲い、バルタザールの右腕は木端微塵に吹き飛びました。


「うおおおおりゃああああああ」

「ごっぱぁぁぁぁああああああ」


 そしてトドメとばかりに、お父様渾身の右ストレートが腹部に直撃しました。

 バルタザールは土手っ腹に風穴を開けながら、魔王城の門に激突したのですわ。

 うぅん、流石にこれは、若干気の毒になりますわね。

 戦隊ヒーローモノによくある、悪の怪人を複数人でボコボコにしてるシーンみたいですわ。


「ク、クソがぁぁああ!!! ゼッテェ許さねぇからなぁぁあああ!!!」

「「「――!」」」


 が、バルタザールの瀕死の身体は、一瞬で元通りに再生してしまいました。

 左目に刺さっていたナイフを抜くと、眼球も傷一つない状態になりました。

 ムゥ、やはり悪魔化した人間を殺すには、首を斬るしかないようですわね。


「クカカカカ! どうだぁ? これが親父から貰った、神にも等しい無敵の力だぁ! この力がある限り、オレは絶対に負けねぇ!」


 フン、それはどうですかね?

 首さえ斬られれば死ぬのですから、無敵には程遠いと思いますけど。


「だが、オマエらは無敵じゃねぇよなぁ? ――特に回復役をヤられたら、もう傷は治せねぇよなぁ!」


 なっ!?

 ――まさか!


「首のない蛇は酒に溺れる

 生娘を抱いて深く眠る

 ――【十岐大蛇トマタノオロチ】」

「にゃあッ!?」


 バルタザールの十本の爪が、襲いました――。

 ボニャルくん……!!


「ボニャルくんッ!」

「にゃっ!?」

「「「――!!」」」


 その時でした。

 ボニャルくんを庇って、十本の爪を受けたのです――。


「レ、レベッカさんッ!!」

「レベッカおねえちゃんッ!!」

「ボ、ボニャルくん……、怪我はない……?」


 その場に倒れたレベッカさんは、それでもボニャルくんを案じます。

 この辺は、グスタフさんと同じですわね……。


「大丈夫だにゃ! レベッカおねえちゃんが守ってくれたからにゃ!」

「ふ、ふふ……、弟を守るのは……、姉の役目だから……」


 レベッカさん……!


「今回復するにゃ!」

「うん……、ありがとう……ボニャルくん……」


 幸いグスタフさんと違って致命傷は免れていたようで、ボニャルくんの回復魔法ですぐ傷は塞がりましたが、レベッカさんは気を失ってしまいました。

 グッジョブでしたわ、レベッカさん。

 後のことはわたくしたちに任せて、ごゆっくりお休みくださいませ。


「クカカ! 危ねぇ危ねぇ。危うく嬢ちゃんの鎖骨を傷付けそうになったから、咄嗟に手加減して正解だったぜぇ」


 コイツ……!!

 つくづく鎖骨のことしか考えていないのですわね……!!


「許さない……! 絶対に許さないにゃ……!!」

「……あぁん?」

「「「――!」」」


 その時でした。

 ゆらりと立ち上がったボニャルくんから、桁外れの魔力が溢れ出しました。

 こ、これは――!?


「にゃああああああああああああああああ」

「なっ!?」

「「「――!!」」」

 ボニャルくんの全身が、で覆われました。

 鼻筋も突き出てより猫に近い容姿になり、両手の爪も猫のように鋭く尖ったのですわ――!

 ボニャルくん???

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