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第95話:ひしひしと伝わってきますわ……!

「……あ」


 その時でした。

 バルタザールを斬り裂いた【聖譚曲三十二重奏ディーシェプフング】の斬撃は、そのまま遥か後方にそびえ立っていた山の峰に直撃し、峰をゴッソリと削り取ってしまったのでした――。

 ぬあっ!?

 わ、我ながら、とんでもない威力ですわね……。

 これは完全に地図の作り変え案件ですわ……。

 ま、まあ、これも悪を滅するための必要経費だと思って、どうか勘弁していただきましょう。

 いざとなったら、キモ団長に責任を取ってもらえばいいですし。


「ぐああぁぁぁ……! フザけやがってぇぇえええ……!!」

「「「――!!?」」」


 バルタザールの首の断面から、カニみたいなキモい脚が生えてきました。

 コ、コイツ、首を斬ったのに、まだ死んでないのですか……!?


「ガッハッハ! 随分情けない姿になっちまったな、バルタザール」

「「「――!!」」」

 その時でした。

 魔王城の荘厳な扉がゴゴゴゴと音を立てながらおもむろに開き、その中からヴェンデルお兄様が、【雷神ノ鎚ミョルニル】を担ぎながら現れたのです――。

 あ、あぁ……、ヴェンデルお兄様……。

 あなたは本当に、悪魔に魂を売ってしまったのですわね……。

 生まれた時からずっと苦楽を共にしてきた、尊敬する実の兄の変わり果てた姿に、わたくしの胸の奥がズグンと重くなるのを感じました――。


「クカカ! ナイスタイミングだぜお兄ちゃぁん。同じ長男同士、困った時は助け合おうぜぇ。オレは一旦親父のとこに避難するから、この場は任せるぜぇ」

「オウ、さっさと行くがいい」

「クカカカカ!」


 カニタザール(カニみたいなバルタザール)は、まさにカニみたいにカサカサキモい動きで、魔王城の中に消えて行ってしまいました。

 クッ、また殺しきれませんでしたか……!

 一度ならず二度までも、わたくしとしたことが、一生の不覚ですわ……!


「……情けない姿になっちまったは、こっちの台詞だぜ、バカ息子が」

「……親父」


 静かな怒気を孕ませたお父様の言葉に、ヴェンデルお兄様はほんの少しだけ悲しそうなお顔をされました。


「そんなこと言わないでくれよ。俺は親父の教え通り、ザイフリート家の長男として、こうして誰よりも強くなったんだぜ! 少しくらい、褒めてくれたっていいじゃねぇか!」

「バカ野郎ッッ!!!! それのどこが強さなんだよッッ!!!! 俺はお前に、そんなが強さだなんて教えた覚えはねぇぞッッ!!!!」

「――なっ!?」


 ……お父様。


「いいかヴェンデル、俺はお前に、何度も何度も口を酸っぱくして言ったよな? ――この世で一番強いのは、だって。つまり真の強さってのは、ここの強さなんだよ」

「……」


 お父様は右手の義手の親指で、自らの心臓の位置をトントンと指したのですわ。


「それなのにテメェときたら、そんな犯罪者から楽して貰った力でドヤりやがって。今のテメェの心は、金がねぇからってパケモンカードを万引きするクソガキ並みに弱っちょろくなってやがるよ! ――親として、こんなに情けねぇことはねぇぜッ!」


 嗚呼、お父様……。

 お父様の無念、ひしひしと伝わってきますわ……!


「……フン、だが親父はこうも言っていたぜ。『騎士の世界は、結果だけが全て』だってな。どんなに綺麗事を並べ立てようが、勝てなかったら意味ねぇだろうが!」

「……ああ、そうだな。――だから今から久しぶりに俺が、バカ息子を一から鍛え直してやるぜ。掛かってこいよヴェンデル。親子水入らずで、ぶつかり合おうぜ」


 お父様は右の拳を後方に下げ、構えを取りました。


「親子ィイイイイイイ!!!」


 禍々しい魔力を全身から滾らせながら、ヴェンデルお兄様は【雷神ノ鎚ミョルニル】を天高く掲げました――。

 あ、あれは――!

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