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第28話 真ん中から打ち砕く! 俺の自慢のこの……ビームでぇぇぇぇぇっ!!(このクソ異世界人がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?)

 巨人化したお互いの拳の一撃により、磁石が反発するように真後ろへと吹き飛ぶ俺とアルシエル。


 その巨体から放つ一撃が帝国全土を揺らし、大気を震えさせた。




GAAAAA殴ったなッ!? GAAAAAAAAA親父にも殴たれたことAAAAないのにッ!」

URAAAAAA殴って何故悪いかッ!』




 白い悪魔の搭乗者のように恨めしい視線を向けてくる青い巨人ことアルシエルに、俺はホワイトなベースに居る館長のような事を叫びながら再びアルシエルを殴りに行った。


 アルシエルも拳を振り上げるが、その動きは緩慢で、




URA遅いッ!』

GAAうぐっ……ッ!?』




 俺の右拳が青い巨人の顎を打ち抜く。


 そのまま流れるように左拳を脇腹へ叩きこんだ。




GAAコイツ……ッ!?』




 青い巨人と化したアルシエルは苦悶の声音をあげながら、赤い巨人と化した俺に反撃しようとしてくる。


 が、その攻撃は大振りで、すかさす奴の顔面にカウンターの左拳を放り込む。


 それだけで簡単に青い巨人は真後ろへと後退した。




GAAクソッ!? GAAAAAAAこの身体、魔法がAAAAAA使えないのかッ!?」




 殴られた顔面を左右に振りながら、忌々しそうに声音を漏らすアルシエル。


 そんな青い巨人を尻目に、俺は不思議な感覚に襲われていた。


 なんか、前に戦った青い巨人よりもやり易いな?


 2度目の巨人化で戦い方に慣れたせいか?


 ……いや、違う。




GAAAAチクショウッ!? GAAAAAAAA魔法さえつかえればAAAAAこんな奴ッ!』




 アルシエルが拳を振り上げて俺へと殴りかかって来る。


 その拳を軽く受け流しながら、右の上段回し蹴りを放り込む。


 こんな大振りで大味の技、普通なら躱される。


 だが、アルシエルは俺の回し蹴りを躱すでも受け流すでもなく、真正面から顔面で受け止めた。


 瞬間、アルシエルの巨体が建物を巻き込みながら盛大に倒れる。




GAA痛ぇッ!? GAAクソ……ッ!?』




 両手で顔を抑えながら、痛みをこらえるようにその場で悶絶するアルシエル。


 そんな青い巨人を見て、俺は確信した。


 やっぱりだ!


 この男、喧嘩素人ト―シローだ!


 そりゃ、考えればそうか。


 これまでの言動から推察するに、おそらくこのアルシエルという男は、生まれた頃からその絶大な魔法力で物事を全て解決してきたのだろう。


 あの性格だ、荒事に巻き込まれた事なんぞ1度や2度じゃないハズだ。


 きっとそのたびに、その圧倒的な魔法の才能で周囲を黙らせてきたに違いない。


 そんな男が殴り合いの喧嘩のやり方なんて知っているワケがない!




URAAAAAA巨人になったのはAAAAAA悪手だったなッ!』




 人間の姿なら、もしかしたらもう少し善戦出来たかもしれないが、俺に釣られて巨人化してしまったのが運の尽き。


 慣れない肉体戦に巨人の身体が追い付いていないっ!


 その証拠に欠伸が出るほどトロいパンチが俺めがけて放たれる。


 おいおい、アルシエルさんよ?


 そんなへなちょこパンチじゃ――




『――URAAAAA俺は殺せねぇぞッ!』




 アルシエルの巨人パンチを掻い潜り、懐へとダッキング。


 よく見とけよ、ボンボン?


 本物のパンチって言うのはなぁ……




URAAAAAこう打つんだよAAAAAAぉぉぉぉぉぉッ!』




 そのまま全身のバネをフルに使い、青い巨人めがけて全力のアッパーカットを繰り出した。


 アルシエルは悲鳴すらあげることなく背後へ倒れる。


 痛みでまともに動けないのか、その場で悶絶しながらゴロゴロと回りの民家や建物を巻き込んで悶え苦しみ出す。


 そんなアルシエルを尻目に、両腕にエネルギーを収束させていった。




GAAAAうぎぎぎぎ……ッ!? GAAAAA絶対に許さんッ! GAAAAAAAお前だけは絶対に――ッ!?」




 痛みに耐え、ボロボロの身体で立ち上がったアルシエルの瞳が大きく見開かれる。


 奴の視線の先、そこには……巨人エネルギーの溜まった両腕をクロスさせ構える俺の姿だった。


 刹那、アルシエルが分かり易く狼狽え始める。


 そりゃ狼狽えるよな?


 だってこの技は……その青い巨人をぶっ飛ばしてやった技なんだからな!




『――URAAAAAコレで決まりだッ!』

GAAAAAちょっと待てッ!?』




 命乞いを始めるアルシエルを無視して、俺はクロスさせた両腕から熱線を放出した。


 放たれた熱線が無防備な青い巨人の身体を貫くと、巨人の身体が歪な形で膨張し……花火のように盛大に弾けた。


 巨人の肉体の欠片と血液が、小雨のように帝国の街並みに降り注ぐ。


 そんなこの世の終わりのような光景の中、血みどろの姿でソイツは町中に立っていた。




「クソ……っ!? やってくれたな……異世界人ッ!?」




 笑顔という名の仮面を取り外し、疲労困憊、満身創痍な状態で俺を睨むアルシエル。


 まだ生きていたか。


 俺は奴にトドメを刺すべく、踏みつぶそうと右足を上げ、




「お兄ちゃんっ!?」




 アリシアちゃんが俺達の間に割って入った。


 瞬間、思わず振り下ろそうとした足を止めてしまう。


 その一瞬の隙を縫うように、アルシエルが懐から杖を取り出した。




「転移魔法ワプ・ワープッ!」




 ヤバイ、逃げられる!?


 そう思い、慌てて巨人の手で2人を掴みにかかるが、


 ――ヒュンッ!


 紙一重でウエストウッド兄妹は姿を消した。


 巨人の超強化された聴覚で居場所を探り当てようと集中するも、聞こえてくるのは帝国民たちの悲鳴と怒声の声だけ。


 おそらく、もうこの近くには2人とも居ないのだろう。




URAAAAAAクソ、逃げられた……』




 アルシエルをボコボコにする事は出来たが、大切な大秘宝ワ●ピースを持って行かれた。


 勝負に勝って、試合に負けた気分だ。


 ……まぁいい。


 この先、旅を続けていればまた奴とは出会うだろう。


 その時こそ、全ての因縁に決着をつけてやる!


 決意を新たに俺は1人静かに拳を握りしめ、



 ――ガクンっ。



 その瞬間は唐突にやってきた。




URAAAAあっ、ヤッベ……』




 膝が折れ、全身の包むのは激しい痛みと気が狂いそうになる程の倦怠感けんたいかん


 あんなに澄み切っていた脳内はモヤがかかり、ズキンッ! ズキンッ! と鈍い痛みが頭痛となって俺を襲い始める。


 この感覚には覚えがある。


 というか、ついさっき味わった。




URAAAAチクショウ、AAAAAAAAエネルギー切れだ……』




 途端に俺の身体から赤い粒子が拡散していく。


 みるみると巨人の身体から人間体の身体へと縮んでいくマイ・ボディー。


 もうマジで1歩も動けねぇ。


 気がつくと俺は前のめりで地面に倒れていた。




「こ、呼吸するのもシンドイ……死ぬ」




 もう指先1つすら動かせる気がしない圧倒的な疲労感。


 もはや呼吸するのもキツイ……。


 本格的に身体にガタがきているらしい。


 こりゃダメだ。




「クソったれめ……っ! 死んで……たまるかぁぁぁぁぁっ!」




 スゥーッ! と前進を襲っていた痛みが遠ざかっていき、抗いがたい眠気が俺を襲う。


 あっ、ヤバい。


 多分これ、寝たら死ぬな?


 そう確信しつつも、ゆっくりと閉じていくまぶたを止めることが出来ない。




「勇者様ッ! 勇者様ぁぁぁぁぁぁっ! 居たら返事をしてくださぁぁぁぁい!」

「おい、返事をしろ勇者殿! まったく、妾を心配させるなんぞ不敬罪でしょっ引くぞ?」

「アリア様がおっしゃるには、この辺りに……居たっ! 居ました! 陛下、勇者くん居ましたっ!」




 乙女たちの姦しい声が俺の耳朶を震わせた。


 俺は砂のように霧散していく意識の手綱を必死に握りしめながら、声のした方向へと耳を澄ませた。


 ドタドタと倒れている俺の前までやってくる足音は3人。


 俺はこの声を、足音を知っている。




「でかしたソフィアっ! ……うん? なんじゃコヤツ、こんな所で寝ておるのか? 呑気な奴じゃのう」

「違います陛下、寝ているんじゃなくて死にかけているんです! ワタクシの首にある【使い魔契約】の呪文ルーンが言っています、勇者様は死ぬ1歩手前だと! 恐らく巨人化した影響で酷く衰弱しているんだと思われます!」

「な、なにぃっ!? それを早く言わぬか! ソフィア、急いで勇者殿を医務室へと連れて行くのじゃ!」

「ハッ、陛下! ……勇者くん、ちょっとゴメンね?」




 ガバッ! と誰かが俺の身体を持ち上げる感触だけが全身に伝わる。


 衣服越しだが、一肌の温もりが酷く優しい。


 疲れた身体に染み渡るようだ。




「脈が弱いっ!? 勇者くん、しっかり!?」

「おい、寝るな勇者殿! いつものバカみたいな元気はどこへ行った!?」

「勇者様っ! 起きたら陛下がスケベなお礼をしてくれるらしいですよ! それはもう口にするのもおこがましい、ドスケベなお礼ですよ! だから起きてください、勇者様!」




 アリア、キサマッ!? ナニを勝手な事を!?


 とロリっ娘の悲鳴に近い怒声が肌を叩く。


 その何とも心地の良いやり取りに気が抜けてしまった俺の指先から、意識の手綱がスルスルと放れていった。


 瞬間、俺の意識は暗闇へと落ちて行った。

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