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第20話 貧乳機関車アリシア・ウエストウッド……発進ッ!(お前ら絶対許さんわ)

「お前ら絶対許さんわ」

「ワタクシは何もしていないのですが……」




【帝国奪還おとり大作戦】が決行されて10分後のパリス・パーリ城にて。


 隠し通路へと繋がる小部屋の中で、ローションでドロドロになったアリシアちゃんの静かなる怒りの声が俺達の鼓膜を優しく揺さぶった。




「そうカッカすんなって、アリシアちゃん? 水も滴るイイ女って言うだろ?」

「いや水じゃねぇだろ、コレ!? なんだコレ!? すっげぇヌルヌルするんですけど!?」

「そんな激しく動かないでください、ブー。ローションがコッチにまで飛び散りますから。汚い……」

「だからブー言うな!? カエル族の姫、テメェあとで覚えてろよ!?」




 その場でムキーッ!? と地団駄を踏むアリシアちゃん。


 何度見ても見事なムキーッ!? 具合である。


 アリアさんは下半身がローションでドロドロのベッタベタになったアリシアちゃんを遠巻きに眺めながら、怒れる彼女を説得するように口をひらいた。




「助けられておいて何で言い草ですか、はしたない。見た目もはしたなければ、中身もはしたない」

「なにをぉぉぉっ!?」

「はいはい、2人も喧嘩しないの。一応敵地だからね、ココ?」




 緊張感のない2人を窘めるように間に割って入るのだが、何故か物凄い勢いでアリアさんとアリシアちゃんに睨まれた。ひぇっ!?




「敵地でローションプレイに興じる勇者様には言われたくありません」

「つぅかもっとマシな助け方はなかったワケ!?」

「ちょっ!? 2人も声が大きい!?」




 いくらマリーちゃん皇帝陛下たちが敵を惹きつけてくれているとは言っても、ここは敵地のど真ん中。本拠地だ。


 そこら中に城を巡回している衛兵が――




『おいっ? なんかこの辺、五月蠅うるさくないか?』

『確かに。発情した猿みたいな声が聞こえるな……』


「ヤッベ!? 気づかれた、ヤッベ!?」




 小部屋の向こう側から巡回中の衛兵たちの声が聞こえてくる。


 雰囲気から察するに、今にも俺達の居る部屋の扉を開けそうな感じで……っ!?




「ブーの声が大きいから気づかれたではありませんか!」

「ア、 アタシのせい!? いや、もとを正せばそこの変態勇者がっ!?」

「言い争っている場合じゃないぞ、2人とも!? 一旦もう1回隠し通路へ逃げるぞ!」




 そう言って俺は慌てて通路へと繋がる隠し穴を通ろうとして、




「クッソ!? ヌルヌルしていて上手く通り抜けられねぇ!? 誰だ、ここにローションをブチまけたバカ野郎は!?」

「勇者様では?」

「お前だろ、勇者?」




 俺だったわ、ヤッベ☆




『ここだ。この部屋から妙な声が聞こえるぞ』

『よしっ。1、2の3で開けるぞ?』

『了解。気を抜くなよ?』




 ガチャリッ! と俺達の居る扉が軋む音が聞こえる。


 色んな意味でもう時間がない。


 退路が断たれた以上、俺達に残された道はただ1つ。



 ――もう進むしかない!



 気が付くと俺は残りのローションをアリシアちゃんの全身にぶっかけていた。




「何すんじゃキサマァァァァァァッ!? ぷぎゃっ!?」




 俺は全身ヌルヌルになったアリシアちゃんを大外刈りの要領で無理やり寝かせると、彼女のローションまみれの背中にドッカリと腰を下ろした。




「うげぇっ!? お、重い……!? マジでナニする気だ、勇者テメェ……ッ!?」

「説明している時間はない! 乗って、アリアさん!」

「えぇ……? ベトベトしているから嫌なんですが……」




 すっごい渋い顔を浮かべながらも、アリアさんもメスガキせんアリシア号へと乗船する。


 俺はアリアさんに背中合わせで乗ってくれるようにお願いしながら、確認を取るようにアリシアちゃんに声をかけた。




「ここからグレート・ブリテンの秘宝までの道のりはちゃんと覚えてるよね、アリシアちゃん?」

「ハァ? バカにすんなし、当たり前っしょ? 何なら目を瞑ってでも辿り着けるわ!」

「その言葉が聞きたかった!」




 ふふんっ♪ と自慢気に鼻を鳴らすアリシアちゃん。


 彼女が『出来る』というのなら出来るのだろう。


 今はその言葉を信じて前へ進む!




「アリアさんっ! 風魔法とか使える? 何か船の推進力になりそうな感じのヤツ!」

「船の推進力……」




 そこまで言ってアリアさんも俺がやりたい事に気づいたのだろう。


 アリアさんは『まさか!? コイツ正気か!?』とでも言いたげな瞳で俺とアリシアちゃんを交互に見返してきた。


 言いたいことは分かるがゴメン。


 今は時間がないんだ!


 俺は申し訳ないとは思いつつも、やや強い口調で彼女に問いかけた。




「出来る!? 出来ない!? どっち!?」

「で、出来ます! やってみせます!」

「よっしゃ! なら俺の合図に合わせて魔法をぶっ放してくれ!」

「分かりました!」

「ちょっ!? 何する気!? 何する気なの、アンタら!?」




 怖いんだけど!? と困惑するアリシアちゃんを無視して、俺は全神経を小部屋の扉へと集中させる。


 この脱出大作戦はタイミングが命だ。


 絶対にミスは許されない。


 キバれ、俺!




「待って、待って!? せめて説明! 説明だけ頂戴!?」

「集中しなさい、ブー。アナタがこの作戦の要なんですよ?」

「その作戦の要に説明がないっていうのはどういう事だって言ってんだよ、コッチは!?」




 2人が仲良く言い争っている間に、


 ――バンッ!


 と勢いよく小部屋の扉が開かれた。




「今っ! アリアさんっ!」

「了解! 風魔法トルネード・ネードッ!」




 ブワッ! と背後から強烈な風エネルギーが俺達を襲う。


 ローションでヌルヌルになったアリシアちゃんの身体は、それを受け止めるだけの馬力がなく……。


 瞬間、俺達を乗せたアリシアちゃんが物凄い勢いで床を滑走し始めた。




「この部屋に居るのは誰だ!? ――うわっ!?」

「大人しく――うぉっ!?」

「ひにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」




 部屋に踏み込んできた衛兵たちをその場に置き去りにし、アリシアちゃんは物凄い勢いで床を滑走し続ける。


 その姿はまさに卵子を前にした精子のソレ!


 生きるか死ぬかの瀬戸際が生む、奇跡のエネルギーッ!


 ソレが今、アリシアさんの……いや俺達の身体を包み込んでいた!




「ひゃっほぉぉぉぉぉぉ~~っ! 上手く抜け出せたぜぇぇぇぇ~~っ!」

「やりましたね、勇者様! このまま秘宝のもとまで突っ切っちゃいましょう!」

「そうだな。大分時間もロスしたし、ここから挽回しないと。そんなワケで頼むわ、アリシアちゃん」

「チクショウォォォォォッ!? やってやんよ! アタシやってやんよ!?」




 女は度胸者じゃぁぁぁぁぁッ! と絶叫しながら器用に身体を動かして左右に旋回せんかいするアリシアちゃん。


 この土壇場で肝が据わるその性格、嫌いじゃない。




「行くわよ者共ぉぉぉぉぉっ! ソニックウェーブに気をつけろぉぉぉぉぉっ!」




 そう言ってアリシアさんはさらに身体を加速させた。

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