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第27話 一流の探偵に必要なモノって何だと思う?(急にナニを言い出したのさ、勇者の兄ちゃん?)

 目を覚ますと人間の身体に戻っていた。




「うぐぐ……痛い……」




 地面に前のめりで倒れていた身体を無理やり起こそうとするも、身体に力が入らない。


 もう指先1つすら動かせる気がしない。


 とんでもない疲労感だ。


 なんなら呼吸するのも億劫になるくらいだ。




「もう2度と巨人にはならねぇからな……」




 誰に言うでもなくそう呟きながら、ハタッ! と気がつく。


 俺の目の前で、誰かが倒れている事に。


 ソイツは下品なまでに金色の装飾をした服を身に纏った小太りのデブで、俺達の前で青い巨人に食われた――




「クロマーク皇帝代理! 生きていたのか!?」




 弱々しい呼吸音だが、確かにちゃんと生きているクロマーク皇帝代理の右手から金色の玉がコロコロと転がり落ちる。


 ソレは俺がこの世界にやって来てずっと探し求めていた大切な、




「タマァ! 俺のタマァっ! 会いたかったぞ、我がムスコよ!」




 俺は喜び導かれるように、我が下半身の大秘宝へと手を伸ばしイデデデデッ!?


 クソっ!? 疲れすぎて身体がピクリとも動かねぇ!?




「チクショウ!? もう目の前にあるっていうのにっ! 目と鼻の先にあるっていうのにっ! 何で俺の身体は動かない!?」




 動け、このポンコツボディーッ! と俺が悲鳴に近い怒声をあげていると、ヌッ! と何者かが俺の横を通り過ぎた。




「いやぁ、助かったよ兄ちゃん! やっぱりオレ様の見込んだ通りの男だったね♪」




 そう言って赤髪の男は、地面に転がっていた俺の大秘宝ワ●ピースをひょいっ! と持ち上げ、懐にしまい込んだ。


 この飄々とした喋り方……間違いない、あの男だ!




「アルシエルッ!」

「やっほ、兄ちゃん♪ 2週間ぶりッ子~☆」




 元気だった~ん? と実に軽薄な口調で俺の頬をツンツン突いてくる、ヘビ族の長。


 滅茶苦茶ウザかったが、それよりもまずはっ!




「返せ! 俺のタマタマッ!」

「あぁ、兄ちゃんダメだよ。そんなに無理に動いちゃ? 巨人化の影響で身体中の筋繊維がズタズタのボロボロなんだから」

「うるせぇぇぇぇぇぇっ! 返せ、俺の元気玉ぁぁぁぁぁっ!」

「ゼッハッハッハッハッ! 兄ちゃんは今日も元気だなぁ!」




 カラカラと上機嫌に笑いながら、アルシエルは懐から透明な水晶を取り出してみせた。


 なんだ、アレ?


 怪訝そうな顔で水晶を見上げる俺に、アルシエルはオモチャを自慢する子供のように瞳をキラキラさせながら、




「コレね、【簒奪さんだつの宝玉】って言ってね、オレがグレート・ブリテンの遺産で本当に欲しかったモノなんだよね!」




 でもこの宝玉、巨人兵の心臓部分に使われていてさぁ、手に入れるには巨人兵を復活させないといけなかったんだよねぇ。


 と、機嫌がいいのか聞いてもいないのにペラペラと喋り続けるアルシエル。


 そんな事よりも元気玉を返せ!


 もしくは医者を呼んでこい!


 今の俺の状況が分からないのか!?


 マジで死にかけているぞ、俺!?




「いやぁ、ここまで長かったなぁ! クロマークのオッサンをそそのかして玉座を奪わせたり、兄ちゃんの元気玉を利用して巨人兵を復活させたり、復活した巨人兵を兄ちゃんに倒して貰うように裏で暗躍したり……もう本当に大変だった!」

「ちょっと待て? アルシエルお前……今回の件は全部テメェが仕組んだ事だったのか!?」

「あれ? 勘のいい兄ちゃんにしては、まだ気づいていなかったのん? そうだよ、全部オレ様のシナリオ通りさ♪」




 イェーイ! と上機嫌に顔の前で横ピースを決めるアルシエル。


 そのあまりにプリティーな仕草を前に、首だけ抱きしめてやろうかと思った。




「ありがとう、兄ちゃん! おかげで楽に宝玉をゲッチュする事が出来たよ♪ ほんと愛してる❤」

「おいおい? いい加減その薄汚い口を閉じねぇと、そこのクロマーク皇帝代理の唇でテメェの唇を塞いじゃうぞ?」

「おぉ、怖い、怖い!? 怖いから……さっさと宝玉の力を使っちゃお♪」




 そう言ってアルシエルは手に持っていた水晶を俺に向かって掲げてみせた。


 その瞬間。


 ――ズァッ!?


 俺の身体から赤いモヤのようなモノが全身から噴き出した。




「うぐぁっ!? あ、アルシエルッ! テメェ、一体ナニを!?」

「大丈夫、大丈夫! 苦しいのは一瞬だけだから♪」




 ほい回収❤ とアルシエルの持っていた水晶が光り輝くと、吸い込まれるように赤いモヤが水晶の中へと消えて行った。


 途端にズンッ! と急激に重くなる俺の身体。


 理屈とか抜きに、感覚で分かった。


 俺は今、抜かれてはいけない『ナニカ』を奪われた!


 まるで胸の真ん中にポッカリと穴が空いたような感覚に襲われていると、アルシエルの持っていた透明な水晶が真っ赤に染まっていた。




「これは綺麗なクリムゾン色だね♪ 流石は初代王の血を引いているだけはあるよ」

「初代王? 何言ってんだ? というか、何をしやがったテメェ!?」

「ん~? そうだねぇ。簡単に言ってしまえば、兄ちゃんの身体から魔力を抜いたの♪」

「魔力を……抜いた?」

「そっ♪ だから、兄ちゃんはもう魔法が使えない」




 ここに封印しちゃったからね♪ と血よりも真っ赤な水晶を俺に見せつけてくるアルシエル。


 という事はアレか?


 俺は今、1日1回使えるチート魔法を失ったワケか? マジでか!?




「テメェ、俺のタマタマだけじゃなくて魔法の力まで奪うのかよ!? どんだけ欲張りハッピーセットなんだ!?」

「それがオレ様だからね♪ さてっ! 兄ちゃんから必要なモノは全部貰ったし――もう死んでいいよ❤」




 そう言ってアルシエルは俺から奪った魔法の力が詰まった水晶を月に掲げてみせた。


 その瞬間、水晶から光の弓矢が俺の身体めがけて飛んできて……ちょっ!?




「危ねぇ!?」




 生命の危機に瀕した身体が火事場の馬鹿力をフルに発揮し、ゴロゴロと真横へ転がった。


 パッ! と俺の居た場所へ視線を寄越すと、そこには光の矢が深々と地面に突き刺さっていて……おいおい?




「マジで殺す気かよ!?」

「だからそう言ってんじゃん?」




 アルシエルは再び俺に向かって水晶を掲げた。




「これ以上兄ちゃんを生かしておくのはデメリットの方がデカいからね。オレ様の輝かしい未来の為に死んじょくり♪」

「ふざけんな! もう一度ムスコと再会するまでは、死ぬワケにはいかねぇんだよ!」




 怒声を張り上げながら、残った力を振り絞りポケットから巨人化のペンライトを取り出した。


 コイツがいかに強かろうが、巨人の力には敵わない。


 喰らえ、クソ野郎!


 俺は心の中でアルシエルを罵倒しながら、ペンライトのスイッチを押し、赤き巨人へと姿を変え――




「あれ!? 巨人になれない!? なんで!?」

「そりゃ無理だよ♪ だって兄ちゃんの力は全部【簒奪の水晶】で奪っちゃったもん♪ もう兄ちゃんには赤い巨人になる能力は無いよん❤」




 残念でしたぁ~♪ 人を小バカにしたように笑うアルシエル。


 俺はそんなアルシエルを無視して何度もペンライトのスイッチを押した。




「クソっ、諦めてたまるか! 変身ッ!」

「だから無理だってばぁ~。いい大人なんだから、ちゃんと現実を受け止めないとぉ~?」

「俺は大人の前に1人の探偵なんでね、諦めが悪いんだよ!」




 探偵ぃ~? と不可解そうに小首を傾げるアルシエル。


 そんなアルシエルの前で何度もカチカチッ! とペンライトのスイッチを押しながら、俺はニヒルに微笑んだ。




「なんだ、お前? 探偵を知らねぇのか? 遅っくれってるぅ~♪」

「……探偵くらい知っているさ。アレでしょ? 事件を解決に導くプロフェッショナルでしょ?」




 アルシエルが一瞬だけムカッ! とした表情を見せた。


 初めてコイツから感情らしい感情を垣間見た気がする。


 勝利を確信して気が緩んだのだろうか?


 だとしたら、コイツは探偵には向いていないな。




「それは三流の探偵だ。一流の探偵は違う」

「違う?」

「あぁ。お前、探偵に必要なモノはなんだと思う?」

「それはもちろん、難事件を解決する圧倒的な推理力でしょ?」

「……やっぱりお前、探偵には向いてねぇわ」




 小バカにしたように笑ってみせると、アルシエルの笑顔が若干崩れた。


 さんざん煮え湯を飲まされた手前、一矢報いる事が出来て気分がいい。


 だからこそ、今度は俺の方が上機嫌に口を開いてしまった。




「探偵に必要なモノは推理力でも閃きでもない」




 この世の全てを既知きちへと変える、圧倒的な知識量?


 それとも他の追随を許さない武力で事件を解決する事ができる戦闘力?


 もしくは円滑に情報を引き出すコミュニケーション能力?


 いや、違う。


 本物の探偵に必要なモノ、それは――




「――絶対に諦めねぇ、鋼の如きド根性だッ!」




 瞬間、再び俺の身体に赤い光が迸った。


「んなっ!?」と驚き距離をとるアルシエル。


 そんなヘビ族の長を無視して、赤い光は俺の身体へと収束していく。


 途端に俺の身体が赤い巨人へと再び姿を変えた。




「あ、ありえない!? お前にはもう巨人になる力は残っていなかったハズだ!?」




 初めて狼狽える姿を見せるアルシエル。


 テメェには一生分かんねぇよ。




「ふ、ふんっ! だからどうした? 巨人になろうが、所詮は残りカス! オレ様の敵ではないわっ!」




 そう言ってアルシエルは赤い水晶を天高く掲げて叫んだ。


 途端に赤い水晶が、眩いばかりの光を放ち輝き始める。


 刹那、俺は本能的に理解した。


 アレは……俺の1日1回使えるチート魔法ッ!?


 アイツ、俺から奪うだけじゃなくて、奪った力も使えるのか!?


 そんな俺の疑問に答えるかのように、




「蘇れ、巨人兵よ!」




 瞬間、アルシエルの身体に青い光が纏わりつく。


 それと同時に奴の身体が青い巨人へと姿を変えた。




GAAAAAAAAAぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉAAAAAぉぉぉぉぉッ!?』




 アルシエルの青い巨人が獣の如き怒声をあげた。


 その瞳は俺への明確な殺意が迸っていて……上等だ。


 テメェを倒さなきゃ誰も守れないっていうのなら、俺が今、ここでテメェをぶっ倒す!




GAAAAAAAAA大儀の為に死ね、勇者ッ!』

URAAAAA来いよ、三下。AAAAAAAAAA格の違いを見せてやるッ!』




 刹那、お互いの拳が相手の顔面に突き刺さっていた。

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