ブツブツと危ない雰囲気で言葉を紡ぐベルモットを見ていると背筋に寒気がしたので、視点を切り替える事にしたわ。
今は何を言っても無駄な気がするの。火に油を注ぐような、余計な事をしてしまいそうだから一旦放置ね。後でフォローはしておくから、ケイトに上手くやって貰いましょう。
───これで世界の情勢はあらかた掌握出来たわ。世界が変わってから既に数ヶ月が経過したけど、全体で見るならまだ混乱は治まっていないわね。
けど、心配する必要はないわ。
「さて、どうしようかしら?」
ケイトは今から数日、あるいは数十日は移動に時間を取られるわ。黙々と歩いているorたわいもない会話しながら歩いている光景は見ていても多分、面白くないのよね。
流石に移動中はライアーも稽古をつけないと思うし、シスが操作しているからモンスターとの戦闘があっても大きな
アレクセイやソフィアとの関係性が少し変化はするでしょうけど、それは後から追っても分かる事だし、神聖女神教の大聖堂に着くまでは放置でいいかしら?
そうね、そうしましょう。しばらくフラスコに集中していたせいで仕事がまた溜まってきている事だし、まずはそちらを先に処理しましょう。
大聖堂に着いてから起こすイベントは既に決まっているし、役の配置は
ケイトが大聖堂に着いてからでもイベントの準備は間に合う。そういう事だから私はしばらく仕事に集中するわよ、ケイト。夢の中にも出て来れないけど、鍛錬はサボっちゃダメよ。
しっかりと言いつけを残してからフラスコの管理モードを終了し、目の前の書類の山と向き合う。本当にため息を吐きたくなる光景ね。
ほんの少しの間、手を付けないだけでこんなに溜まるものだったかしら?
「うーん、⋯⋯これは嫌がらせされているわね」
巧妙に似せて造られているけど、書類の中に嫌がらせ目的の偽造書類が混ざっている事に気付いた。タチが悪いわね。これを本来の書類と同じように処理しても、偽造の為に作られたデタラメな書類だから何も反応しないわ。
私が管理する世界へと、送られる定命の者について記された書類に一見は見えるけど、しっかりと上から下へ読み込めば適当にでっち上げられた存在しない魂の情報だという事が分かる。つまりゴミよ。
廃棄するしかないゴミなんだけど、一目見るだけでは偽造か正規の書類かが判別できない。魂の振り分け関する書類の偽造ですって?⋯⋯れっきとした違反行為よこれ。
ジジイの頼みとはいえ、表立って動き過ぎたかしら? どこの神とは言わないけど恨みを買ったわね、この感じだと。
クロノスに念話で確認をしてみれば私と同じような状況になっていた。つまりロキとオーディンの問題を解決した私たちを目障りに思う神物って事ね。
オーディンを裏切った後、ロキはどこに所属していたかしら? 記憶を遡りなさい。
思い出したわ。───デウスマキナね!
前の定例会にもロキは参加していたわ。オーディンのスパイかとあの時は思っていたわね。
でも、デウスマキナが私たちに報復としてこんな小細工をするかしら? あるいは彼の部下の独断? ないとは言わないけどそこまで愚かではない⋯⋯と、信じたいわね。
可能性があるとしたら⋯⋯シヴァ当たりかしら? オーディンの事を嫌っていたから、あのままロキとオーディンの兄弟が争い合うことを望んでいた可能性が高い。あくまでも推測だけどね。
この紛れ込まれた偽造の書類で犯人が特定出来たら最高なんだけど、そこら辺の対策はしっかりしているわね。神の権限を使ってまで跡を消している。
何処から私の元へ届けられたかも分からない。正規か偽造か一枚一枚確認して、処理していかないといけないの? めんどくさいわね。
「ふぅ⋯⋯」
決めたわ。必ずこの嫌がらせをした犯人は特定する。仕事の邪魔をした報いは必ず受けさせるわ!覚えておきなさい!
───数日後。
「それで俺の実力が見たいってなんでだ?」
「深い意味はない。君が勇者の伴に相応しいか、確かめたいだけだ」
山積みだった書類がある程度片付き、先が見えてきたので息抜きにフラスコを覗いてみる事にしたの。
思考を共有しているライアーから、ケイトと彼の出身国の第一王子であるノートン・ローデンブルクが手合わせをしそうって報告があったのが一番の理由かしら?
移動だけかと思っていたら面白そうなイベントが起きてるじゃない!どういう経緯で二人が出会ったかは知らないけど、楽しそうだから良し!
「いや、俺は
「そうなのか? だが、勇者は君の事を伴だと語っていたが」
「アイツの中で俺の存在はどうなってんだ!」
納得がいかないとケイトが吠えている姿に思わず吹き出してしまう。私が知らない内にアレクセイの好感度を稼いでいたのかしら?
ケイトの心を読んでみてもそれらしいイベントは起きていないわね。道中でのやり取り?当たり障りのない会話のようだけど?
ライアーに確認してみると、ケイトの料理にアレクセイがご満悦だったという情報が手に入った。え?それが理由? 流石に違うわよね。
この場にアレクセイがいたら心を読んで確認するのだけど、タイミングが悪い事に別行動中みたい。ライアーとソフィアの二人はアレクセイに付いて行ってるのかしら?
この場にはノートンとその部下、完全アウェーな場にケイトがいるだけね。場所は兵士の修練所だと思うわ。居心地悪そうにしているケイトが印象的ね。
気になるから事の経緯を確認しましょう。ノートンとケイトの二人の心を読むとある程度何が起きたか把握出来たわ。不明な点はライアーから補足を貰った。
聖女の護衛としてケイトたちは村を旅立ったのは二人の手合わせの翌日ね。アレクセイ、ソフィア、ケイト、ライアーの四人で村を出てそのまま神聖女神教の大聖堂がある『ノースグロア』に向かうかと思ったけど、途中で『ローデンブルク』の王都に立ち寄ったみたい。
アレクセイがローデンブルクの王様と約束を交わしていたようね。 裏がある話ではないわ。聖女と呼ばれる人物が自国にいる事にローデンブルクの王様が興味が湧いたみたい。大聖堂に案内する前に一度会ってみたいと、王様からアレクセイに頼んだようで、それをアレクセイが承諾したがそもそものきっかけね。
アレクセイと共に謁見の場に行ったケイトはそれはもう緊張していたみたいよ。子鹿のように震えていたとライアーが笑いながら報告してくれた。
ノートンがケイトに興味を持ったのはアレクセイが、聖女を紹介した際にケイトの事の『友』だと紹介したからね。
うん。ノートンとケイトの二人の間で微妙なすれ違いが起きているわ。
ケイトとアレクセイの二人の認識はともだち、あるいは仲間を意味する『友』。
ノートンの認識は付き従う者、つまり勇者の従者を指す『伴』。
ノートンはアレクセイの紹介でケイトの事を友達ではなく、勇者アレクセイの従者に選ばれた存在だと勘違いしたみたい。
コレに関しては立場の違い、言ってしまえば価値観の違いによるものね。ノートンは従者がいるのが当たり前だから⋯⋯え? あ、そういう事?
ノートンの心を読んだ事で一つ悲しい事実を知ってしまったわ。
ローデンブルクの第一王子、自国の国民からは女神よりも支持を受ける人格者。その魂の輝きは英雄にも届き得る───英雄候補の一人。
───ノートン・ローデンブルクには友達がいない。
心を許せる間柄は家族と師匠である騎士団長くらいね。自身が率いる部下たちに信頼は向けているけど、気安い関係ではないわ。あくまでも王子とそれに従う騎士の関係性でしかない。
第一王子であるノートンに近付いてくるのはその権力に引き寄せられた者も多い、そのせいで警戒心が強いのも友達がいない原因かしら?
だからこそ、私が知ってしまった悲しい事実が際立つ。
───ノートン・ローデンブルクは友達を欲している。
第一王子としてではなく、ただのノートンとして接してくれる友達という存在を心の底から求めている。けど、どうやって作ったらいいのか、見つけたらいいのか分からずにいる。
現状、ノートンが考える友達の最有力候補は勇者アレクセイ。神に選ばれた特別な存在故に、これまで出会った貴族たちのように媚びへつらう姿勢は見受けなかった。
王族の恩恵を受けようと近寄ってくる者たちとは違うと、ノートンは確信を得ていたようね。
だからこそ勇者アレクセイの『伴』であるケイトに興味を持った。
「貴方は認めないと思うけど、その興味へと至った理由は嫉妬よノートン」
友達になりたい男と親しい関係にある───ようにノートンには見えた───ケイトに嫉妬したノートンは謁見の後に、アレクセイと共にその場を後にしようとしていたケイトに声をかけた。
───勇者アレクセイの『伴』である君の実力が見てみたいと。
で、ノートンとケイトが手合わせする事になったのね。
アレクセイやソフィアは手合わせを止めたようだけど、師匠であるライアーが面白そうという理由でケイトに手合わせを進めたわ。ナイスよライアー。
ローデンブルク───いえ、大陸でも有数の実力者と手合わせする事に価値はあるわ。
ケイトの実力はまだ英雄には届かない。
けど、英雄候補には届き得るかも知れない。
「いい経験になると思うわ。それにケイトにとっても、ノートンにとっても得難いものを手に入れる機会でもある」
───これは神のお節介。
手合わせに加えてもう一つイベントを起こしましょう。ノートンとケイト、二人が『友』に至るきっかけのイベントを!