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第94話:誰にも負ける気はいたしませんわッ!

「にゃああああああああああああああああ」

「くぅ!?」


 四つん這いになったボニャルくんは、それこそ猫のように超高速でバルタザールに突貫しました。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃああああ」

「ぐあああああああ!?!?」


 そして目にも止まらぬ速さでバルタザールの全身を、鋭い爪でズタズタに斬り裂いたのですわ!

 ボ、ボニャルくううううん!!!


「クソがぁぁああ!! 調子に乗るなよガキィィイイ!!」

「にゃっ!」

「なにィ!?」


 バルタザールがカウンターで繰り出した爪を、これまた猫のようにひらりと躱したボニャルくんは、またわたくしたちのところに瞬時に戻って来ました。


「凄いですわ、ボニャルくん!」


 まさかボニャルくんに、これだけの力が眠っていただなんて!

 レベッカさんがやられたことによる怒りで、猫獣人としての潜在能力が覚醒したのでしょうか……?


「クカカ! まあ、確かにスピードはなかなかのもんだがぁ、如何せんパワーが足りてねぇなぁ」


 バルタザールの全身の傷は、例によって瞬く間に回復してしまいました。

 ヌゥ、本当にゴキブリ並みにしぶとい奴ですわね!


「問題ないにゃ。ボクがパワー不足なのは、ボク自身が一番よくわかってることだにゃ」

「アァン?」


 ボニャルくん……?


「――それよりも、今のこの状態なら、多分が使えるにゃ!」


 あの魔法……とは??


「ニャッポ様、あなた様のお力、お借りしますにゃ!」

「ニャッポリート」


 ヌッ!?

 ボニャルくんはわたくしの肩に乗っているニャッポに向き合いながら、左右の手のひらを合わせました。

 い、いったい何を……!?


「純白のドレスは覚悟の証

 背中の羽は自由の証

 猫の耳は野生の証

 頭上の輪は倫理の証

 ――霊装れいそう魔法【羽猫の花嫁衣装キャットエンジェル】」


「「「――!!!」」」


 ボニャルくんが呪文を詠唱した途端、ニャッポの身体が光の粒となって霧散してしまいました。

 ニャ、ニャッポッ!?


「なっ!?」


 ですが、その光の粒がわたくしの全身を覆うと、わたくしの深紅のドレスが、純白のウエディングドレスのようなものに変化したのですわ!

 えーーー!?!?!?


「ヴィ、ヴィクトリア隊長……! そのお姿は……!!」

「え?」


 ラース先生がメガネをクイと上げながら大層興奮されてるので、何事かと地面の水溜まりに映った自分の姿を見ると、わたくしの背中には三対の白い羽が、頭には白い猫耳が生えており、頭上には天使の輪のようなものが浮いていたのです――。

 な、何ですかこれええええええええ????


「それこそがボクの一族に代々伝わる、究極の霊装魔法だにゃ! フェザーキャットであるニャッポ様の力を霊装に変化させ纏わせる、補助魔法の神髄なんだにゃ! ボクの一族でも、もう何百年もこの魔法を使えた者はいなかったそうにゃんだけど、今のボクなら使えるかもと思ってやってみたら、成功してよかったにゃ!」

『ニャッポリート』


 なっ!?

 わたくしが纏っている純白のドレスから、ニャッポの鳴き声が響いてきました。

 本当に、ニャッポなのですわね……?

 ――嗚呼、身体の奥底から、かつてないほどの力が溢れ出てくるのを感じますわ――。

 今のわたくしなら、誰にも負ける気はいたしませんわッ!


「ヴィクトリア隊長、お綺麗です……」

「っ!?」


 ラース先生がそれこそ新婦を見つめる新郎のようなお顔を、わたくしに向けます。

 はわわわわわわわ……!?

 わたくしの心臓が、過去最高にドッキュンドッキュン高鳴っておりますわ???

 も、もしかして……、わたくし、は……!?


「オイイイイイイイ!!! 俺はまだ、ヴィクを嫁にやるつもりはねえぞおおおおおお!!!」

「あらぁ、ヴィクの花嫁姿、とっても似合ってますわぁ。何なら今すぐここで、式を開きますかぁ?」

「ヴェロニカッ!? 滅多なこと言うなよッ!?」


 相変わらずわたくしの両親は、意見が真逆ですわね……。


「オイオイオイ、【武神令嬢ヴァルキュリア】ァ!! オレの前で他の男とイチャつくなって、何回言わせんだよぉおお!! ――オレはNTRが大嫌いだって、言っただろうがぁぁああああ!!!!」

 貴様こそいい加減現実を見なさい、この超絶激キモストーカー野郎がッ!!


「うがぁぁあああああああああ!!!!」


 超絶激キモストーカー野郎は、十本の爪をわたくしに突き出してきました。

 ……フム。


「セイッ!」

『ニャッポリート』

「ぬあぁぁああッ!?!?」


 わたくしは左手の【朝焼ケノ海モルゲンロート・マーレ】だけで、十本の爪を千切りキャベツみたいに斬り裂きました。

 うんうん、片手だけでここまで斬れるとは。

 究極の霊装魔法の名は、伊達ではないようですわね。

 さて、ではそろそろ、この茶番も幕引きといたしましょう。

 わたくしは【夕焼ケノ空アーベンロート・ヒンメル】と【朝焼ケノ海モルゲンロート・マーレ】を十字に構えながら、魔力を込めます。


「神は流星の尾から天を

 流星の欠片から地を創った」


「ま、待ってくれぇ!! オレが悪かったぁ!! 降参するぅ!! 降参するからぁ、命だけは助けてくれぇ!!」


 いやいや、それ、トウエイでわたくしにしてきた命乞いと、まったく同じではないですか。

 同じ台詞の使い回ししかできないなんて、本当に語彙力のない男ですわ。

 とても作家にはなれませんわね。


「だからこそ我らは捧げよう

 夜空を流れる星々に 魂の聖歌を」


「う、うわぁぁぁあああああああああああああああああ」


「――絶技【聖譚曲三十二重奏ディーシェプフング】」


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 【夕焼ケノ空アーベンロート・ヒンメル】と【朝焼ケノ海モルゲンロート・マーレ】から放たれた三十二の純白の斬撃がバルタザールの全身をズタズタに斬り裂き、その首も刎ねたのですわ――。


「フム、これにて一件落着ですわ」

『ニャッポリート』


 わたくしは剣を鞘に収めました。

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