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第2話 磁石でグーン!

 ピロリンピコ、ボーンボーン、ピロリンピコ、ボーンボーン。ボニョ~ン♪

 あ、中学時代の友達からメールが来た。


『由衣~☆ 高校生活、エンジョイ天狗してる⁉ そっちはイケメンばっかりの高校だからさー、彼氏とかもう出来――』


 はい既読スルー。

 私はベッドに仰向けになり、部屋の天井を見つめた。

 彼氏作ってる場合じゃないのよ。いかにしてあのシェイク部の連中から逃れる事が出来るのか、毎日そればかりを考えている。

 ていうか何で私? 私に気があるとかならわかるけど、あの二人マジモンのBLキャラじゃないの。黙っていれば目の保養にはなるけど、休み時間やお昼休み、放課後駅まで付いてきたり。だけど駅構内までは来ないのよね。


 ――ダメだサキ! この駅は俺達のテリトリーじゃない!

 ――ちっ! 毎日放課後になると安全な場所に逃げ込みやがって! 

 ――しかし、この駅に入って一体何をするつもりなんだ……サキ、解るか?

 ――さすがの俺でもわかんねぇな。ったく……不思議な女だぜ、由衣は。


 普通に電車に乗って帰ってるだけなんだけど。

 何を勘違いしたらそうなるのかな。君らは徒歩で通学してるのかな?

 まあいいや。

 はぁ……もう半分ぐらい学校行きたくない気持ちになってるけど。


 ピロリンピコ、ボーンボーン、ピロリンピコ、ボーンボーン。ボニョ~ン♪

 あ、またあの子からメールかな。返事しないとうるさいからなぁあの子。


『野上 由衣。放課後、部室にて待つ。緊急部会だ。 イカロス 剣先』


 だぁぁ! どうして私のメアド知ってんのよ! 

 ていうか、なに苗字と名前逆にしてんのよ!

 プロレスラーかっ! プロレスラーの果たし状かコレ⁉

 ……でもまあ、よく考えたら私なんかを何日も追い駆けてくれるんだもん。

 何か私に感じる魅力? みたいなのがあるのかもしれないし。

 何だか意味解らない事ばっかり喋ってるけど……イケメンだもんニャ♪


 ピロリンピコ、ボーンボーン、ピロリンピコ、ボーンボーン。ボニョ~ン♪

 あれれ? またメール?

『言い忘れてた。あの時俺、君に一目惚れしたんだ』とかかな⁉


『由衣~☆ さっきさー、イカ何とかって人がイケメン紹介してくれてさ~♪ お礼に由衣のメアド教えちゃったんだけどいいよね? それくらいいいよね? やったじゃん! イカ何とかって人めちゃカッコいいよ! がんばって!』


 貴様ぁぁ! 何てことしてくれたのよ! いいわけないでしょぉぉ⁉

 それになんだあのイカ野郎は! ただのストーカーじゃない!

 イケメンだもんニャ♪ とか思った私の純情を返せ!

 よし。明日の放課後ね。いっぱい文句言ってやる!


== シェイク!! (アイキャッチ:サキバージョン) ====


 部室のドアをガラガラと開けると、中には上半身裸の男が二人立っていた。

 勿論、剣先イカロスと猪俣サキである。

 きゃっ! と顔を手で覆い一応恥ずかしがってはみたものの、すぐさま指を開く。●REC 開始。女子だってその、なんだ。後々色々とあるしね。

 イカロスはワイシャツに腕を通しながら微笑んだ。


「ああ、由衣。今ちょうどシェイキングナウが終わったところだ」 


 うほぁぁ! 来ましたよ! 名前呼び捨て! 由衣って!

 ん? シェイキングナウ? どうでもいいわそんな事!

 いや、シェイキングナウって何よ? 二人裸で、部室で何やってたのよ……。

 サキが金髪頭を掻きながら、恥ずかしそうに言った。


「んーあぁ、ったく。何を勘違いしてるのか知らねーけど、俺達、別に如何いかがわしいことをしてたわけじゃないぜ? シェイキングナウってのはな、体と体を密着させて相手の様子をうかがうことなんだよ。何勘違いしてんだよ。これだから女は……」


 めっっちゃ如何わしいんですけどっ!

 女子にとってそれは、ただのエロなんですけどっ!

 胸がはだけた状態のまま、イカロスは私に近づく。


「あ、そうだ由衣。俺達、今度のステージで新曲を披露しようと思っているんだ。で、サキが作った新曲の歌詞、君に評価してほしいんだよ……女子の目線で……さ」


 近い近い近い近い! イカロス近い! 今自分の頬が滅茶苦茶熱い!

 なに私、今日彼に説教しようと思ってここに来たんじゃないの?

 あーでもこういうのもいいかも。アリかも。許せちゃうかも。

 その時、物凄い音が部室に響き渡った。サキがロッカーを殴った音だ。


「由衣てめえふざけんなよ? 今チェイスしただろ……ステージ上でもないのに。今チェイスしたよなぁ!」


 チェ、チェイス? 追跡? 目で追った、ということなのかな。

 私そんなことしてないけど。ていうか目のやり場に困っていたというか。


「いい気になるなよ? シェイクに必要なフェニックスの素質があるからってよ……」

「よせよサキ。彼女もわざと足を組んだわけじゃない。まだその力を制御できてないだけなんだから。な? 由衣?」


 あ、足⁉ 目で追ったとかじゃなくて⁉ 足⁉ しかも組んでないし!

 何を見てそう思ったの⁉


== シェイク……(アイキャッチ:イカロスバージョン) ====


 とりあえず、私はサキに渡された紙を読んでみた。


「あぁ……俺、駄目だこういうの。自分の歌詞を目の前で読まれるなんて……」


 さっきもそうだったけど、照れたサキって何だか可愛い。

 ふふっ、それじゃあ読んであげちゃおうかな~。


/*

『森のジャイブ』

 黒猫、リスさんこんにちわ~♪ 鉛筆、たくさんくださいなっ♪ 

「からかってるのか? リスの分際で黒猫の俺様に拳銃チャカなんざ突きつけやがって。客なら金は持ってきてるんだろうな? あぁん⁉」

「強盗が金を持ってくるわけねえだろ? さっさとこのほほ袋に鉛筆入れな」

/*


 何……これ?


「だぁー! 間違った! それは幼稚園ライブのやつだ! こっちだ、ほら!」

「ふっ……まったく。サキはそそっかしい奴だな」 


 幼稚園ライブとか、そそっかしいのはいいけどね。

 その歌のセリフは、情操教育にはよくないんじゃないかな。

 とりあえず、再び渡されたものを読んでみよう。

 女子の意見が欲しいといわれちゃね。


/*

『神<マジ、エンジェル>』

 ワンツースリーフォーGO!!  マジ、エンジェル!


(スットンストントトンストントト)

(スットンストントトンストントト)

 ※ここ、由衣のコーラス。


 愛が無ければ買えばいい 夢を叶えたきゃ来世に期・待!

 メールリストのメール見て あの子 からの メールは んん~ 未読スルー!

 コロン代わりの錆止めスプレー 俺はこれから 台風の目へ

 許しがたき粗大ごみ野郎 あいつの馬面に 俺の拳を叩きつけてやる


(岩塩岩塩! 黒猫岩塩! ク・チ・ビ・ル! アンドシェイク!)

 ※ここ、由衣のコーラス。お客さんを煽るように。 


 1,2,3,4,5!  マジ、エンジェル!  (ボーン!)

 ※ここで全員シェイク。


 愛が無ければ磁石でドーン 夢を叶え――

/*


 コミックバンド……なの?

 いやもう、2番とかいい。まずタイトルからして神なのかエンジェルなのか。

 神がエンジェルってことなのかな。ややこしいわ。

 一応偏差値高い高校の生徒なんだから、間違ってはいないと思うけど。

 愛が無ければ買えばいいっていうのも、問題あり過ぎでしょ。

 それに前の曲もそうだけど、岩塩黒猫唇って親の仇のように入れてるけど、誰かに喧嘩でも売ってるのかな。相手がどこかの編集部ギルドだったら、存在消されるよ。


「サキ、ここ。やっぱり間違ってると思う」


 でしょ? イカロスもそう思うでしょ? まずタイトルでしょ。


「だよな。"ドーン"じゃなくて"グーン"だよな、やっぱり磁石的に? あと馬面を猫……」


 あ、そこ? そこなのね?  じゃあもう、あなた達の好きにして。

 私はそっとその場から離れ、ドアへと向かった。


「あ! 逃げるのか由衣! まだ君の意見を聞いてないのだが⁉」

「ちっ! 俺の最高傑作に尻込みしたか? とにかく、逃がさねえぜ⁉」


 ひぃぃぃ! なんなのこの人達!

 私は廊下を駆ける。ハゲてる先生の注意も聞かずに。

 駅までダッシュだ。



 === ……はいはい。シェイクシェイクぅ(アイキャッチ:由衣バージョン)===

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