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第17話 オラオラオラオラオラッ!(やれやれだぜ……)

 マリーちゃん皇帝陛下(パンツは黒のレースだった、意外!)が何故か怒りなら部屋を飛び出して数十分。


 俺はヒリヒリと痛む幼女の手形のついた頬をそのままに、うつらうつらしていると、



 ――ガチャリッ!



 とこれまた乱暴に部屋の扉が開けられた。


 視線を向けると、そこにはシルクのパジャマを着込んだソフィアさんの姿があった。




「こんな夜分にごめんね、勇者くん? 今ちょっと時間いいかな? ……大丈夫、その体勢?」

「ソフィアさん? はい、色んな意味で大丈夫ですよ。どうぞ」




 ソフィアさんはエビ反りで両手足を拘束されている俺を見下ろしながら、大人の余裕をもって部屋へと足を踏み入れた。


 お風呂あがりのせいか、ソフィアさんの肌は赤く紅潮していて、頭にはタオルを巻いたままだった。




「ありがとう。ごめんね? 明日のために早く寝ないといけない所を邪魔しちゃって?」

「いえいえ。全然っ! ソフィアさんのためなら俺、いくらでも時間を作りますよ!」

「ふふっ、勇者くんは相変わらず口が上手いね?」




 そう言って朗らかな笑うソフィアさんを前に、俺は内心狂喜乱舞していた。


 というのも、ソフィアさんの今の恰好がヤバ過ぎるのだ。


 いつぞや見たスッケスケの黒のランジェリーの前例をきちんと踏まえているのか、しっかりと肌の露出のないシルクのパジャマを着込んでいるのだが……俺には分かる。


 ソフィアさん、今、ノーブラだ!


 滑らかで柔らかいシルクのパジャマ故に、パンツの線がズボンから浮き出ていた。


 だが胸は……ない。ブラジャーの線がないのだ!


 しかも目を凝らせば、ツンとした胸元の先端が若干膨らんでいて――おいおい!?


 彼女は一体どこの頂きを目指しているというんだ? 神の一手か?




「あまり長居するのも悪いし、要件だけ伝えて私は部屋に戻るよ」

「いやいや? もういくらでも長居してくれて構いませんよ?」

「優しいね、勇者くんは。でも明日は大事な決戦だから、長居はやめておくよ」




 少しでもこの奇跡のヘヴンズ・タイムを引き延ばそうと死力を尽くそうとする俺に、優しく微笑むソフィアさん。


 もう彼女がただの天使にしか見えない。


 絶対に幸せにするから、結婚してほしい。




「まずは感謝を。ここまで陛下のために動いてくれて、本当にありがとう。おかげで帝国奪還の一歩手前までくることが出来た。私と陛下だけだったらこんなにスムーズにはいっていなかったよ。本当に勇者くん達には感謝してもしきれないよ」

「や、やめてくださいよ? 人として当然の事をした迄ですから、ハハッ!」




 俺は下心がバレないように爽やかな笑みを顔に張り付けるのだが、何故か語尾が某千葉県に存在する夢の国のマスコットキャラクターのように甲高くなる。


 いやぁ、凄いよね?


 人間、やましい事があると何故かミ●キーみたいになるよね?


 いやはや、ほんと摩訶不思議アドベンチャーだ。




「この作戦が終わり、無事に陛下が玉座に戻ったら全力でお礼をさせて貰うよ」

「そんな、別にいいですよ。見返りを求めて手助けしているワケじゃありませんから、ハハッ!」

「いやいや、それだと私たちの気が収まらない。ぜひお礼をさせて頂戴。別に物じゃなくても構わないから。文字通り何でもいいんだよ」

「な、何でもいい……だと?」

「うん。何でもいい」




 真剣な表情でまっすぐ俺を見つめるソフィアさん。


 俺はそんなソフィアさんに同じく真剣な眼差しで「ならエロいお願い1つ!」と声をあげかけて――気が付いてしまった。


 なんだかソフィアさんの視線の動きがおかしくないか?


 何故か彼女の視線は俺の顔と下半身を行ったり来たりしていて、ソワソワと落ち着きがない。それどころか気まずそうに視線が左右にバタフライしているではないか。


 さっきまで実に凛々しい女性という感じだったのに、今は愛らしい女の子といった感じの雰囲気である。


 どうしたのだろうか?




「ソフィアさん? どうかしたんですか? さっきから妙にソワソワして?」

「い、いやその……? ゆ、勇者くんも男の子だから『そういう』のは仕方がないとは思うんだけどね? ま、真面目な話の最中はそのぅ……」

「???」




 口元をマゴマゴさせながら要領の得ない事を喋り続けるソフィアさん。


 一体ナニが彼女をソワソワさせているんだ?


 俺はソフィアさんの視線に導かれるように、自分の下半身へと視線を落と――




「なん、だと……っ!?」




 自分の股間に視線を落とした俺は驚愕していた。


 何故ならそこには立派な富士山がギンギンにそびえ立っていたからだ。


 ば、バカな!?


 いつの間に!? ハッ!?




「違うんです、ソフィアさん!? これはっ!?」

「だ、大丈夫っ! 分かってる、分かってるから!」




 ソフィアさんはほんのり頬を染めると、俺を気遣うように優しい笑みを浮かべた。


 そんな彼女を横目に、俺はなんとかビルド・アップしたマイサンを隠そうとするのだが、両手足が拘束されていて身動きが出来ない。


 しかも最悪なことに、今の俺はエビ反りである。


『見てくれ、コレが金城玉緒だ!』と言わんばかりに胸を張ってソフィアさんにギンギンに反りった己を自身を見せつけているような恰好になり……イケない!?


 はやく弁明しないと、彼女と次に会うのは法廷になってしまう!?




「き、聞いてください!? ワザとじゃないっ! ワザとじゃないんです!?」

「わ、分かってる! 疲れたりすると、自分の意思とは関係なくその……そうなっちゃうんだよね? 大丈夫、私分かってますから!」




 そう言って俺から距離を取り始めるソフィアさん。


 ダメだっ!? ここで彼女を逃がせば、次に会うのは間違いなく法廷だ!?


 気がつくと俺は、1日1回しか使えないチート魔法を使って両手足の拘束を解いていた。


 そのまま勢いよく立ち上がり、




「ソフィアさんっ! 落ち着て!? まずは俺の話を――うぉっ!?」

「へっ!? ちょっ、勇者くんっ!?」




 長時間同じ体勢で固まっていたせいか、足が痺れて上手く立ち上がれなかった。


 結果、俺は押し倒すような形でソフィアさんの身体に抱き着き、



 ――どっしーん! ……ガチャリッ!



 勢いよく俺達の居る部屋の扉が開いた。




「な、何事じゃ!? 今、すごい音がしたぞ!? ……あっ?」

「「あっ」」




 瞬間、部屋の様子を見に来たマリーちゃん皇帝陛下と遭遇した。


 さぁ、想像してごらん?


 つい数十分前に自分にセクハラしてきた男が、信頼を置いている自分の臣下を床に押し倒している光景を。


 しかも股間が東京スカイツリーの如く固くそそりっている状況で、だ。


 マリーちゃん皇帝陛下が一体どんな素晴らしい景色を目撃したかは、もはや言うまでもないだろう。




「勇者、キサマぁぁぁぁっ!? 妾だけでなくソフィアにまで手を出そうとしたなぁぁぁぁっ!?」

「ま、待って待って!? 誤解、誤解!?」

「誤解も六階もないっ! キサマは妾を怒らせた、喰らえっ!」




 マリーちゃん皇帝陛下が全速力で俺に接近すると、顔に掌底を一発お見舞いした。


 俺は悲鳴すら上げることなく顔が跳ね上がり、そのまま真後ろへと仰向けで倒れてしまう。


 そんな俺に向かって拳を構えるマリーちゃん皇帝陛下。


 彼女がロックオンしているのは、そびえ立つ我がエッフェル塔で……まさかっ!?


 瞬間、俺の脳裏に某奇妙な冒険第3部の処刑用BGMが流れ出す。




「ダメダメダメダメダメッ!? そこは本当にダメだって!? ごめん許してマリーちゃん――ッ!?」

「オラオラオラオラオラッ!」




 マリーちゃん皇帝陛下は何ら躊躇うことなく我が股間めがけて拳を振り抜いた。


 しかも1発ではない。


 2発、3発と力の限りを尽くしたラッシュである。


 ソレがギンギンに反り勃った我がおいなりさんを適確に打ち抜いて、ひぎぃっ!?




「らめぇぇぇぇ~~っ!? そこはらめぇぇぇぇ~~っ!?」

「オラオラオラオラオラッ!」




 両手で頭を押さえて悶える俺を無視して、全力ラッシュを続けるマリーちゃん皇帝陛下。


 アカンアカンッ!?


 お、女の子になっちゃう!?


 玉緒、女の子になっちゃうよぉぉぉ~~っ!?




「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

「あひぃぃぃぃ~~っ!? 飛んじゃうっ!? 玉緒、飛んじゃうぅぅぅぅぅ~~っ!?」




 ズドドドドドドドドッ! と容赦なく我がイチモツに拳を叩きこみ続けるマリーちゃん皇帝陛下。


 俺、生まれて初めてリアルで『ひぎぃっ!?』と『らめぇっ!?』とか口にしたよ。


 アレっててっきりエロ漫画的誇張こちょう表現だと思ってたけど、マジなんだね。玉緒、納得だよ!




「うぎぎぎぎっ!? こ、こうなったら1日1回しか使えないチート魔法で――ダメだ!? 拘束を抜ける時に使っちまった!?」

「無駄無駄無駄無駄無駄ァっ!」

「おごごごごっ!? ま、マリーちゃん皇帝陛下ッ!? い、一旦止まって!? お願いだから俺の話をっ!?」

WRYYYYYYYYウィリリリリリリリリYYYYYYYYリリリリリリリリッッ!」




 さらにラッシュのスピードを上げるマリーちゃん皇帝陛下。


 途端に目の前が赤く点滅し始める。


 イケないッ!?


 これ以上はもう俺のおいなりさんが限界だ!?


 泣くことすら許されない痛みに悶絶しながら、ゆっくりと遠のいていく意識。


 そして俺の意識が完全に消滅する間際、マリーちゃん皇帝陛下は『トドメだ!』と言わんばかりに大きく拳を振り上げて、




「オラァ!」




 気合一閃。


 陛下の強烈な一撃が俺のセンチメンタル・ポイントをダイレクトに打ち抜いて……




「パピヨンっ!?」




 俺は謎の奇声をあげながら、意識がブラックアウトした。


 薄れゆく意識の中、俺が最後に見た景色は人体の限界までけ反りつつ、ビシッ! と俺に向かって指先を向けるマリーちゃん皇帝陛下の姿だった。




「ふぅ……やれやれだぜ」




 そう言ってどこか誇らしげに笑うマリーちゃん皇帝陛下は、何故か最高にスタイリッシュ、世界で一番可愛いキ●ガイだと思った。

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