帝国の地下500メートルにある超古代文明グレート・ブリテンの地へと足を踏み入れて5分。
俺とアリアさんは
「これがグレート・ブリテン……」
「す、すごいですね勇者様? ビルがこんなにたくさん……」
「あぁ……もはや東京の街並みだよ、コレ」
「ちょっと2人共?
呆気取られる俺達の尻を叩くように、アリシアちゃんの生意気そうな声音が耳朶を叩いた。
そうだった。もう作戦開始から既に20分は越えている。
残り40分でこのクソ広いグレート・ブリテンの地から世界を滅ぼすと言われている秘宝を見つけ出さなければっ!
「まぁ、どこにあるのかは一目瞭然なんだけどね」
「ですね」
アリアさんと頷きながら俺は明後日の方向へ視線を流した。
俺達の視線の先、そこには……この東京の景観を全力で破壊するように物凄いデカいパルテノン神殿がドンッ! と鎮座していた。
「絶対アソコにあるでしょ、秘宝?」
「流石は勇者、よく分かったわね」
「いや、流石もクソも丸わかりじゃない? 童貞の非童貞自慢くらい丸わかりじゃない?」
だってアソコだけ時代背景違うし。
なんか『ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ!』言ってるし。
逆にこの程度で褒められるとスゲェ恥ずかしいんだけど?
勘弁してください……俺は【なろう】主人公たちのように神から与えて貰った力を厚顔無恥にも『俺の力(笑)』とか言ってひけらかす残念な性格じゃないんです。
ごくごく普通の恥ずかしがり屋の天才探偵なんです。
「勇者様の言いたいことは何となく分かりますが、それよりも今は秘宝復活の阻止です。行きましょうっ!」
そう言って、もしもの時のためにオレイカルコスの腕輪を装着するアリアさん。
このパリス・パーリ帝国に来て約2週間、いよいよ最終決戦である。
俺達は改めて覚悟を決め直すと、パルテノン神殿へと足を踏み入れた。
神殿へと足を踏み入れると、青い巨大な人型の謎の壁画と赤と白の巨人が描かれた壁画が俺達の目の前に飛び込んできた。
「ナニコレ? 珍百景?」
「なんだか青い巨人と赤い巨人が戦っていますね? なんでしょうか、コレは?」
「――コレこそがグレート・ブリテンの秘宝ですよ、アリア殿!」
「ッ!? その声はっ!」
突如中年のオッサンの脂ぎった声音が俺達の肌を叩いた。
その薄汚い声に導かれるように視線を向けると、そこにはゴテゴテとした金色の装飾をした小太りのデブが居た。
俺達はこのデブを知っている。
マリーちゃん皇帝陛下から玉座を奪い、カエル族が暮らしている森を侵略してきた醜悪な肉袋。
その名も――
「クロマーク宰相ッ!」
「いやだなぁ、アリア殿。ワシのことはクロマーク皇帝と呼んで欲しい―ぶべらぁ!?」
瞬間、間髪入れず突っ込んだ俺のドロップキックがクロマーク皇帝代理の顔面を貫いた。
謎の奇声を上げながら背後へと倒れるクロマーク皇帝代理。
そんな皇帝代理のブヨブヨしたお腹の上に馬乗りになるなり、俺は何ら躊躇うことなくデブの顔面に拳を叩きつけた。
「ぶべっ!? ぼごっ!? ちょっ!? ちょっと待ってぶべら!?」
「おい勇者、ナニやってんだぁぁぁぁぁぁっ!?」
「勇者様、早い!? 判断が早いっ!? 戦闘民族ですか!?」
「いや、どうでナニを言っても戦闘だろ? 分かってんだよ、そんな事は。ならまどろっこしい事は抜きにして、さっさとヤッちまおうぜ?」
俺は笑顔でクロマーク皇帝代理の顔面に拳を叩き続けた。
そんな俺を前にクロマーク皇帝代理は『コイツ正気か!?』とでも言いたげな瞳で俺を見上げてくる。
ふふふっ、バカめ!
戦いに正気もクソもないんだよ!
戦いは【勝つ】か【負ける】か、【生きる】か【死ぬ】かの二択なんだ!
敵を前に調子ぶっこいて油断していたテメェが悪い!
恨むんなら自分の行動を恨むんだな!
なんて思っていると、クロマーク皇帝代理の懐が黄金に輝き始めた。
かと思えば、
――ブォンッ!
「うぉっ!? なんだっ!?」
「ちょっ、嘘でしょ!?」
「これは……風魔法!」
突然クロマーク皇帝代理を中心に突風が吹き荒れ、俺の身体がアリアさん達のもとまでゴロゴロと押し戻されてしまう。
な、何をされたんだ、今?
「大丈夫ですか、勇者様?」
「イテテ……ちょっと肘を擦り向いた。何だったんだ、今のは?」
「信じられないけど、今のは風魔法だ」
「ハァ、魔法!? なんで? 魔法はカエル族とヘビ族にしか使えないハズだろ!?」
アタシが知るか! と逆切れするアリシアちゃん。
そんな彼女の目の前でマッシュポテトの如く顔をグッチャグチャ♪ にされたクロマーク皇帝代理がゆっくりと立ち上がった。
その瞳は俺への憎悪でいっぱいで、おっとぉ?
もしかしたら惚れられらかもしれない。
「うぐぐぐ……っ!? この礼儀知らずのサルがっ! 人が喋っている時とヒーローが変身している時は攻撃してはならぬと教わらなかったのか!?」
「うるせぇ! 戦いに正論はいらねぇんだよ! 勝てば正義だ!」
「キサマそれでも勇者か!?」
ボロボロと涙を零しながら俺を批難してくるクロマーク皇帝代理。
その右手には金色に輝く黄金の玉が握られていて――あっ!
「オッサン、その玉は!?」
「オッサン言うな! お前だけは絶対に許さんからな!」
そう言ってクロマーク皇帝代理は黄金の玉を強く握りしめた。
途端に何故か俺の玉座に甘い痛みが走る。
あのタマは……間違いないっ!
ソレはもはや直感とかそういうモノとかではなく、俺の本能が、魂が叫んでいた。
あの黄金に輝く金の玉は間違いなく、
「俺のタマだ!? あのタマは俺のタマだっ!」
「ッ! アレが勇者様の!」
「通りでとんでもない魔力を宿っていると思った」
アリシアちゃんが『納得だわ』と頷く横で、俺も納得していた。
間違いなく、あの金色の玉は俺の失われた
ようやく見つけたぞ!
「なるほど、あの勇者様の玉を媒介に魔法を使ったワケですね」
「粋なマネをしてくれるじゃない」
「返せ、俺のおいなりさんっ!」
知的でクールな俺らしくなく、つい感情的に怒鳴ってしまう。
そんな俺を見てクロマーク皇帝代理はグチャグチャの顔のままニッチャリ♪ と邪悪に笑った。
「返すワケがなかろうが。コレはグレート・ブリテンの秘宝を……巨人兵を蘇らせる鍵なのだからな!」
「キョシンヘイ?」
なんだそれ?
グレート・ブリテンの秘宝は核兵器じゃないのか?
と俺が怪訝そうに眉根を寄せたその瞬間、クロマーク皇帝代理が持っていた俺の
それと同時に皇帝代理の背後の床が割れ、下から『ゴゴゴゴゴッ!』と青い肉塊が姿を現した。
「うわっ!? なんだソレ、キメェ!?」
「あ、あの肉塊、脈を打ってますよ勇者様!?」
「えっ、じゃあアレ生き物なの!?」
完全にドン引きする俺とアリアさんを前に「当たらずとも遠からずと言ったところか」と不敵な笑みを浮かべるクロマーク皇帝代理。
巨大な心臓のように大きく脈を打つ青い肉塊は、見ているだけで不快感が凄まじかった。
どれくらい不快かといえば、小太りのオッサンがピッチピチのマイクロビキニで登場してくるくらい不愉快だった。……ナニそれ? 見る特級呪物かよ?
「美しいだろう? コレは巨人兵の卵さ。コイツにこの金の玉の魔力を吸わせることで成長させているのだよ。今はまだ成長途中だが、明日の晩までには完全変態を遂げ、ワシの最強の下僕としてこの世界に君臨するだろう!」
「テメェッ!? 人のおいなりさんを勝手に使ってワケの分からんモノを誕生させようとすんな! 気持ちワリィんだよ!」
「チッ……口の悪いクソガキめ。まぁよい、この場に我が伴侶を連れて来た事に免じて、その不敬な物言いは許してやる」
そう言ってクロマーク皇帝代理は「ふひっ♪」と目尻をいやらしく歪めてアリアさんに視線をよこした。
「どうですかな、アリア殿? ワシの力は? ワシの花嫁になれば世界の半分は「風魔法シルフ・フィストッ!」――ぶべらっ!?」
瞬間、アリアさんの放った風魔法で頬をぶん殴られたクロマーク皇帝代理が明後日の方向へぶっ飛んでいく。
その一瞬の隙を逃がさないように、俺はすぐさまクロマーク皇帝代理に急速接近し、再びデブのマウントを奪うと、
――ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!
容赦なく皇帝代理の顔面に拳を叩きこみ続けた。
「ちょっ!? まっ!? まだ話の途中――ぶべらっ!?」
「今です、勇者様! そこっ! もっと抉り込むようにっ!」
「了解! くたばれエロジジィィィィ――ッ!」
「ちょっとぉぉぉぉぉっ!? 今ソイツ何か大事な事を言おうとしてなかった!? ナニやってんのよ、アンタら!?」
俺の背後でアリシアちゃんが絶叫をあげていたが、構わず小太りのデブの顔面を殴り続ける。
お前が泣いても殴るのは止めない!
その確固たる信念をもって、クロマーク皇帝代理の顔面を笑顔で殴り続ける。気持ちいい~♪
「おいコラ!? 一旦殴るのをやめろ勇者ッ!? 話しが進まねぇから!?」
「いやもう話し合いとかよくない? 秘宝が核兵器じゃないなら、もうコイツにビビる必要なんかないし。チャッチャっと片付けようぜ。ねぇ、アリアさん?」
「そうですね。時間もないですし、3人でさっさとボコボコにしましょう」
「鬼かアンタら!? ボコボコにするにしても、せめてソイツの言い分くらいは聞いてやろうや!?」
「えぇ~っ? 別にいらねぇよなぁ、アリアさん?」
「そうですね、勇者様の言う通りです。どうせこのあと『花嫁になれば世界の半分をくれてやる』みたいな事を言ってワタクシを口説こうとするんでしょ? いりませんよ、世界の半分なんて。どこの竜王ですか、アナタは?」
「『リュウオウ』ってなんだ!? つぅか仮にも世界の王になろうとしている男が、そんな三流のザコボスみたいなベタな台詞を言うワケがないでしょうが! なっ、クロマークのオッサン?」
「…………」
「あっ! コイツ、目ぇ逸らした! 目ぇ逸らしたよ、アリシアちゃん!」
「言うつもりだったんだ!? そんなクソみたいなベタな台詞、言うつもりだったんだ!?」
「ほら、ワタクシの言った通りでしょ?」
背後でドヤァ! と自慢気に胸を張るアリアさんの姿が簡単に想像できた。
そんな彼女の横でもう考えるのが面倒臭くなったのか、アリシアちゃんがヤケッぱちの声音で「もういいや、やっちゃえ勇者ァァァァッ!」と俺に声援を送り始める。
よっしゃ、気合入った!
「歯ァ食いしばれ三下ぁ! 行くぞ、撃滅のセカンド・ブリ――」
「ぐぬぬぬぬっ!? うるさぁぁぁぁぁぁ――いっ!」
俺が天高く拳を振り上げ、クロマーク皇帝代理の顔面に力いっぱい振り下ろそうとした、その瞬間。
カッ! とクロマーク皇帝代理が持っていた俺の大秘宝が強く光った。
刹那、クロマーク皇帝代理を中心に衝撃破が神殿を襲い、俺はアッサリとアリアさん達の方へと吹き飛ばされた。
「うぉぉぉぉっ!?」
「あ、危ない勇者様!?」
「ちょっ、大丈夫なの!?」
ガシッ! と2人に身体を支えて貰いながら、何とかその場に踏みとどまる。
助かった、サンクス2人共!
とお礼の言葉を言う前に、クロマーク皇帝代理が持っていた俺のタマタマが一際強く輝き始めた。
「こ、今度はなんだ!?」
「ま、眩しいです!?」
「この魔力の放出量、尋常じゃないわ。あのオッサン、何かする気だわ!」
ピカピカと輝く光の奔流に身体を
そんな彼女を
「まだ不完全だが仕方がない。ワシの顔を傷つけたその罪、万死に値する! よって小僧、キサマは我が最強の下僕の力でぶっ殺してやるわ!」
瞬間、目を覆うほどの激しい光が、あの巨大な青い肉塊へと吸い込まれて行った。
な、なんだ?
何をする気だ、アイツ?
「じ、地面が揺れてるしっ!?」
「おいおい、このタイミングで地震かよ!? 最悪だ!?」
「いえ、地震ではありませんっ! これは……心音ですっ! あの青い肉塊の心音で地面が揺れているんです!」
アリアさんの言う通り、例の青い肉塊に視線を寄越すと、ドクンッ! ドクンッ! とバキバキチ●ポのように激しく脈動していた。
その脈動の震えが地面へと伝わり、母なる大地が絶頂直後の生娘のように震えている……こ、これは一体?
「フハハハハハッ! 引き金を引いたのはキサマだぞ、小僧っ! さぁ蘇れ! 究極破壊兵器――巨人兵よ!」
――
クロマーク皇帝代理の高笑いをかき消すように、獣の如き怒声が大音量で俺達の身体を駆け巡る。
それと同時に、
――ブシュウッ!
と音を立てて青い肉塊から謎の手が生えて来た。
謎の手は肉塊を突き破って現れると、メリメリメリメリッ! と力づくで肉塊を左右に割ると、中から青い身体をした巨人が姿を現した。
全長はおそらく軽く20メートルはあるだろうか?
呼吸と同時に口から青い炎を吐きながら、ギョロギョロと緑色の瞳で辺りを見渡していた。
「な、なにこの化け物……デカ過ぎじゃない!? こんな奴をどうやって止めろって言うのよ!?」
「これが世界を滅ぼしかけたグレート・ブリテン秘宝……巨人兵ッ! なんて禍々しいオーラと魔力ッ!?」
「ねぇ、あいつジ●リに居なかった? ジ●リに居たよね? ねぇ?」
君、風の谷あたりに住んでなかった? と俺が尋ねるが青い巨人は一向に俺達の方を見向きもしない。
それどころか何かを探すように、ずっと目玉をギョロギョロッ! させるばかりで……うん?
何をやっているんだ、あの巨人は?
「ブハハハハハッ! 素晴らしい! なんて禍々しいフォルムッ! まさに世界を統べるワシに相応しい兵器ぞ!」
『
――ギロリッ!
上機嫌に高笑いをしていたクロマーク皇帝代理の姿を、あの青い巨人が捉える。
そんな巨人を見て、クロマーク皇帝代理は「そうだっ!」と声を張り上げた。
「ワシがキサマの主だ! さぁ、あそこに居る古憎たらし小僧を殺してしまえ!」
クロマーク皇帝代理の号令を合図に、青い巨人がゆっくりと動き出す。
命令通りその巨大な手で俺を捕まえる……ことなく、何故かクロマーク皇帝代理の身体をガシッ! と鷲掴みにした。
そのまま「こ、これ!? なにをするか!?」と暴れるクロマーク皇帝代理を無視して、代理を口元まで持って行くと、
――パクンッ!
「あっ!?」
「た、食べた!? クロマークのオッサンを食べたぞ、アイツ!?」
「もしかして……不完全に復活させてしまったから、制御が出来ていないのでしょうか?」
驚く俺とアリシアちゃんを横目に、冷静にその場を分析するアリアさん。
なんて頼もしいんだ、
――とか言ってる場合じゃねぇ!?
「あの巨人、俺のタマタマも一緒に食いやがったぞ!?」
「あっ、確かに。この場合、勇者のアレはどうなるワケ?」
「どうもこうも、食べられたワケですからね。胃袋で消化されるんじゃありませんか?」
「ふざけんな!? ここまできて胃袋で消化されてたまるか!?」
返せ、俺のおいなりさんっ! と俺が怒声を張り上げたその瞬間、
――
「瞳に魔力が集まって……ねぇ? ちょっとアレ、ヤバくない?」
「ッ!? 勇者様、コッチへ! はやくっ!」
「えっ? あっ、はい」
ワケも分からず言われるがままにアリアさんの元まで駆け寄る。
なになに? と小首を傾げながら彼女の元まで近づくと、
――ガバッ! ギュッ!
唐突に俺の身体に抱き着いてきた。
「えっ? えっ!? アリアさん!? そ、そんなっ!? こ、こんな場所でっ!? だ、ダメだよ、お天道様が見てるよ……。そ、そういうのは夜景がキレイなレストランで愛を囁いたあとで――」
「ブーッ! 土魔法で壁を作ってください! それをワタクシが風魔法でコーティングします!」
「ブー言うなっ! ったく!」
俺が少女漫画のヒロインのようにアリアさんにトゥンク☆ している間に、2人は杖を片手に呪文を詠唱し始めた。
「土魔法ゴーレム・ウォールッ!」
「風魔法シルフ・ウォールッ!」
モコモコモコッ! と俺達の前に土の壁が出来上がると、ソレを囲うように風が物凄い勢いで吹き始める。
それと同時に、青い巨人の目が一際強く輝いて――
「きますっ! 全員、対ショック体勢っ!」
アリアさんがそう叫んだ瞬間。
目を焼かれるほどの真っ白い光が俺達を包み込んだ。