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第4話 グレート・モス? 究極完全体ですか?(いいえ、違います)

「「アルシエル・ウエストウッド……ッ!?」」

「おっ? オレ様の名前を憶えてくれてたの? 嬉ぴ~♪」




 ありがとね♪ と相変わらず軽薄な態度と口調でアップルパイを咀嚼する赤髪。


 気がつくと俺とアリアさんは「えっ? えっ?」と困惑した顔を浮かべるリリアナちゃんを抱きかかえて、アルシエルと距離を取っていた。


 敵意剥き出しでアルシエルを睨むアリアさん。


 そんな彼女の姿に肩を竦めながら、ほむほむとアップルパイを口に頬張るアルシエル。




「そんな警戒しなくても何もしないってばぁ~。今日は改めて挨拶と指折りの情報、そして警告をしに来ただけだってばよ♪」

「指折りの情報と……」

「警告?」




 俺とアリアさんはお互いにアルシエルの顔色から奴の真意を測ろうとするのだが……気持ち悪いくらい何も感じ取れない。


 長年探偵を続けて多くの人間を見てきたが。あんな完璧な作り物の笑顔は初めて見た。


 なんだ、アイツ?


 本当に同じ人間か?


 アルシエルの真意が分からず、アリアさんに『どうする?』とアイコンタクトを飛ばそうとした俺の視線よりも先に、ヘビ族の長は軽い調子で唇を震わせた。




「まず指折りの情報を1つ。そこの異世界のあんちゃんの失われたタマタマね、隣国のパリス・パーリ帝国にあったよ」

「……はっ? えっ、マジで!?」

「マジマジンガー♪ そこの皇帝代理をしている宰相のクロマーク・コモノスキーが後生大事に持ってたよん♪」

「皇帝代理……?」




 アリアさんの目尻がピクンッ! と跳ね上がる。


 そのままいぶかし気な瞳でアルシエルを睨みながら、




「ちょっと待ってください? 皇帝代理? じゃあマリー・アントニオ女王陛下はどうなったんですか?」

「さぁ? 分かんない」

「ナニ? 知り合いなの、アリアさん?」

「……知り合いという程の仲ではありませんが、ワタクシは代理ですが、同い年で女王の座についている女性という事でシンパシーは感じていました」




 そこまで言ってアリアさんは『なるほどな』と小さく首肯した。




「これで全て合点がいきました。おかしいと思ったんです。誰よりも穏やかで平和を愛するマリー皇帝陛下が我が国に侵略しに来るなど……。全てはあの小太りが仕組んだ事でしたか」

「小太り? 誰?」

「クロマーク皇帝代理のことさ、勇者様。お姫さんはマイルドな表現で言っているけど、傍から見たら豚を擬人化させたデブの初老のオッサンだよ」




 もうほんと顔面も性格も汚くってさぁ! と盛大にそのクロマーク皇帝代理とやらをディスるアルシエル。


 余程そのオッサン、いやっさんが嫌いなのだろう。


 初めて表情に本物の感情が浮かんで見えた。……まぁ嫌悪の感情だけど。




「そのオッサンが兄ちゃんの失われた金の玉を持っているワケ。どぅー・ゆー・あんだーすたんど?」

「……いいえ、理解できませんね」

「うん? なにが?」




 キョトン? と小首を傾げるアルシエル。可愛くない……。


 そんなヘビ族の長にアリアさんは警戒心という蜜をたっぷり塗った言葉で、




「何故そんな重要なお話をワタクシ達にするのですか? アナタも勇者様の金の玉を狙っているのですよね?」

「ハッ!? そーだ、そーだっ! 胡散臭い笑顔しやがって、騙されないぞ! どうせ俺達をおびき寄せて一網打尽にする罠なんだろ!?」

「罠とは酷い言いようだね、兄ちゃん。……まぁそう思われても仕方がないか」




 アルシエルは「隠してても仕方がないし、正直に言うね?」と至極困った表情を作りながら『お手上げ!』と言わんばかりに両手を宙に上げて言った。




「実はちょっと困ったことになっちゃってさぁ」

「「困ったこと?」」

「うん。ほら? 兄ちゃんの金の玉って、もうすっごい魔力が宿ってるじゃん? それこそ世界の半分をぶっ壊しかねないほどの」




 そう言えば、空飛ぶ猥褻物こと金色水晶の球子も同じことを言ってたっけ?


 俺の失われた元気玉は世界を滅ぼしかねないほどの魔力を秘めた秘宝であり、持つべき者が持ったらソレこそ世界を支配できる代物だって。


 でも並みの人間が持ったところで、ただの玉でしかないハズだとも言っていたけど?


 と、俺が珠子の言葉を思い返していると、アルシエルはとんでもない事を口にし始めた。




「クロマーク皇帝代理はその魔力を使って、帝国の地下に封印されている【グレート・ブリテン】の秘宝を蘇らせようとしているのさ」

「グレート・ブリテンですって!? 正気ですか!?」




 くわっ!? とアリアさんの眼が大きく見開かれる。


 えっ? えっ?


 ナニそれ? タマオ、知らない……。




「アリアさん、なにそのグレート・モスって? 究極完全態?」

「究極完全態ではありません。超古代文明【グレート・ブリテン】……かつて世界の半分を更地にした恐ろしい技術を持った民族の名前です」

「そっ。当時はカエル族の男たちが世界が滅ぶ前に【グレート・ブリテン】の蛮行を止めたから今も世界はこうして続いているけど、今はその頼みの綱であるカエル族の男が居ない。この意味、分かるよね?」

「……つまり今、その超古代文明の秘宝を蘇らせられたら、もう人類側には止める算段が無いって事か?」

「ざっつらいと♪」




 それ正解! と言わんばかりに俺に向かってウィンクを飛ばすアルシエル。うぜぇ……。




「【グレート・ブリテン】の秘宝は目覚めれば、もう逃げられない。陸だろうが海だろうが空だろうが関係ない、戦う場所を選ばない最強の兵器が必ず人類を滅ぼす」

「絶対?」

「絶対♪ だって蘇らすのがあの傲慢ちきなデブクロマーク皇帝代理なんだよ? 滅ぼすに決まってんじゃん♪」




 余程そのクロマーク皇帝代理とやらが嫌いなのか、アルシエルの言葉の節々からは憎しみのトゲを感じてやまない。


 そこまで言われるクロマーク皇帝代理とは、一体どんな小太りのデブなのだろうか?


 逆に気になってきたな……。




「な、何故クロマーク宰相はそんな事を……?」

「そりゃもちろん世界征服の為でしょ?」

「そ、そんな……!? そんな事の為に大量殺戮兵器を蘇らせようと言うのですか!?」

「まぁ男の子なんて基本バカだからね。しょうがないよ」




 まったく、あのデブには困ったもんだ。と辟易した顔を作りながら肩を竦めるアルシエル。


 一通り話を聞いたアリアさんは『信じられない……』と言わんばかりに大きく溜め息を溢した。


 ショックで固まるお姫様を横目に、俺はアルシエルが何を提案したいのかようやく腑に落ちて頷いていた。




「なるほどな。つまりお前は俺達と共闘したいワケだな?」

「さすが兄ちゃんっ! 話しが早くて助かるぅ~♪」

「ハハッ! ノリうぜぇ~♪」




 まるで缶チューハイ片手にバカ騒ぎするイカレ男子大学生のような態度に、怒りを通り越して殺意が湧きそうだ。


 俺、こういう陽キャDQNどきゅん的なノリ、大っ嫌いなんだよなぁ。




「流石に人類滅亡はオレもマジ勘弁だからさ? ここは一旦、一旦ね? ヘビ族とカエル族のわだかまりは無視してさ? 一緒にあのデブの企みを阻止しよ♪」

「……これまた随分と自分に都合のいい話ですね? 我が国に侵攻しておいて、困ったら助けを求めるなど。ふふっ、アナタの面の皮は一体何枚あるのでしょうね?」

「まぁまぁ! そう言わないでさ? オレだって本当は侵攻したくなかったんだけどさ、あのデブが『行け』って言うからさ! つまりあのデブが全て悪い! おのれクロマークめぇぇぇぇっ!」」




 アリアさんの嫌味を笑顔で返しながら、やや演技がかった仕草で「悪いのは全てあのデブ!」と言い切るアルシエル。


 おいおい? コイツの面の皮はタウンペ●ジで出来ているのか? とんでもない分厚さじゃないか?


 打っても響かないアルシエルの態度に、流石のアリアさんも疲れたのか「もういいです……」と諦めの溜め息を溢した。




「どうしますか勇者様?」

「う~ん? 罠の可能性も捨てきれないが、そのグレート・モスの――」

「グレート・ブリテンです」

「……そのグレート・ブリテンの秘宝とやらは流石に無視できないよな」




 だって世界を滅ぼしかねない兵器だし。


 ほっといたら俺も死んじゃうし。


 なによりソレを復活させるアイテムが俺のタマタマだし。


 そんなもん俺が世界の滅亡の片棒を半分背負っているようなモンじゃないか。冗談じゃない!




「よし、アリアさん! 俺は腹を決めたぞ」

「というと?」

「いいじゃねぇか。共闘してやんよ!」




 刹那、アルシエルが『待ってました!』と言わんばかりにパチパチパチ! と両手を叩いた。




「さっすが兄ちゃんだぁ~っ! 勇ましいねぇ~♪ 好き♪」

「男に好かれたた所で嬉しくねぇよ……。それで? 俺達はどうすればいい?」

「帝国にオレの用意した協力者が居るから、そいつ等と一緒にクロマークから兄ちゃんの金の玉を奪還してちょ♪ 情報はオレが逐一伝えるからさ♪」

「待ってください。その協力者は信用できるのですか?」

「そう警戒しなくても大丈夫だよ、お姫さん♪ お姫さんも知っている人だから♪」

「ワタクシが知っている人……?」




 怪訝そうな表情を浮かべながら、それっきり黙り込むアリアさん。


 一体ナニを考えているのかは想像がつくので、彼女の代わりに話を進めた。




「よし、分かった。じゃあ諸々の準備を入れて、旅立ちは1週間後。目的はパリス・パーリ帝国で決定だ!」

「ハハハッ! 何を言っているのさ、兄ちゃん?」

「うん? なにが?」




 アルシエルはその小枝のような指先を俺達の方へ向けると、満面の笑みを浮かべて、




「――旅立ちは『今』だよ♪」




 ――ブォンッ!


 瞬間、俺とアリアさんの身体が薄っすら輝き始めて宙を浮き始めた。


 ちょっ、なにこれ!?




「と、飛んでる!? 俺たち飛んでる!? というか輝いてる!?」

「これは……転移魔法!?」

「タマちゃん、お姉ちゃん!?」




 今までアリアさんの影に隠れていたリリアナちゃんが、浮き上がる俺達を見て悲鳴に近い声をあげる。


 が、構わずどんどん高度を上げていく俺達の身体。


 なになに!?


 これから一体ナニが起こるの!? 怖い!?




「さぁ楽しいフライトのお時間だよ♪ 2人とも楽しんできて……あっ、ヤベ。座標間違えた」

「おい待て? 今なにか不穏な事を――」




 言わなかったか!? と俺が口を開くよりもはやく、目の前の景色が歪んだ。


 目が痛くなるような光景を前に、思わずまぶたを閉じる。


 が次の瞬間、謎の浮遊感と共に物凄い勢いで身体が落下する感触が全身を駆け抜けていった。




「クソっ!? なんじゃこの浮遊感は!? 一体ナニが!?」




 俺は風を切る音が鼓膜を揺さぶる中、俺はゆっくりと瞼を開けた。


 目の前にはどこまで吹き抜ける青い空。


 そして真下には中世ヨーロッパのような街並みをした大型都市があった。


 まぁ要するにアレです。




「ここ空中じゃん!? いやぁぁぁぁぁぁっ!?」




 俺、落下なう。

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