「……あ」
その時でした。
バルタザールを斬り裂いた【
ぬあっ!?
わ、我ながら、とんでもない威力ですわね……。
これは完全に地図の作り変え案件ですわ……。
ま、まあ、これも悪を滅するための必要経費だと思って、どうか勘弁していただきましょう。
いざとなったら、キモ団長に責任を取ってもらえばいいですし。
「ぐああぁぁぁ……! フザけやがってぇぇえええ……!!」
「「「――!!?」」」
バルタザールの首の断面から、カニみたいなキモい脚が生えてきました。
コ、コイツ、首を斬ったのに、まだ死んでないのですか……!?
「ガッハッハ! 随分情けない姿になっちまったな、バルタザール」
「「「――!!」」」
その時でした。
魔王城の荘厳な扉がゴゴゴゴと音を立てながらおもむろに開き、その中から
あ、あぁ……、ヴェンデルお兄様……。
あなたは本当に、悪魔に魂を売ってしまったのですわね……。
生まれた時からずっと苦楽を共にしてきた、尊敬する実の兄の変わり果てた姿に、わたくしの胸の奥がズグンと重くなるのを感じました――。
「クカカ! ナイスタイミングだぜお兄ちゃぁん。同じ長男同士、困った時は助け合おうぜぇ。オレは一旦親父のとこに避難するから、この場は任せるぜぇ」
「オウ、さっさと行くがいい」
「クカカカカ!」
カニタザール(カニみたいなバルタザール)は、まさにカニみたいにカサカサキモい動きで、魔王城の中に消えて行ってしまいました。
クッ、また殺しきれませんでしたか……!
一度ならず二度までも、わたくしとしたことが、一生の不覚ですわ……!
「……情けない姿になっちまったは、こっちの台詞だぜ、バカ息子が」
「……親父」
静かな怒気を孕ませたお父様の言葉に、ヴェンデルお兄様はほんの少しだけ悲しそうなお顔をされました。
「そんなこと言わないでくれよ。俺は親父の教え通り、ザイフリート家の長男として、こうして誰よりも強くなったんだぜ! 少しくらい、褒めてくれたっていいじゃねぇか!」
「バカ野郎ッッ!!!! それのどこが強さなんだよッッ!!!! 俺はお前に、そんな
「――なっ!?」
……お父様。
「いいかヴェンデル、俺はお前に、何度も何度も口を酸っぱくして言ったよな? ――この世で一番強いのは、
「……」
お父様は右手の義手の親指で、自らの心臓の位置をトントンと指したのですわ。
「それなのにテメェときたら、そんな犯罪者から楽して貰った力でドヤりやがって。今のテメェの心は、金がねぇからってパケモンカードを万引きするクソガキ並みに弱っちょろくなってやがるよ! ――親として、こんなに情けねぇことはねぇぜッ!」
嗚呼、お父様……。
お父様の無念、ひしひしと伝わってきますわ……!
「……フン、だが親父はこうも言っていたぜ。『騎士の世界は、結果だけが全て』だってな。どんなに綺麗事を並べ立てようが、勝てなかったら意味ねぇだろうが!」
「……ああ、そうだな。――だから今から久しぶりに俺が、バカ息子を一から鍛え直してやるぜ。掛かってこいよヴェンデル。親子水入らずで、ぶつかり合おうぜ」
お父様は右の拳を後方に下げ、構えを取りました。
「親子ィイイイイイイ!!!」
禍々しい魔力を全身から滾らせながら、ヴェンデルお兄様は【
あ、あれは――!