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第15話 時は来た、それだけだ(さぁ『終わり』を始めるぞい!)

 ――明日の晩、クロマーク皇帝代理から玉座を奪還します。


 マリーちゃん皇帝陛下とアリシアちゃんが我が店の前で醜い言い争いをした、その日の晩。


 俺はマリーちゃん皇帝陛下、アリシアちゃん、アリアさん、そしてソフィアさんを自室に呼んでハッキリと【帝国奪還】宣言を口にした。


 瞬間「おぉっ!」とマリーちゃん皇帝陛下が『待ってました!』と言わんばかりに歓喜の声をあげる。




「やっとか! 待ちわびたぞ!」

「案外時間が掛かったわね?」

「という事は準備が完了したんですね、勇者様?」

「まぁ待て? 色々と言いたい事はあるだろうが、まずは喋らせてくれ」




 かしましい乙女たちの声を片手で制止しながら、俺はゆっくりと口をひらいた。




「2週間前、俺達は帝国を奪還するべくある作戦を立てた。それは帝国内に散らばるマリーちゃん皇帝派閥の兵士たちを水面下で国内中央に集め、力づくの正面突破でクロマーク皇帝代理から玉座を奪還する作戦だ」




 単純計算ならマリーちゃん皇帝陛下の人望が厚い分、コッチの方が戦力が多くなる。


 ソフィアさんの見立てだと、現在クロマーク皇帝代理側の兵力は5000人。対してマリーちゃん皇帝陛下の兵力は6000人になるとの事。


 その言質を信じて俺達はこの2週間、夫婦で営む果物屋のフリをして兵士を募ったり、秘密裏に衛兵に接触して味方に取り込んでいった。


 だが……。




「誠に残念ながら準備は完了しなかった。俺達が100%準備している間に、向こうの準備が整ってしまうことが先遣隊からの報告で判明した。つまりグレート・ブリテンの秘宝が先に起動してしまう」

「なんと……じゃあ作戦は失敗かえ?」

「いいや陛下。100%準備が整わないだけで、もう既にある程度の準備は整っているんだよ。だよね、ソフィアさん?」

「はい。先遣隊の報告を加味しても、70%は準備完了しております」




 70%……と呟くマリーちゃん皇帝陛下。


 そんな幼女皇帝陛下の隣でアリシアちゃんが「いやいや?」と声をあげた。




「70%も準備できれば十分じゃね?」

「やれやれ? これだから食い気だけの色気ゼロのブーは……。もう少し栄養をお腹ではなく頭に回してください」

「おい、カエル族の姫? お前今、遠回しにアタシの事をデブって言ったな? 夜道には気をつけろよ、このロイヤルビッチが!」

「誰がロイヤルビッチですか!?」

「はいはい、漫才を始めないで? 今は会議中ですよ?」

「「始めてない!」」




 犬歯剥き出しで喧嘩の仲裁に入ったハズの俺に噛みついてくるプリンセス達。


 おいおい? 息ぴったんこトントンじゃないか?


 仲良すぎだろ、コイツ等?




「確かにアリシア様の言う通り、数字だけを見れば高そうに見えますが、勝率で言えば30%以下といった具合です」

「「30%ッ!?」」




 ソフィアさんの言動にギョッ!? と目を見開くマリーちゃん皇帝陛下とメタボに片足を突っ込んだメスガキ。




「つまり明日の【帝国奪還】作戦はほぼほぼギャンブルです。成功するかどうかは神のみぞ知ります」

「待った待った!? アタシ、そんな分の悪い賭けには乗りたくないんですけど!? つぅか、ソレなら作戦は延期でよくない!?」




 デブ、もといアリシアさんが『異議ありっ!』と至極ごもっともな事を口にする。


 確かに彼女の言う通り延期できるモノなら延期した方がいいだろう。


 ……延期できるのなら、ね?




「アリシアちゃん。ここでチミに残念なお知らせがある」

「あ、あによ?」

「コチラの準備が完璧に整う迄にかかる日数は約一週間です。対してグレート・ブリテンの秘宝は……残り3日で起動します」

「3日ッ!? 3日ってアンタ!?」




 絶対ムリじゃん!? 勝てないじゃん!? と顔を曇らせるアリシアちゃん。


 メスガキの顔が曇る瞬間は、どうしてこうも魅力的なのだろうか?


 不覚にもムスコがS極に目覚めるかと思った。


 俺の新たなる性癖の扉がガタガタッ!? と音を立てて軋みを上げ始める中、アリアさんが「勇者様?」と怖い笑顔で俺を見てきたので、慌てて扉にロックをかける。


 ちょっ、姫さま怖スギィ~っ!?


 俺は彼女に内心を悟られないようにポーカーフェイスを心掛けながら、真面目腐った表情で会議を進めた。




「でもアリシアちゃんの言う事も最もだ。そんな分の悪い賭けには乗りたくない。そこで俺は新たにもう1つ作戦を提案したいと思う」

「新たな作戦じゃと?」




 マリーちゃん皇帝陛下の怪訝そうな視線が俺の肌を撫でる。


 俺は「はい」と首肯しながら、幼女皇帝陛下に向かって、




「題して【おとり大作戦】です」

「おとり大作戦? なんじゃソレは?」

「言葉通りの意味です。マリーちゃん皇帝陛下とソフィアさんは、コチラが用意した兵士達と共に城の門の前で暴れてください。その間に俺とアリアさんとアリシアちゃんが隠し通路を通って城の中に潜入します」




「えっ!? アタシも行くの!?」と驚くアリシアちゃんをガン無視して、俺は作戦の続きを口にした。




「そのままマリーちゃん皇帝陛下たちが暴れている隙に、クロマーク皇帝代理のもとまで辿り着きグレート・ブリテンの秘宝を止めます」




 コチラの戦力を考えるに、おそらく作戦に使える時間は1時間もないだろう。


 つまりこの【おとり大作戦】は時間との勝負になる。


 正直、かなり難しいミッションになるだろう。


 だが。




「現時点において、この作戦が一番勝率が高いです」

「ふむ、なるほどな……。確かにソレなら勝率も上がるであろうが、問題もあるぞ? クロマーク宰相とグレート・ブリテンの秘宝の2つを探さねばならぬワケじゃからな? 時間は足りるかえ?」

「そこは心配していません。クロマーク皇帝代理は間違いなくグレート・ブリテンの秘宝のある場所に居るハズですから」




 あの器の小さい男のことだ。


 十中八九間違いなく秘宝の近くでスタンバイしているだろう。


 仮にスタンバイしていなくとも、秘宝さえ止めてしまえばコチラのモノだ。


 あの小太りのデブが相手なら、時間をかければ簡単に玉座を奪う方法なんぞ幾らでも思いつく。


 そう、俺達の勝利条件はただ1つ。


 グレート・ブリテンの秘宝の起動阻止、それだけだ!




「ちょっ、待って!? おい勇者、なんでアタシまで潜入する流れになってんの!?」

「だってグレート・ブリテンの秘宝の居場所が分かるのはアリシアちゃんしかいないし」

「そこの幼女陛下と人妻騎士が居るでしょうが!」

「誰が幼女じゃ!?」

「あらあら? 私、人妻になったんですか?」




 相手は誰でしょうか? と『のほほん♪』と笑みを溢すソフィアさんの隣で、発情期のお猿さんのようにムキーッ!? と地団駄を踏むマリーちゃん皇帝陛下。


 すごいな、彼女アリシアちゃんは?


 まるで地雷原の上でブレイクダンスを披露するかの如き大胆不敵な肝の据わり方……彼女は将来どんな偉人に成長するというのだろうか?




「確かにマリーちゃん皇帝陛下とソフィアさんも秘宝の在処は知っているけど、2人が居ないと集めた兵が纏まらないからダメ。必然的に残るのはアリシアちゃんしか居ないの」

「ガッデム!?」




 嫌だぁぁぁぁぁっ!? と頭を抱えて悶えだすアリシアちゃん。


 どうしたのだろうか?


『あの日』なのだろうか?


 始まったのだろうか?




「作戦失敗したら真っ先に死ぬ役目じゃん!? 絶対嫌だっ! やりたくない!?」

「腹を括りなさい、ブー。大丈夫、死ぬ時はみんな一緒だから」

「ブー言うな、腹黒プリンセスッ!? ふざけんなっ! アタシはね、絶対に勝てる勝負しかしない女なのよ!」




 子豚のようにブーブーッ!? 文句を垂れるアリシアちゃん。


 そんなアリシアちゃんを残飯を眺める目つきで見つめるアリアさん。


 ヤベェよ、あの目? カタギの目じゃねぇよ……。


 どうしよう? あのままじゃ、またアリアさんに泣かされちゃうよ、アリシアちゃん……。




「まったく、これだからブーは……。栄養が全部頭じゃなくてお腹にいっているんですか?」

「遠回しにデブって言うな!? デブじゃないもんっ!」

「いいですか、デブ? どのみちアナタがワタクシ達を秘宝のもとまで導いてくれなければ、全員死ぬんですよ。遅いか早いかの違いだけです」

「またデブって言ったな!? 体重56キロのアタシに、またデブって言ったなぁぁぁぁ!?」




 お前ゼッタイに許さんからな!? と涼しい顔をするアリアさんを全力で睨みつけるアリシアちゃん。


 その瞳は憎しみと殺意に満ち溢れていて………アリシアちゃん? お昼に会った時より1キロ太っているんだけど、また食べ過ぎたのかな?


 大丈夫っ! 男はちょっとポッチャリしている女の子が大好きだから、気にする事はないよ!


 例えパンツのゴムの上に贅肉が乗っていても、俺は構わず愛する自信があるからさ! その……元気出してっ!


 と心の中でアリシアちゃんを応援していると、俺のエールが彼女に伝わったのか、アリシアちゃんは「あぁもうっ!」とその桃色の髪をガシガシッ! 片手でかきながら、




「やるわよ! やってやるわよ、こんちくしょうめっ!」




 と言った。


 その瞬間、マリーちゃん皇帝陛下が膝を叩いた。




「よく言ったアリシア! これで決まりじゃ! ソフィアよ、すぐに伝令を走らせろ! ここからは時間との勝負じゃ!」

「はい、陛下っ!」




 マリーちゃん皇帝陛下の一声により、パタパタと慌てた足取りで部屋を後にするソフィアさん。


 遠ざかっていく彼女の肉付きの良いお尻を名残惜しくも見送りつつ、マリーちゃん皇帝陛下はこの場に居る全員に宣言するように口を開いた。




「作戦決行は明日の23時ちょうどっ! 日付けが変わる前にケリをつける! よいか、お前たち? ――玉座を奪還するついでに世界を救うぞ!」




 陛下の激励に、俺達は自然と声をハモらせ一斉に頷いた。

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