かくして【帝国奪還おとり大作戦!】が決まった、その日の晩。
各自最終準備と英気を養うべく、それぞれの部屋に戻り、思い思いの時間を過ごすこと30分。
窓の外ではお月さまが優しく俺達を見守ってくれている中、
「それじゃ勇者様? ワタクシ、お風呂へ行って来ますね?」
「ねぇ? いい加減お風呂とトイレに行くときにさ、俺を魔法で拘束するの止めてくんない?」
――俺はアリアさんの拘束魔法で両手足を縛られ、床に寝転がされていた。
「それは無理な相談ですね。だって勇者様、拘束を解いたら覗きにくるでしょ?」
着替えとオレイカルコスの腕輪を身に着けたアリアさんが『お前の考えなど、ぜんぶ丸ッとお見通しだ!』と言わんばかりの瞳で俺を見てくる。
そう、マリーちゃん皇帝陛下からオレイカルコスの腕輪を貰ったアリアさんが毎晩俺を拘束して1人お風呂を楽しんでいたのだ!
その間、俺は彼女の魔法で両手足を拘束され、芋虫のように床に寝転がされる日々。
これは由々しき事態である。
どれくらい由々しき事態かと言えば、初めてオッパブに行ったはいいが緊張のあまりパイパイをタッチすることなくズコズコと惨めに退店する新入社員くらい由々しき事態である。
決戦は明日なのだ。
こんな安心してお風呂にも入れないような信頼関係では、いざという時困るかもしれない。
事は一刻を争った。
「アリアさん、それは酷い誤解だ。俺の目を見てくれ。これがレディーのお風呂を覗く人間の目に見えるか?」
「見えます」
ヤダな? 泣いてないよ?
「酷いぞ、アリアさん!? 俺たち、仲間だろ!?」
「仲間以前に『男』と『女』です。エチケットは大切です」
「アリアさんは俺を信用していないのか!?」
「もちろん信用していますよ。勇者様が今自由になったら、間違いなくお風呂を覗きにくるであろう事を……ね」
「そ、それは信用とは言わない! アリアさんはもっと俺を信頼してくれ!」
「信頼していますよ? これは信頼に見えない信頼です」
こりゃダメだ♪
何を言っても俺の言質を聞き入れてくれないロイヤルビッチに、俺は心の中でお手上げ宣言を口にした。
しょうがない、今日もアリアさんがお風呂から上がるまで1人芋虫ごっごでもして時間を潰すか。
なんて事を考えていると、俺の前に立っていたアリアさんが小さく溜め息を溢した。
「そんな不貞腐れないでくださいよ。コレは勇者様の為を思っての処置なんですから」
「ん? 俺のため?」
「はい」
アリアさんは何故か頬を『ポッ』と赤らめると、モジモジと膝を擦り合わせながら、
「だって、もし勇者様にお風呂を覗かれたらワタクシ……うっかり勇者様をくびり殺しちゃいますもん」
「モジモジしながらスゲェこと言ってるよ、この子……」
もう発言が殺し屋のソレだった。
「アリアさんの前世はアマゾネスさんだったのかい? 同じ人類のハズなのに会話が成立する気がしないよ……」
「うるさいですよ? せめてもの慈悲として視界は奪ってないんですから、それで満足してください」
ではワタクシはお風呂へ行って来ます! とそう言い残して、意気揚々と脱衣所のある1階へと旅立っていくアリアさん。
るんるん♪ と今にもスキップせんばかりに上機嫌のまま、俺を残して部屋を後にする彼女。
ガチャリッ! と部屋の扉が閉まり、1人放置された俺は「ハァ~……」と
「アリアさん、お風呂長いからなぁ……。帰ってくるまで暇なんだよなぁ」
お風呂大好きフリスキーのアリアさんの入浴時間は長い。
余裕で1時間はお風呂に入り続けるので、待たされる身としては堪ったモノではない。
こうなったら彼女が使用している下着を引っ張り出して、男の子が有する欲望の限りを尽くそうかとも思ったが、エビ反りで両手足を拘束されているため、這うことすらままならない。
獲物の身動きを封じる素晴らしい縛り方だ。
あまりにも完璧な縛り具合に一瞬、SMプレイルームから女王様が異世界転移してきたのかと錯覚しかけたくらいだ。
仕方がないので、彼女が帰ってくるまで仮眠でも取ろうかと瞳を閉じ、
――ガチャリッ!
唐突に俺達の間借りしている部屋の扉が開いた。
「あれ? どうしたの、アリアさん? 忘れ物?」
「何を勘違いしておる? 妾は――うぉ!? なんじゃその恰好は!? 敵襲か!?」
扉の方から塾帰りの夜道にヤベェ変態と遭遇した女児のような声が俺の耳朶を叩いた。
このロリボイスは……まさか!?
俺は無理やり首だけで扉の方へと振り返ると、そこには俺の予想通りの人物がドンッ!と立っていた。
「マリーちゃん皇帝陛下? どうしたんですか、こんな時間に?」
「それはコッチの台詞じゃ!? 大丈夫なのか勇者殿!?」
両手足を拘束されている俺を見て、心底驚いた声をあげるマリーちゃん皇帝陛下。
幼女(18歳)には刺激が強すぎた光景らしい。
『ナゼ勇者殿の両手足が縛られておるんじゃ!? 説明せい!』とその綺麗な瞳が言外に語ってくる。
う~ん、困ったなぁ。
正直、事ここに至った経緯を説明するのは骨が折れるし、上手く説明できる気もしないし……う~ん?
しょうがない、ここはテキトーにお茶を濁しておくか、
「気にしないでください、コレはただの趣味ですから」
「趣味っ!? マジでッ!?」
「それよりも、何か用ですか?」
「よくその体勢のまま日常会話に戻れるの、キサマ……」
何故かドン引きした様子で俺を見下ろすマリーちゃん皇帝陛下。
その瞬間、俺は気づいた。気づいてしまった。
彼女の頬を若干紅潮している事にっ!
刹那、俺の優秀な脳細胞たちが唸りをあげて陛下をプロファイリングし始める。
『お風呂あがり』『赤い頬』『夜』『男と部屋で2人きり』……ハッ!?
瞬間、俺の全身を雷が駆け抜けたかのような衝撃が走った。
間違いない。陛下は今……心身ともに『女』を持て余していると見た!
きっとその小さな身体には今、性欲というポイズンが満ち満ちているのだろう。
お昼は何とか我慢できたが、とうとうソレが限界を迎えてしまい、男である俺に助けを求めにきたに違いない。
そうっ! マリーちゃん皇帝陛下は今ッ!『男』として俺を求めている!
「なるほど、夜這いですか。俺の身体が欲しくてやって来たんですね? このおませさんめっ♪」
「違うっ! 全然違うわっ! おい、その『全部わかってますよ』感を出すのは止めろ! 腹立つから!」
恥ずかしいのか、俺が作った甘い雰囲気を一瞬でぶち壊すマリーちゃん皇帝陛下。
陛下は「まったく!」と声を荒げながら部屋の中へ入って来ると、ズンズンッ! と大股で俺に近づいてきた。
「妾は別に夜這いに来たワケではない。ただその……改めて勇者殿に謝っておこうと思ってな」
「謝る? 俺にですか?」
「う、うむ」
マリーちゃん皇帝陛下はバツが悪そうな顔をしながらコクンッと小さく頷いた。
その瞬間、俺はまた気づいた。気づいてしまった。
彼女が短めのスカートを履いている事にっ!
さぁ、みんな? 想像してごらん?
現在俺は両手足を拘束されて床に寝転がされている状態だ。そこへ自称18歳の合法ロリがミニスカートで俺の顔元近くまで歩いてやって来た。
そこから導き出される結論は1つだ。
俺は今、合法ロリのスカートの向こう側を覗いている!
気がつくと俺は、呼吸も忘れてマリーちゃん皇帝陛下のワンダーランドを目に焼き付けようと躍起になっていた。
「妾が不甲斐ないばかり、帝国に関係のない勇者殿たちを巻き込んでしまった。本当に申し訳ない」
「……」
「しかも一番危険な役目を任せてしまった……。本来ならその役目は皇帝である妾が背負わなければならぬモノ。勇者殿たちには詫びのしようがない」
「…………」
「そして、ありがとう。妾たちのため、帝国のために身体を張ってくれて」
「………………」
「この恩はいつか必ず返す。……と言っても、明日を無事に生きて乗り越えられたらじゃけどなっ!」
「……………………」
「勇者殿、明日はよろしく頼むぞ?」
「…………………………」
「勇者殿? 聞いておるのか、勇者殿? おーい?」
「……あっ、ごめん。パンツに全神経集中させてたから聞いてなかったわ。もう1回言ってくれる?」
ビンタされたよ☆