【帝都奪還おとり大作戦】が始動して15分後の【玉座の間】にて。
アリシアちゃんの機転により何とか衛兵たちを振り切ることに成功した俺達は、彼女に導かれるように【玉座の間】にドンッ! と鎮座する絢爛豪華な椅子の裏側へと集合していた。
「この椅子の裏側にあるスイッチを押せば、隠し扉が開く仕組みになってるわ」
そう言って乾いたローションでカッピカピになったアリシアちゃんが椅子の裏側にあったスイッチをポチッ! と押した。
その瞬間、
――ゴゴゴゴゴッ!
「勇者様、床がっ!」
「あぁ……まさかこんな目と鼻の先にあったとわ」
俺達の目の前で音を立てて床がスライドしていくと、地下へと続く階段がその姿を現した。
「これが超古代文明グレート・ブリテンへと続く入口……」
「ビビっている暇はないわよ、カエル族の姫」
「べ、別にビビッていませんけど!?」
若干声を上ずらせながらアリシアちゃんに噛みつくアリアさん。
う~ん、ちょっと怖がっている彼女も最高にプリティーだなぁ♪
なんて事を考えていると、俺達を先導するようにアリシアちゃんが階段を降りて行った。
「勇者様……」
「うん、行こう」
俺を見つめるアリアさんに頷き返しながら、アリシアちゃんの後を追うように階段を降り始める。
そんな俺の背後をピトッ! と密着しながら、おそるおそると言った様子でついてくるアリアさん。
途端に彼女の柔らかいお胸の核弾頭が俺の背中でその存在感をこれでもかと主張し始めて……マズイな。
もしこの場にアリシアちゃんが居なければ、俺は重大な性犯罪を犯すかもしれない。
アリアさんとは別の意味で恐怖に震えていると、
「あれ? 行き止まり?」
「道がありませんね……?」
まだ降りて数メートルしか経っていないのに、もう行き止まりに遭遇した。
「階段はここで途切れてますね?」
「アリシアちゃん、もしかして道を間違えちゃった?」
「んなワケないっしょ。まぁ見てなさい」
そう言ってアリシアちゃんはペタペタと行き止まりの壁を触り始めた。
すると、
――ブゥンッ! ゴゴゴゴゴッ!
「壁が割れてくっ!?」
「隠し通路ですか!?」
「違うわよ、カエル族の姫。これは隠し通路じゃない」
行き止まりだと思っていた壁が真っ二つに割れると、そこには6人程度の人数なら余裕で入れそうなスペースが広がっていた。
俺はコレを知っている。
商業施設や公共施設、果ては医療施設にまで常備されているデブの強い味方ッ!
そう、君の名は――
「これは超古代文明グレート・ブリテンが残した遺産の1つ。その名も――」
「エレベータ……ですか」
「いや知っとるんかい!?」
ドヤ顔を浮かべていたアリシアちゃんがガヤ芸人顔負けのリアクションでズッコケる。
相変わらず素晴らしい反応だが、俺もアリアさんも正直それどころではなかった。
「ゆ、勇者様……」
「あぁ……何でこの世界にエレベーターがあるんだ?」
「ナニ? 勇者もエレベーター知ってんの?」
チッ、つまんな~い。と舌打ちを溢すアリシアちゃん。
いやいや、チミ? これがどれだけヤバイ代物か本当に分かってんのかい?
つまり今から何百、何千年も前には現代日本と同じ技術がこのグレート・ブリテンで確立されていたって事だろ?
という事は、だ?
最低でもグレート・ブリテンは現代日本と同程度の技術を持っていることになる。
そしてグレート・ブリテンの秘宝は世界を滅ぼす兵器。
現代日本で世界を滅ぼす兵器など1つしかない。
「――核兵器かッ!?」
「カクヘイキ? ナニそれ勇者、お菓子?」
「お菓子じゃない……俺の居た世界の最恐最悪の兵器だよ」
俺は最悪の未来予想図に背筋を震わせながら、自分を落ち着かせるように1度だけ大きく深呼吸をした。
そんな俺の姿を不自然に感じたのか、アリアさんが「勇者様?」と俺の名前を呼んできた。
「どうしたんですか、そんな青い顔をして? らしくありませんよ?」
「そりゃ青くもなるわ。俺の予想が正しければ、グレート・ブリテンの秘宝は核兵器なんだから」
「さっきから『カクヘイキ』『カクヘイキ』って、なによその『カクヘイキ』って?」
「簡単に言ってしまえば、この地表にもう1つの太陽を作る兵器だよ」
「もう1つの太陽……ですか?」
コテンッ? と首を捻るアリアさんに、俺は小さく頷いた。
「上手く説明できないんだけどさ、その威力とヤバさから俺の居た世界では使用禁止になっていた超絶兵器だよ」
使用したら最後、その大地に住んでいる人間はほぼ必ず死ぬ。
生き残ったとして、大量の放射線により人体がイカれる。
人類が生んだ最低最悪の殺戮兵器。
「仮に核兵器じゃなくとしても、間違いなくソレと同等の兵器に違いない。グレート・ブリテンの秘宝……絶対に止めねぇと! 行こう2人共、時間が無い!」
「おぉ……急にやる気になったわね、この勇者? まぁいいけど」
「きょ、今日の勇者様、ちょっとカッコイイですね……腹立つことに」
いつもこうなら良かったのに……と無駄口を叩くアリアさんとアリシアちゃんをエレベーターに押し込む。
ボタンは……1つしかないな。
俺は迷うことなくボタンを押すと『下へ参ります』という女性の声と共に、エレベーターの扉が閉まり、ちょっとした浮遊感と共に地下へと落下し始めた。
「ここから地下500メートルまで一気に降りるわよ」
「なんだかお股がフワッとしますね?」
「リアクション薄いわねぇ、カエル族の姫? というかアンタ、なんでエレベーターを知っていたのよ?」
「それはもちろんエロ同人誌では鉄板のシチュエーションですから――なんでもありません。忘れてください」
「急にスンッ! ってなったわね、この女……?」
どこか逃げるようにアリシアちゃんの視線から顔を背けるアリアさん。
大丈夫だよ、アリアさん。
俺はちゃんと分かってるから。
人妻と一緒にエレベーターに閉じ込められてオセッセするシチュエーションは、寝取られの鉄板だよね!
アリアさん、そういうの大好きだもんね!
他には女の子が可哀そうな目に遭うシチュエーションとか大好物だよね!
夜中に2人でエロ同人談義をしたとき、そう力説してたもんね!
純愛
いやはや、本当に俺とは趣味の合わない女だ♪
俺が『可哀そうだと抜けない……』と抗議したら『こちとら可哀そうじゃないと抜けないんだよ!』と目を血走らせて熱く語ったあの日の夜を、俺はおそらく一生忘れないだろう。
なんて事を思い出していると、アリシアちゃんが「おっ!」と声をあげた。
「勇者、カエル族の姫。ちょっと窓の外を見てみな」
そう言って親指をクイクイッ! 動かして『アッチを見ろ』とジェスチャーを送ってくるアリシアちゃん。
俺とアリアさんは彼女の言う通り、透明な窓ガラスの向こう側の景色へと視線を移した。
そこには――荒廃した日本の東京のような景色が広がっていた。
「んなっ!?」
「これはっ!?」
「流石に2人共、コレには驚いたわね」
俺達のリアクションに満足したのだろう、アリシアちゃんは「むふ~♪」と鼻息を荒げながら、どこか自慢気に口をひらいた。
「それじゃ改めまして――ようこそ、超古代文明グレート・ブリテンへ」