ピロリンピコ、ボーンボーン、ピロリンピコ、ボーンボーン。ボニョ~ン♪
あ、中学時代の友達からメールが来た。
『由衣~☆ 高校生活、エンジョイ天狗してる⁉ そっちはイケメンばっかりの高校だからさー、彼氏とかもう出来――』
はい既読スルー。
私はベッドに仰向けになり、部屋の天井を見つめた。
彼氏作ってる場合じゃないのよ。いかにしてあのシェイク部の連中から逃れる事が出来るのか、毎日そればかりを考えている。
ていうか何で私? 私に気があるとかならわかるけど、あの二人マジモンのBLキャラじゃないの。黙っていれば目の保養にはなるけど、休み時間やお昼休み、放課後駅まで付いてきたり。だけど駅構内までは来ないのよね。
――ダメだサキ! この駅は俺達のテリトリーじゃない!
――ちっ! 毎日放課後になると安全な場所に逃げ込みやがって!
――しかし、この駅に入って一体何をするつもりなんだ……サキ、解るか?
――さすがの俺でもわかんねぇな。ったく……不思議な女だぜ、由衣は。
普通に電車に乗って帰ってるだけなんだけど。
何を勘違いしたらそうなるのかな。君らは徒歩で通学してるのかな?
まあいいや。
はぁ……もう半分ぐらい学校行きたくない気持ちになってるけど。
ピロリンピコ、ボーンボーン、ピロリンピコ、ボーンボーン。ボニョ~ン♪
あ、またあの子からメールかな。返事しないとうるさいからなぁあの子。
『野上 由衣。放課後、部室にて待つ。緊急部会だ。 イカロス 剣先』
だぁぁ! どうして私のメアド知ってんのよ!
ていうか、なに苗字と名前逆にしてんのよ!
プロレスラーかっ! プロレスラーの果たし状かコレ⁉
……でもまあ、よく考えたら私なんかを何日も追い駆けてくれるんだもん。
何か私に感じる魅力? みたいなのがあるのかもしれないし。
何だか意味解らない事ばっかり喋ってるけど……イケメンだもんニャ♪
ピロリンピコ、ボーンボーン、ピロリンピコ、ボーンボーン。ボニョ~ン♪
あれれ? またメール?
『言い忘れてた。あの時俺、君に一目惚れしたんだ』とかかな⁉
『由衣~☆ さっきさー、イカ何とかって人がイケメン紹介してくれてさ~♪ お礼に由衣のメアド教えちゃったんだけどいいよね? それくらいいいよね? やったじゃん! イカ何とかって人めちゃカッコいいよ! がんばって!』
貴様ぁぁ! 何てことしてくれたのよ! いいわけないでしょぉぉ⁉
それになんだあのイカ野郎は! ただのストーカーじゃない!
イケメンだもんニャ♪ とか思った私の純情を返せ!
よし。明日の放課後ね。いっぱい文句言ってやる!
== シェイク!! (アイキャッチ:サキバージョン) ====
部室のドアをガラガラと開けると、中には上半身裸の男が二人立っていた。
勿論、剣先イカロスと猪俣サキである。
きゃっ! と顔を手で覆い一応恥ずかしがってはみたものの、すぐさま指を開く。●REC 開始。女子だってその、なんだ。後々色々とあるしね。
イカロスはワイシャツに腕を通しながら微笑んだ。
「ああ、由衣。今ちょうどシェイキングナウが終わったところだ」
うほぁぁ! 来ましたよ! 名前呼び捨て! 由衣って!
ん? シェイキングナウ? どうでもいいわそんな事!
いや、シェイキングナウって何よ? 二人裸で、部室で何やってたのよ……。
サキが金髪頭を掻きながら、恥ずかしそうに言った。
「んーあぁ、ったく。何を勘違いしてるのか知らねーけど、俺達、別に
めっっちゃ如何わしいんですけどっ!
女子にとってそれは、ただのエロなんですけどっ!
胸が
「あ、そうだ由衣。俺達、今度のステージで新曲を披露しようと思っているんだ。で、サキが作った新曲の歌詞、君に評価してほしいんだよ……女子の目線で……さ」
近い近い近い近い! イカロス近い! 今自分の頬が滅茶苦茶熱い!
なに私、今日彼に説教しようと思ってここに来たんじゃないの?
あーでもこういうのもいいかも。アリかも。許せちゃうかも。
その時、物凄い音が部室に響き渡った。サキがロッカーを殴った音だ。
「由衣てめえふざけんなよ? 今チェイスしただろ……ステージ上でもないのに。今チェイスしたよなぁ!」
チェ、チェイス? 追跡? 目で追った、ということなのかな。
私そんなことしてないけど。ていうか目のやり場に困っていたというか。
「いい気になるなよ? シェイクに必要なフェニックスの素質があるからってよ……」
「よせよサキ。彼女もわざと足を組んだわけじゃない。まだその力を制御できてないだけなんだから。な? 由衣?」
あ、足⁉ 目で追ったとかじゃなくて⁉ 足⁉ しかも組んでないし!
何を見てそう思ったの⁉
== シェイク……(アイキャッチ:イカロスバージョン) ====
とりあえず、私はサキに渡された紙を読んでみた。
「あぁ……俺、駄目だこういうの。自分の歌詞を目の前で読まれるなんて……」
さっきもそうだったけど、照れたサキって何だか可愛い。
ふふっ、それじゃあ読んであげちゃおうかな~。
/*
『森のジャイブ』
黒猫、リスさんこんにちわ~♪ 鉛筆、たくさんくださいなっ♪
「からかってるのか? リスの分際で黒猫の俺様に
「強盗が金を持ってくるわけねえだろ? さっさとこの
/*
何……これ?
「だぁー! 間違った! それは幼稚園ライブのやつだ! こっちだ、ほら!」
「ふっ……まったく。サキはそそっかしい奴だな」
幼稚園ライブとか、そそっかしいのはいいけどね。
その歌のセリフは、情操教育にはよくないんじゃないかな。
とりあえず、再び渡されたものを読んでみよう。
女子の意見が欲しいといわれちゃね。
/*
『神<マジ、エンジェル>』
(スットンストントトンストントト)
(スットンストントトンストントト)
※ここ、由衣のコーラス。
愛が無ければ買えばいい 夢を叶えたきゃ来世に期・待!
メールリストのメール見て あの子 からの メールは んん~ 未読スルー!
コロン代わりの錆止めスプレー 俺はこれから 台風の目へ
許しがたき粗大ごみ野郎 あいつの馬面に 俺の拳を叩きつけてやる
(岩塩岩塩! 黒猫岩塩! ク・チ・ビ・ル! アンドシェイク!)
※ここ、由衣のコーラス。お客さんを煽るように。
1,2,3,4,5! マジ、エンジェル! (ボーン!)
※ここで全員シェイク。
愛が無ければ磁石でドーン 夢を叶え――
/*
コミックバンド……なの?
いやもう、2番とかいい。まずタイトルからして神なのかエンジェルなのか。
神がエンジェルってことなのかな。ややこしいわ。
一応偏差値高い高校の生徒なんだから、間違ってはいないと思うけど。
愛が無ければ買えばいいっていうのも、問題あり過ぎでしょ。
それに前の曲もそうだけど、岩塩黒猫唇って親の仇のように入れてるけど、誰かに喧嘩でも売ってるのかな。相手がどこかの
「サキ、ここ。やっぱり間違ってると思う」
でしょ? イカロスもそう思うでしょ? まずタイトルでしょ。
「だよな。"ドーン"じゃなくて"グーン"だよな、やっぱり磁石的に? あと馬面を猫……」
あ、そこ? そこなのね? じゃあもう、あなた達の好きにして。
私はそっとその場から離れ、ドアへと向かった。
「あ! 逃げるのか由衣! まだ君の意見を聞いてないのだが⁉」
「ちっ! 俺の最高傑作に尻込みしたか? とにかく、逃がさねえぜ⁉」
ひぃぃぃ! なんなのこの人達!
私は廊下を駆ける。ハゲてる先生の注意も聞かずに。
駅までダッシュだ。
=== ……はいはい。シェイクシェイクぅ(アイキャッチ:由衣バージョン)===