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第三十三話 作られた友情

 ───手合わせを始めたケイトとノートンの二人の様子を視界に入れながら、管理モードで操作を行う。

 今から起こすイベントに必要なモンスターが確か近くにいた筈よね? 記憶を頼りに検索を行うと、記憶通りの場所に三体のモンスターの姿を確認出来た。流石は私ね!よく覚えていたわ。

 そのままモンスターを操作してケイトたちがいる王都へと向かわせる。


「くっ───」

「勇者の伴に選ばられた君の実力はその程度のモノか?」

「まだだ!俺はもう負ける訳にはいかない!」


 兵士が観客として見守る中、行われる二人の手合わせはノートンが優勢で進んでいる。ケイトの実力も私とライアーの鍛錬で伸びてはいるけど、幼い頃から研鑽を積んできたノートンの方に分があるわね。

 それでもアレクセイの時ほど絶望的な差では無い。身体能力、技術、両方ともケイトはノートンに劣っている。けど、その差は能力やケイトの機転で覆せるレベル。


 集中しなさいケイト。このレベルの戦いになると重要なのは一瞬の隙も見逃さない観察眼。私とライアーは徹底的に『観る』力を鍛えた。

 だからこそ力の差があるバリスとアレクセイの二人が相手でも、ケイトは攻撃を躱し可能性を見せてくれた。


「おらぁ!」

「───くっ!」


 ノートンの猛攻を耐えて耐えて耐えて、ひたすら耐えて躱して、僅かに出来た隙を狙ってケイトが攻勢に出た。今まであえて使わずに溜めておいた『時を止める能力』を活用して、ノートンが対応出来ない一撃を入れた!!

 剣をフェイントにして左の膝!良い一撃よ!


「いいわよ、ケイト!!」


 観客の兵士たちが『王子!』と叫んでいる。皆心配そうにしているけど、今の一撃でやられるような定命の者は英雄候補には選ばられないわ。

 ダメージは入っているけどノートンはまだ動けそうね。さて、ここからが重要よケイト。一撃を受けた事でノートンも貴方の事を警戒して動くわ。

 今のような隙はもう生まれないと思いなさい。だから、次は隙を待つのではなく作りにいくのよ!貴方なら出来るわケイト!


「強いな君は!」

「お前こそ!」


 二人の手合わせは手に汗握る戦いだわ。最初はノートンの優勢だったけど、ケイトがノートンの動きに慣れてきたのもあって互角の戦いになっている!

 やはり観察眼を鍛えたのが良かったわね。戦いが長引けば長引くほど、ノートンの動きを覚え、次の動きを予測する事で回避の性能が上がる。

 攻撃を避け続ける。それだけでも相手にとっては良いプレッシャーよ!


 このままやればケイトが勝てるかも知れないわね。でも、ごめんなさい。このままどちらか片方が勝っても二人の関係は進展しない。

 ほんの少しだけ相手を認める、それだけで終わる。それじゃあ面白くないの。

 だから、今から貴方たち二人の絆を深めるイベントを起こすわ。


 これはイベントであると同時にケイト、貴方に課す二つ目の試練!しっかり乗り越えてみせなさい!


『シス!聞こえる!』

『主様!我をお呼びでございますか!』


 今から行うイベントの為に視点を切り替える。シスに声をかけると直ぐに反応した。視界に映る子犬サイズのシスが、ビシッと畏まる姿に笑いそうになる。


 ───女神と共に封印された、という体になっているシスは現在大陸の最北部のとある山の洞窟の中でモンスターをラジコンのように操作する生活を送っている。

 シスの元のサイズは300メートルを超えるわ。その巨体を隠すのは大変という事で以前と同じように、サイズを変えてあるの。

 世界を恐怖に陥れた大魔王がこんなに小さな姿で洞窟に潜んでいるとは思わないでしょうね!そもそも神モドキと一緒に封印されている事になってたっけ?まぁいいわ。


 隠れ潜んでいる洞窟に近寄らせない為の結界も張ってあるし、万が一結界を超えてもシスがモンスターを操作して追い払う手筈よ。

 最悪の場合はシスが移動すればいいだけの話。今の環境こそがシスがモンスターをラジコン専念出来る最適の環境!


 一応、シスの負担を減らす為に娯楽とかは準備してあるわよ。洞窟の中でひたすらモンスターをラジコンするのは神経がすり減るわ。ストレス軽減の為にお菓子や飲み物、シスが求めているモノは創って与えている。

 シスには大変な仕事を任せているから、それに見合う報酬は必要よね? 心を読めばシスも今の生活を楽しんでいる様子。


 私が声をかけるまでジュースを飲みながらダラダラとモンスターを動かして、人を襲っていたわ。しっかりと殺す相手、傷付けるだけの相手と見極めているから流石ね。

 そういう風に創ったのだけど、ここまで優秀だと私も鼻が高いわ。それはともかくとして、本題といきましょう!


『気付いていると思うけど、ワイバーンを三体ほど動かしているわ』

『承知しております』

『そのうち二体を、シスに操作して欲しいの』

『イベントで御座いますね!』

『そういう事よ』


 話が早くて助かるわ。私がシスに声をかけるイコール、イベントっていう認識になっているのね。それでいいと思うわ。

 基本的にシスの思うようにモンスターを操って貰っている。私は人の仕事を邪魔するのは嫌いだから、基本的に干渉はしないわ。けど、ケイトの試練やイベントの時なんからモンスターを使わないといけないからシスの強力が必要になる。

 その時はシスに協力をお願いするとあらかじめ伝えてある。だから直ぐに私の要件が分かった訳ね。


『貴方にやって欲しい事は勇者の足止めよ』

『足止めでございますか?』

『ええ。今から例の子に試練を与えるつもりなのだけど、その子がいる地には勇者がいるのよ。あの子レベルの実力になると並大抵のモンスターでは歯が立たないでしょ?』

『それこそ大地の王ベヒーモス海の王リヴァイアサンを動かさなければ不可能かと』

『シスもそういう認識なのね。しっかりと勇者の実力を計れていて安心したわ』

『身に余るお言葉です』


 ペコペコと子犬サイズのシスが頭を何度も下げている。この姿だと可愛いペットみたいね。頭を撫でてあげたくなるわ。


『勇者を倒すのなら大地の王ベヒーモス海の王リヴァイアサンクラスのモンスターが必要よ。けど、足止めだけならワイバーンで十分』

『僭越ながら進言申し上げます』

『何かしら?』

『ワイバーンでは勇者の足止めは不可能かと。他のモンスターを仕向けるべきと愚行致します』

『普通にやれば不可能よ。けど、貴方がでワイバーンを操作すれば可能でしょ?』


 ───シスの目の色が変わった。


 洞窟に閉じ籠ってラジコンだけしてたから、雰囲気が少し温くなっていたけど、ちゃんと切り替えは出来るのね。


でやっても構わないのですか?』

『構わないわ。それくらいやらないと勇者の足止めは出来ないわ。遠慮はいらないわ、殺す気でやりなさい』

『承知致しました!』


 目が輝いている。楽しそうね。自分の体で動く訳ではないけど、本気で戦える事が楽しいみたいね。

 今は定命の者のレベルに合わせているからどうしても手加減をする必要があるし、強いモンスターを動かす事は出来ない。シスからすればお遊戯に付き合っている感覚よ。

 だからこそ、久しぶりに本気になれる状況を楽しんでいる。操作するモンスターは所詮中級レベル。決して強いモンスターではない。シスが操作しなければアレクセイに簡単に倒されてしまうわ。

 貴方の腕の見せ所ね!期待してるわよ!


 アレクセイの心配? 必要ないわ。勇者として覚醒したあの子はとてつもないスピードで成長している。ほんの少し前まで英雄にも程遠い実力だったのに、既に英雄の領域を超えて世界最強の域に達しようとしているわ。

 本当に恐ろしい成長スピード。いえ、本来の彼の実力と言うべきかしら? 眠っていた力がゆっくりと目覚めていく感覚が近いわね。アレクセイに関しては安心して放置していられるわ。

 怖いのは勇者や英雄としてではなく、世界の敵として人間たちに排除される事。今の世界の情勢を考えればそれ無用の心配ね。


『あら、ワイバーンが目的地に着いたみたいね』


 腐っても竜種ね。スピードは十分。竜種の中でも特に速い個体を選んだから当然と言えば当然なのだけど⋯⋯。

 何はともあれケイトとノートンの二人の手合わせに決着が着く前で良かったわ。懸念材料だったアレクセイの足止めはシスに任せればいい。私は二人の相手に集中させて貰うわ。


『それじゃあ予定通り勇者の足止めは任せたわ。私は残りの一体で例の子に試練を与えるわ』

『はっ!必ずや主様のご期待に応えてみせましょう!』


 シスの操作で二体のワイバーンが王都を襲い始める。あら?私が言わなくても勇者の居場所を把握していたのね。シスが優秀なのは分かっていたけど、流石に予想外。嬉しい事だけどね。

 予定通りにシスが二体のワイバーンでアレクセイを釣ったわね。これでアレクセイによる邪魔は入らない。


「悲鳴?」

「この騒ぎはなんだ!」


 ワイバーンが王都を襲った事で悲鳴の飛び交う大混乱に陥っている。先程まで本気で手合わせしていた二人もその手を止めるレベルよ。

 状況を飲み込めていないケイトがオロオロしているけど、場数を踏んでいるノートンは直ぐに部下に命令を飛ばして動き出そうとしている。


「何が起きたんだ?」

「どうやらモンスターが王都を攻めてきたらしい。オレから申し出ておいて申し訳ないが、手合わせは中断だ」

「いや、それ所じゃないのは分かるって!手合わせはどうでもいいよ。モンスターの襲撃に合ってるんだろ?俺にも協力させてくれ!」

「本当にすまない。それと、ありがとう」

「お礼なんていいよ!一緒に王都を護ろう!」

「あぁ!共に闘おう!」


 いいわね。こういう友情、私も嫌いじゃないわ。

 国の一大事に二人の間にあった溝は綺麗に埋まった。ノートンの一方的な嫉妬でしかないのだけど。


 ふふ、それじゃあ二人で乗り越えてみせなさい!ケイトに───いえ、二人の英雄候補に課す試練!





 ───題して!『王都襲撃』


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