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第21話 猥褻物がとんでもねぇスピードで滑走してくる!?(誰が猥褻物だ!?)

「うわっ!? なんだアレ!? ヌルヌルのテカテカした女が城の中を走り、いや滑走しているぞ!?」

「痛ぇっ!? 滑った!? あのヌルヌルの女が通った道、すっげぇ滑るんですけど!? ナニあれ!?」

「気をつけろ! 猥褻物がとんでもねぇスピードで滑走しているぞ!?」




 ローションでヌルヌルになったアリシアさんに跨って5分後のパリス・パーリ城にて。


 俺達は1発の弾丸のように超スピードで目的地に向かって全速前進していた。




「おい勇者、あそこでわめいている衛兵の顔を覚えておいて頂戴。あとで殺しに行くから」

「怖ぇ~。アリシアちゃん怖ぇ~……」

「2人とも、無駄話をしていると舌を噛みますよ?」




 銀色の髪をなびかせながら、風魔法で背後に突風を起こして推進力を生みだし続けてくれていたアリアさんがチラッと俺達の方へ振り返る。


 その碧い瞳は『イチャつく暇があったら集中しろ!』と言外に語っていた。


 別にイチャついてなんかないんだけどなぁ……。


 なんて思っていると、アリシアちゃんが俺の声を代弁するようにアリアさんに噛みついた。




「イチャついてない! いいからアンタは推進力を生みだし続けな! スピードが落ちてるわよ?」

「簡単に言ってくれますがね、魔力コントロールは繊細な仕事なんですからね!?」

「フッ……この程度の魔法で繊細だなんて、やっぱりカエル族は大したことないわね。だらしない」

「だらしない!? 今、ワタクシを『だらしない』と言いましたか、このデブ!? だらしない体形をしているクセに!」

「あぁんっ!? 喧嘩売ってんのかテメェ!?」




 誰の身体がだらしないだ!? と器用に旋回しながら後ろのアリアさんと言い争うアリシアちゃん。


 この2人、マジで仲悪すぎじゃない?


 クソコックとマリモ剣士並みに仲悪すぎじゃない?


 ちょっ、誰か麦わらの船長を呼んできてくれ!




「というかコレ、どこへ向かってるワケ? 秘宝は地下にあるんだよね? どっかに入口でもあんの?」

「あぁ、そう言えば勇者にはまだ教えてなかったわね。グレート・ブリテンへの入口は【玉座の間】にあるわ」

「【玉座の間】? どっかで聞いたなぁ……どこだっけ?」

「アソコですよ勇者様。ワタクシ達が帝国に来て初めてクロマーク宰相と出会ったあの部屋です」




 そこまで言われてピーンッ! とくる。


 あぁ、あのやたら絢爛豪華な椅子が置いてある大部屋か!




「えっ? あそこに地下への入口があるの? それらしいモノは見当たらなかったけど?」

「それはもちろん隠してあるからに決まっているでしょうが」




 そんな事を口にしながらも、衛兵たちの間をマグロのようなスピードですり抜けていくアリシアちゃん。


 滑走に慣れたのか、その声音には若干の余裕が漂っていた。


 頼もしいな、この子?


 俺が女の子なら今頃惚れているところだ。




「グレート・ブリテンへの入口はあのデブクロマークとロリっ子皇帝、そしてアタシとお兄ちゃんの4人しか知らないのよ。下手に入口が見つかって悪用されない為に、ね」

「もう既に悪用されていますけどね、クロマーク宰相に」

「うるさいわね。だから今、ソレを阻止するために急いでいるんでしょうが!」




 口ではガルガルッ! 言いつつも、身体は器用に右に左にと旋回して【玉座の間】を目指し続ける。


 そんな俺達の前に、今度は集団で衛兵たちが前方からやって来るのが見えた。




「ヤバイ! 滑り抜けるスペースがない!? どうしよう!?」

「何か策はないんですか、勇者様!?」

「もう1日1回のチート魔法は使っちまったし……クソっ!? アリシアちゃん、一旦引き返そう!」




 俺が操縦桿そうじゅうかん代わりに彼女の肩をグッ! と掴むと、何故かアリシアちゃんが「ハッ!」と鼻で笑いだした。




「引き返す? 冗談でしょ? 女が一度『突き進む』と決めたのならば【びない】【退かない】【うつむかない】ッ! もうアタシの『後退』って文字のタイヤは既に外してあるのよ! 故にっ! だからっ! このまま突っ切る!」

「カッコイイ……惚れそうだ」

「突っ切るって、正気ですかブーッ!?」

「ブー言うな!? ……まぁ見てなさいな!」




 そうニヒルに微笑むと、アリシアちゃんはどこからともなく杖を取り出してみせた。


 そのまま身体を加速させながら衛兵たちに急速接近し続ける。


 その姿はまさに女体を前にした男子中学生のような勢いで……危ない!? 色んな意味で危ない!?




「ヤバイ、ヤバいっ!? ぶつかる!? ぶつかるっって!?」

「勇者様、止めて、止めて!?」

「止めるって、どうやって!? 温かい布団に温かいご飯を用意して田舎でスタンバイしとけばいいの!?」

「それ【田舎に泊ま●う!】です! ソッチの『泊める』じゃなくて、ブレーキ、ブレーキッ!?」

「ブレーキって言ったって、女体サーフィンなんて初めてするし、どうやって止めればいいか分かんねぇよ!?」

「アンタら、ゴチャゴチャ言ってると舌噛むわよ!」




 困惑する俺達を無視して、ズンッ! とアリシアちゃんの身体がもう一段階加速する。


 もう衛兵たちは目と鼻の先だ。




「あっ、死ぬ。俺、死ぬわ」

「諦めないで、勇者様!? 諦めたらそこで人生終了ですよ!?」




 絶叫するアリアさんを横目に、俺は辞世の句を詠むべく精神を統一しようとして、




「今だっ! 土創成魔法ゴーレム・ロードッ!」




 瞬間、城の廊下がズモモモモモッ! と音を立てて変形し始めた。


 そのまま「な、なんだコレは!?」と困惑する衛兵たちの目の前で、粘土のように形を変えていく城の廊下。


 気がつくと、城の廊下は衛兵たちの頭上を通り抜けるように橋の形に変わっていた。




「うぉっ!? なにこれ、なにこれ!?」

「これはヘビ族が得意の土魔法!」

「2人共、振り落とされないようにしっかり捕まってなさいよ!」




 そう言ってアリシアちゃんは橋の上を滑走し始めた。


 ウォータースライダーの要領で衛兵たちの頭上を物凄い勢いで通り抜けていく。


 なんとも爽快感のある光景だった。




「スゲェっ! アリシアちゃん、スゲェよ! 惚れてしまいそうだ!」

「ふふんっ♪ どうよ? これがヘビ族の女の底力よっ!」

「……今回だけは素直に褒めてあげますよ」




 何とも言えない表情を浮かべるアリアさん。


 そんな彼女に勝ち誇った笑みを向けるアリシアちゃん。


 おぉ、本気で悔しがるアリアさんを見たのは何気に初めてかもしれない。


 これはレアシーンを見たぞ。




「さぁ、ここからノンストップで入口まで行くわよ!」




 アリシアちゃんは衛兵たちを振り切りながら上機嫌に身体を滑走させていく。


 この僅か数分でローションを巧みに使いこなす天性の技術……もしかしたら彼女の天職はソープ嬢なのかもしれない。


 そんな事を考えながら、俺達は【玉座の間】へと急いだ。

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