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第二十三話 上司の心労

「頼むミラベル!同期の私からの頼みだ!私の英雄が送られてきた時だけでいい!君が『アース』を管理してくれないか!」

「必死ね」

「新神に任せるとろくな事にならないのは身に染みて分かっているんだ。それは君も一緒だろう?」

「そうね」


 ロロを見ていると否定は出来ないのよね。クロノスの言い方だと彼もまた部下がついてから苦労しているようね。


「クロノスの気持ちは分かるのだけど、一度預けた世界だからこの子に任せてあげたいのよね。一応見習いは卒業しているから⋯最低限はできるわ」

「そうッスよ!ウチもこう見えて一人前なんすよ!」

「教育係がついているのにかい?」

「うぐっ!」


 痛いところを突かれたわね。事実だから反論のしようがないのだけど。ロロがいる場で口にするのは気が引けるから私は言わないけど、見習いを卒業した神に教育係が付くのは初めてなのよね。前代未聞よ。

 見習いを卒業する前にはきちんと筆記と実技の試験があって、ロロはちゃんと合格して見習いを卒業した筈なのに、神として世界を管理する上で必要な知識が抜けていた。

 どういう事かと問い正せば『一夜漬けは得意ッス』とかいうふざけた回答が返ってきて、直ぐに上司せんぱいにお願いしたわね。


 教育係から報告は受けているのだけど、ロロは決して愚かではないのよ。本当にダメだったら私も部下として手元に置いていないわ。まだ教えればどうにかなるって判断したから長い目で見ているの。愚かではないから最低限の仕事はちゃんとこなせているしね。問題なのは先の事を考えないこと。


 それとロロは自分が興味がある事と、ない事で覚えるスピードが違うって報告が上がっていたわね。魂の管理とか善行、悪行の判断の仕方なんかを丁寧に教えても右から左に聞き流されている感じがするって教育係の子が怒っていたわ。

 逆に世界の管理であったり、新しく世界を創る際に必要な事なんかを教育係が教えていた際は、ロロの方から質問したりかなり熱心に聞いていたみたいね。書類仕事があまり好きじゃないんでしょうね。私の元に配属させてからもずっとやってた仕事だし、飽きたとか? ロロならありえそうなのよね。


「クロノスが育てている英雄がくるのはまだ先でしょ?それまでにはロロの教育も完了するから大丈夫よ」

「本当かい?」

「補佐として天使もついているし、⋯ロロには内緒だけど監視もつけてあるわ」

「それなら安心だ」


 ロロには聞こえないようにクロノスに近付いて小さな声で伝えると納得したように頷いた。前回のようにコレやったら楽しいかも!で世界を滅ぼされたら困るから念には念という事で、ロロの作業スペースにモドキを一体創造しておいたの。

 見た目はロロが好きなぬいぐるみと同じなんだけど、ライアーと同じように思考回路を繋げてあるからロロが可笑しな行動をしたら直ぐに私に連絡がくるようになっている。

 補佐に付いている天使の子たちにも何かあったら直ぐに連絡してとは言っているけど、ロロは周りの目を盗んでやるからタチが悪いのよ。二度目がないように保険はかけたわ。


「この子も問題起こした後だからあまり擁護は出来ないのだけど、貴方の部下も大概じゃない?」

「⋯⋯そうだね」

「ロロと違って仕事は出来たみたいだから評価は高かったのね。ジジイから世界を創る許可を貰えたようだけど、あと少しで規則を破るところだったんでしょ?」

「ウチが仕事できないみたいに言わないで欲しいッス!」

「自分の行いを振り返りなさい。ちゃんと出来ているかしら?」

「できて⋯⋯⋯⋯ないっスね」

「ちゃんと自覚出来たなら偉いわ」


 ロロの頭をよしよしと撫でてやると嬉しそうに頬を緩めている。仕事は出来ないけど、愛嬌が良いからつい許しちゃってるのよね。仕事はゆっくりでもいいから覚えてちょうだい。

 クロノスの方を見ると苦虫を噛み潰したような顔をしている。自分の部下のやらかしを思い出したのかしら? 危なかったわよね貴方も。


「良かったわね、貴方の部下が世界を創る前に気付けて」

「そうだね、本当に助かったよ。君の言葉がなかったら止めるのが間に合わなかった」

「なら、私の部下のロロに感謝しなさい。この子が貴方の部下の相談に乗っていたから、私も貴方に忠告が出来たの」

「⋯⋯そうか、ならお礼を言わないといけないね。先の無礼な発言も一緒に謝ろう。すまなかった。それと、君のお陰でカーミラを止める事が出来たありがとう」

「へへへ!ウチも役に立って良かったッス!それでカーミラちゃんは何がダメだったんすか?」


 クロノスと顔を見合わせて二人揃って笑ってしまった。肝心なこの子が自分が何をしたか分かっていないのね。まぁ、それでいいわ。


「クロノスの部下、カーミラは『創造』の資格しか持っていないのに世界を創ろうとしたのよ」

「あっ!そういう事ッスか! カーミラちゃんが言ってたッスね。『創造』しか持ってないけど創っちゃダメかなって」


 ロロは解答に困って私に聞きに来たのよね。もちろん答えたわよ、創っちゃダメって。一応、『創造』の資格さえあれば世界を創る事は出来るのだけど、『破壊』の資格がないと世界を壊したり作り替えたりが出来ないのよね。万が一の時に対処が出来ないという事で二つの資格を持つ事が必須になっている。


「世界を創るのには『創造』と『破壊』の二つの資格が必要になるんだ。どちらも神の権限として使う際に大量の『マナ』を消費する。

使い方一つ間違えると他の世界にも影響が出るから、知識と技術を身に付ける為に資格の獲得が義務付けられている」

「うんうん!ウチも教育係の人にそう教わったッス!」


 クロノスの説明に頷いているけど、教育係に教わる以前に貴女も試験を受けたでしょ? もう忘れたの? 呆れて言葉が出ないわ⋯はぁ。


 ロロが見習いの内に将来を見据えて『創造』と『破壊』の二つの資格は取らせたわ。片手では数え切れないくらい試験には落ちたけど、新神として扱われる前にはどうにか取得できた。

 この資格を持っていないと出来る仕事が限られてくるから、上司は必ずに部下に取らせるのよ。


 クロノスの方も部下であるカーミラに二つの資格を取らせた⋯つもりだった。困った事に彼の部下は『創造』の資格しか取得していなかったの。それだけなら良かったのだけど、『破壊』の資格も取得したって虚偽報告をしちゃったのよね。

 タイミングが悪くて忙しい時期だったからクロノスも虚偽報告を見抜くことが出来ず、部下が二つの資格を持っていると勘違いした。その結果起きた悲劇と言えるかしら?仕事が出来る子だから信じちゃったのもあるかもね。


 最高神のジジイに世界を創る事を許可され、クロノスは資格を持っていると思うからGOサインを出した。けど、実際には資格を持っていないから不安になったカーミラがロロに相談。それで私が気付いてクロノスに忠告し、カーミラが世界を創る前に止める事が出来たわけね。

 ロロが聞いて来なかったら『創造』しか資格を持ってない状態で創っていた可能性が高いわね。その場合は創った世界は没収されるし、規則違反で降格と罰則が与えられるわ。それはカーミラだけじゃなくて上司であるクロノスにも。

 嫌な言葉だけど、連帯責任ってやつね。部下のミスは上司のミス⋯こればかりは仕方ないわ。


 余談ではあるのだけど、カーミラが虚偽報告したのはロロが資格を持っているのに自分が持っていない事が恥ずかしいと思ったかららしいわ。それで規則を破られたら困るわよ。本当に。


「原則として二つの資格を持っていないと新しく世界を創る事は許されていない。資格を持っていない状態で世界を創れば⋯規則を破ったとして罰則が与えられる。そうなる前に止める事が出来たのは君のお陰だよ、ありがとう」

「へへへ!ウチはカーミラちゃんの相談に乗っただけッスけどね!」


 感謝されて喜んでいるけど、ロロは多分事の重大さを分かっていないのよね。これに関しては彼女が一人前になって部下を持つ立場になれば分かるわ。


「クロノス」

「なんだい?」

「貴方が心配している事にはならないように私も気に掛けておくから安心しなさい。この子も世界を維持するくらいはしっかりこなせるわ」

「ウチに任せて欲しいッス!」

「分かった。任せるよ」


 まだ心配そうではあるわね。胸を張っているロロを見た後、頼んだよと言うように視線が送られてきたから頷いて応えておく。


「それで用件はそれだけかしら?」

「いや、もう一つある」


 クロノスがロロをチラッと見た。こっちの用件はロロには聞かせる事が出来ないって訳ね。クロノスの意図を汲んでロロを退室させた。

 『ウチは仲間外れッスか!』って抗議してきたけど、補佐につけている天使がロロに用事があるって言っていたから向かいなさいって追い出したわ。天使から話を聞いた感じだと急ぎではないみたいだけど、丁度いいから理由として使わせて貰ったわ。


 慌ただしく出ていったロロの後ろ姿を見て二人揃ってため息を吐いた。


「君も苦労しているようだね」

「貴方もね」


 ロロが開けっ放しで出ていった扉を閉めながら、こちらを気遣うようにクロノスが笑う。お互いに部下で苦労しているわね。


「昔に比べると天使や神の質が落ちているね」

「ジジイが衰えてきている証拠よ。昔みたいに力が使えていないみたいよ」

「困った話だね⋯、最高神さま以外に同胞を生み出せる者はいないと言うのに」


 最高神のジジイ以外に神や天使を生み出せる存在はいない。神としての位の高いオーディンやルー、デウスマキナですら創る事は出来ないわ。

 今の状態で最高神のジジイが死ねばこれ以上天使や神が増える事はない。私たちも完璧な生命ではないから、必ず終わりは訪れる。ジジイが死んだ後はこの神社会も緩やかに終わりへと向かっていくでしょうね。


 だからこそ『聖女』という存在に神は関心を示している。魂が育ちきった聖女は天使へと至ると言われているけど、一体どれだけの実例があるかしら? 一人心当たりはあるのだけど。


「ミラベル、君に伝言を頼まれたんだ」

「伝言?誰からよ」

「最高神さまだ」


 クロノスの口から出た名前の時点で嫌な予感しかしない。出来るなら聞きたくないわね。無視してもいいけど、ジジイが相手だと後が面倒ね。


「で、ジジイはなんて?」

「話があるから『アケトの間』に来て欲しいとの事だよ」

「そう⋯」


 話の内容は予想がつくから別にいいのだけど、最高神のジジイともなると諦めも悪いのかしら?前に断ったのだけどしつこいわね。







 ───面倒だからなる気はないのよね、ジジイの後継者なんて。

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